#61 少年少女はSNSに戦慄する
さてと。
俺はスマホを取り出して、Pixtterを開いてみる。もしかしたら、という考えがあった。
そして、その考えは見事的中して。
動画、映っていたのは紫崎と黄乃ちゃん。それから名も知らぬ女子高生。
暴行、というか、おそらくは黄乃ちゃんの元へ進むために人をかき分けただけ。まあ、普通に見たら暴力と間違われても仕方ない。
そうして、紫崎は女子生徒と黄乃ちゃんのところまで行き、黄乃ちゃんを取り戻して。動画はそこまでで終わりだった。
動画は、めちゃくちゃ拡散されていた。それはもう、リプライにテンプレワードがたくさん見られるほどに。
そしてリプライにはそれだけでなく、たくさんの非難の声。すべて紫崎に向けての声が溢れていた。
まあ、状況が状況だし、なにより「足りていない言葉」が圧倒的に多すぎる。
この場にいて、前後状況を見て、それからならまだわかるかもしれない、しかしそれがない。
ため息をついて、少し迷った。この動画を見たら、白石は自分のせいではない思ってくれるだろうか。はたまた自分のせいだと思うだろうか。
まあ、予想が正しければ数日間は来ないだろう。ほとぼりが冷めるとかそういう意味もあるが、なにより黄乃ちゃんの状態が紫崎にとっては学校よりも気がかりになるだろう。
あの状態だと、相当精神にきてるだろう。紫崎も、黄乃ちゃんも。
(まあ、誰が悪いとか、誰が失敗したとかじゃなくて、タイミングが悪すぎたんだよな、コレは)
動画を見終わって、適当に話題を探した。とりあえず話を変えようと思って。
「お、これなんかどうだ? なんかすごいことなってるぞ」
一緒に行かないか? と尋ねてみる。しかしその直後で間違ったと自覚した。
以前一緒に喫茶店に行って(大量にケーキを奢らさせられたから)忘れていた。
見せた動画は喫茶店のもの。けれどもそれはこの文化祭の、出店の喫茶店。
白石は、他人の作った料理、無理なんだった(店とか衛生管理が行き届いているものは除く)。
「ふうん…………行きましょうか」
「だよなあ………………えっ!?」
聞き間違い、だろうか。
「ほら、行こうよ。そろそろお昼時だから混みだすよ?」
否、聞き間違いじゃなかった。
***
「マフィン2、コーヒー1、紅茶1!」
「ほら、達也、行って!」
「こっち手が足りないっ! ちょっと誰か!」
「そんなのこっちもだって、なんでもってこんなことなってるのさ!」
見事、店は盛況に盛況を重ねて、なお盛況なほどに賑わっていた。
逆執事メイド喫茶、興味本位で来る人目当ての、そこから口コミである程度来るかなくらいのつもりでみんないた。
なのに、どうしてこんな事になってしまったのだろうか。
どう考えても、私のせいだ。
「橘さん、来たわよ! それもまた、指名」
「はっ、はいっ!」
私はこけないように気をつけながら、少し駆け足気味でホールへ向かった。
時間は、十数分前まで遡る。
◇◇◇
目を伏せて、反射的に身構えようとする。
けれどもお盆が邪魔で、うまく身構えられない。しかしその間も体は傾き続ける。
こける――そう思った。
視界の端に黒いなにかが映ったかと思うと、私の体は止まった。
直後バシャッという水音、紙皿や紙コップ、プラスチックの紙コップホルダーなんかが落ちる軽い音がした。
お盆だけ、手から離せないでいたけど、ここまで来てやっと手から離れた。
「熱っ」
マズい、熱々のコーヒーとか紅茶、かけちゃった。
聞こえた声に慌てて視線を上げると、遠野くんだった。
私が遠野くんに倒れ込んだので、相当に近い。かなり、恥ずかしい。
「あ、あの、ごめんなさ……」
「あとで、な」
遠野くんはそうとだけ言うと、私を立てる体勢に戻してから今度はお客さんの方を向いた。
「大丈夫ですか? かかったりしてませんか?」
