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#62 少女は少年を危険視する

「もう、そんなこと言ってもね、カビが生えたら衛生的にも悪いし」


「ああっ、私の爪楊枝……!」


 ジッパーに入りかかっていた爪楊枝を取り上げ、ビニル袋へ粗雑に入れる。

 あああ、という悲壮な表情をする彼女。まあ、無視である。


 ――やはり、油断ならない。

 少しでも気を抜こうものなら、気づかぬ間に彼女の(自称)コレクションが増えている。


「あとちょっとだったのに……」


「そんなこと言っても、いつも言ってるだろ? 食べ物系は絶対ダメだって」


 むう、と。頬をプクッと膨らせて不満を顕にする。かわいい。


 とか、そういう問題じゃない。かわいいのはたしかだけど、だからといってこの薬練の収集癖、特に食べ物に関するものは、絶対にやめさせないといけない。

 ついこの間だって、作ってきた生菓子を食べずに保存するとか言ってたし、パックジュースのストローをゴミ箱から漁ってたし。


「もう、いいもん。ジュース飲むし」


 しかしまあ、こうやって収集癖の面を抜いてみると、普通にかわいい。不貞腐れてそっぽ向いてジュース飲むとか。


「まーえーだーさんっ! それに藤田ふじたくんも!」


「ふぎゃっ!」


 隣から、絶叫が聞こえた。


「びっくりした……なんだ、舞祭か」


 後ろにあった茂みから突然に舞祭が現れてきた。いつものことながら、こいつは神出鬼ぼ……


「あああああっ! スカート、スカートがジュースにー!」


 薬練の大声が周りの人を惹きつける。声量はもちろん、その発言の内容にも。


「ったく、ちょっと待ってろ」


 カバンからタオルを取り出す。それでスカートを丁寧に拭いていく。

 とはいえ、まあある程度はスカートに吸収されてしまってはいたけれど。


 これでいいか? と聞くと彼女はコクコクと


「はわわ、前田さんごめんね。私が声をかけたばっかりに」


「ううん、大丈夫。それともどうかしたの?」


「いや、見かけたからちょっと声かけようと思っただけで。ほんとごめんね」


 舞祭はその場でヘコヘコと頭を下げていた。手のひらを開ききって大丈夫大丈夫と繰り返す薬練。どちらも行動をやめようとしない。


「あーそうだ、忘れてた」


 薬練はこちらを向いて手を差し出した。


「タオル! 私、洗ってくるから」


「いやいいよ」


「でも私がこぼしたジュースだし、かかったのも私のスカートだし」


「でもなあ……」


 正直な話、彼女に物を預けるのは、危険でしかない。

 けれど、あんまり断るも、悪い気はする。難しいところ。


「うーん、じゃあ、お願いしていい?」


「うん! 任せて、新品同様にキレイにするね!」


 言い方に変な点はあったものの、とりあえず持っていたタオルを畳んで、彼女に渡す――


「で、1つ聞きたいんだけど」


 ピタリ、と。動きを止めた。嫌な予感がする。


「このタオル、どこで買ったのかとかってわかる?」


「却下だ、やっぱり自分で持って帰って洗う」


「そ、そんな、殺生な…………」


 明らかに残念そうな表情。しかし、致し方ないだろう。

 だって、だって、このまま渡したら、このタオルを保存して、新しいタオルを「洗ったよ」って言って渡して来かねない。


 そういえば、少し前に筆箱の中の消しゴムが無くなってて、どうしたのかなあと思ってると、薬練が自分で持ってきた新品の消しゴムを削って使って、僕のものと全く見分けがつかないレベルにしてることがあった。

 たしかあのときはそのまま筆箱にもともと入っていたものと取り替えて僕のものを持ち帰るつもりだったはず。


 まあ、何はともあれ恐ろしいことには変わりない。




   ***




 あー、あっつい。もう9月だってのにさ、何なのこの暑さ。

 主に目の前、前田 薬練と藤田 拓人。触ったら火傷しそうなくらいにアツいんですけど。


 まあ、この2人は問題ないか。


「じゃあ、私そろそろ行くね」


「もう行っちゃうの?」


「うん、ジュースの件はほんとにごめんね」


 改めて私はそう言うと彼女はまたも手の平をこちらに向けて「大丈夫だから」と繰り返してくる。


「じゃあ、2人とも、バイバイ!」


「おう、じゃあな」


「舞祭ちゃんバイバイー!」


 私は割と急ぎ気味で歩いて行った。少々気になることができた。

 今、SNSで話題の動画、これは確かめないといけない。




「ここ……か」


 動画に映っていた男子と女子には見覚えがあった。


「遠野 葵……やはり、やるな…………」


 彼は危険人物。すでに頭の中に書かれている上に更に書き込む。

 それにしても混雑してるなあ……人いっぱいじゃん。


「お、舞祭ちゃーん!」


「あ、ホントだ、おーい!」


「舞祭ちゃんも来たの?」


 ふと、声をかけられた。呼ばれた方に顔を向けて見ると……誰だっけ。

 人は数多と関わってるから、いちいち覚えてないというか。

 えーっと、あ、そうだ。思い出した。


「こんにちは! 漣さんに、近藤さんに、それから浦部さん!」


「覚えててくれたんだ、嬉しいなあ」


 とても嬉々とした様子でそう言われてしまい、とてもじゃないけどさっきまで忘れてたとか言えない。言うつもりもないけど。


「そうだ、舞祭ちゃんこっちにおいでよ」


「あっ、テメずりいぞ!」


「ほら、あんな奴らのところには来ずに、こっちにおいで」


「お前こそなに言ってんだ」


 なんか、争いが始まってしまった。しかしこれは、あまりよろしくない。


「な、並んでるみんなにも悪いし、私はちゃんと後ろに回るよ」


 いそいそ、そそくさとその場から離れる。

 あのままだと、喧嘩が起こって、収拾が付きにくくなるし、そうなると私の……


 ああ、ここが最後尾か。それにしても、並んでいるなあとか。


「……………………な」


 ふと、声をかけられた気がした。


「えっ?」


 さっと振り向いてみるが、全然知らない男女、先輩2人組が、いた。


「……聞き間違いだろうか?」




「お疲れ様です、どうぞこちらに座ってください」


 めちゃくちゃ時間かかった。まあ、これでなんとか。


「えっとじゃあ、とりあえずこれをお願いします」


 適当な料理(正直どれでも良かったから)を指さして頼む。店員がいなくなったところで周りを見回す。

 コンセプトはだいたいわかった。とりあえず、遠野と橘さんを。


 あっちこっちを見回してみる。普段と格好が違うせいでパッと見では判断しにくい人もいたけど、大丈夫。だいたいはわかる。


「あれ、いない?」


 周りを見渡してみても、2人の姿はない。もしかしてもうすでにシフト変わったのだろうか?


「お冷です、どうぞ」


 コトリと目の前にコップが置かれる。中には透明な水。


「あ、ありがとうござ」


 そこまで言って、目をひんむく。


「と、遠野っ!? …………くん!?」


 慌てて言ってしまった。


「…………? 料理が来るまでごゆっくりしてくださいね」


 ああ、完璧にやらかした。大声を上げるなんて、それに、あんな口調。

 さっと周りを見回すが、まあ、今のところはなんともなさそうで、とりあえず安堵する。


 ため息をついて料理を待ってみる。


 ああ、本当に危険人物だ、遠野 葵。

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