遠野くんはそうやって聞く。お客さんはフルフルと首を横に振った。よかった。
「どうしてもコイツが普段のお返しをしたいって言って聞かなかったんですが、どうもドジなもんで」
マニュアルにはなかった、完璧なアドリブ。
「すぐに作り直して、今度はこけないように注意して持ってこさせるので、お時間かけさせてしまって申し訳ありません」
遠野くんはそう言って頭を下げた。私もそれに遅れて頭を下げる。
どんな言葉が返ってくるのかと、若干怖く待っていると。
キャーという、甲高い真っ黄色の歓声。なにごとかと思って萎縮しながらに顔を上げてみると。
なるほど、そういうことか。
遠野くんが挟んでくれたこのアドリブ、みんな、これに興奮したのだと。
中にはスマホを構えていて、写真なのか動画なのかを撮っている人も見られる。
「橘、一旦後ろに戻るぞ」
「う、うん。わかった」
そしてこの事件のしばらく後、急に客が押し寄せ始めた。
クラスメートの誰かの話では、さっきの遠野くんの行動が映像としてSNSに流されて、とんでもなく広まって話題になったのだという。
それでそんな(イケメンの)遠野くんを一目見ようと、女性客を中心にめちゃくちゃ押し寄せ始めたのだった。
おかげさまで、ホールも厨房もてんてこ舞い。まあ、お客さんの主な目的は遠野くんだから、遠野くんがとんでもないくらいにせわしなく動いていて、それ以外のホール係はその手伝いをしている。という状況が続いていた。
もちろん私も例外ではなく、遠野くんのサポートに回って…………いた。そのはずだった。
「橘さーん」
「はーい」
遠野くんに視線が集中しているおかげで、私に向かう視線の絶対量が減り、かなり緊張もほぐれてきた。そんなときに訪れた、不運。
「橘さん、お客さん迎えてきて」
「はい、わかりました」
なぜ、私なのだろうか。なぜ、私のことを名指しで指示したのか。
今、裏方にいる人数が別に少ないわけじゃない。ちゃんと私の他にもホール係がいたのに、わざわざ私のことを指名した。その意図とは、
あとになって、というかシフト時間が終わって文化祭を回っているときに知ったのだが、遠野くんの行動が広まったと同時に、私のことも「めちゃくちゃ健気なドジお嬢様」という認識のもと広まっていたのだという。
そんなこんなで「なんで!?」と思いながらに私はホールに駆り出されるのだった。
◇◇◇
「ふひゃー…………疲れた…………」
「お疲れさま、そろそろ交代だから、橘さん上がっていいよ」
「はーい、ありがとう」
やっと、終われるのか、と。服の入った紙袋を持って教室から出た。
更衣室は、1階にあるはず。
廊下を歩きながら、顔を俯かせる。とても、恥ずかしい。
忘れていた。今の格好を。めちゃくちゃ視線が痛い。
「早く着替えよ」
足早に、その場から去った。
***
「はい、拓人。あーん」
「あ、あーん…………」
口に入ったアッツアツのたこ焼き。薬練から貰ったソレは、めちゃくちゃに熱くて、火傷するかと思った。
あとついでに、周りの視線が痛い。普通に人通りが多い道だったから、めちゃくちゃ痛い。恥ずかしい。
「ねえ、薬練」
僕は、1つ疑問に思ったことを尋ねる。
「なにしようとしてるのかな?」
「ん? なにって…………」
彼女が「そんなの決まってるじゃない」と、さも当たり前のように言う。
「なにって、保存するだけだよ? 君の口に入ったこの爪楊枝なんて、そんな貴重なもの保存するしかないじゃない? だからこのジッパーつきの袋に入れて、丁寧に保存し」
「やめよ、やめよ。カビ生えるし、なによりなんで爪楊枝なんて保存するの!?」
キョトンとした薬練。
「だって、好きな人のものは集めたいじゃない?」
なるほど、とはならない。
いや、だって、いくらなんでもやりすぎじゃないだろうか。
前田 薬練:収集癖




