#50 少年は嘘つきと呼ばれる
「おっ、ラッキー」
ピピピピッと数字が並んだかと思うと、それは5555と並んで上の飲み物のボタンがずらっと光った。
「白石、好きなの選びなよ。俺はこれだけでいいから」
「え、いいの?」
聞き返すと、凄く機嫌が良さそうに頷かれたので、遠慮なく貰うこととした。
少しの間考えてる間に、彼はというとスマホを取りだして4桁のゾロ目の写真を撮っていた。
そんな様子を横目にボタンを押すと、ガコンというと音がしてペットボトルが落ちてきた。
「そんな写真撮ってどうするの?」
「ん? ああ、Pixtterにあげる。あんまりないからなー。こういうの」
ふうん。と、とりあえず返す。あまり興味はない。
自動販売機からペットボトルを取り出しながら、そんなことを聞いていた。
「楽しいの? PixtterとかのSNSって」
結構純粋な疑問だった。やったことがないっていうのと、クラスの人たちがあんなにも大騒ぎできていることと。
以前から興味がなかったわけじゃないけれど、やったことはなかった。
「うーん、人それぞれかなあ。俺もあんまり力入れてやってるってわけじゃないけど、もしかしたら白石は苦手かもなあ」
「私が、苦手?」
「うん。適切に使えば問題ないんだけど、Pixtterとかって実質相手がハッカーとかよっぽどじゃない限り、素性とかって隠せるんだよ。もちろんそのために節度を持って活動したりする必要はあるんだけど」
うん。そのあたりは授業……っていうか、総合の講演で聞いた気がする。
「だから、それに安心したっつーか、匿名に傲慢になってるっつーか。だから人によっては結構誹謗中傷とか酷いんだよね。もちろん、あんまり酷いとアカウント凍結とか……凍結っていうのは使えなくすることね。そういうことされたりするんだけど」
なるほど、たしかに苦手かもしれない。
「まあ、俺もそういう面では苦手なんだけど、俺としては文面な分Pixtterってうるさくないから、結構好きなんだよな……なんてな」
「わざわざありがとうね。やっぱり私はやめておくわ。PixtterとかのSNS」
ペットボトルのキャップをぎゅっと捻る。シュッという炭酸特有の音がする。
「それがいいとおもう」
彼も私の判断に賛同してくれるようだった。
私にはまだSNSは早い。
***
「ねえ、ちょっと話がしたいの。一緒に来てくれないかしら」
そんな、お誘いが。正直、1度自分の顔面をぶん殴ろうかと迷ったくらいだった。
黒崎 匠、15歳。高校生になって初の告白を受けてしまうフラグが建った。
誰だー? 今の発言でフラグが折れたって言った奴ー。そんなことないから、見てろよ。
相手は、文化祭で同じ仕事に就いた碧原 風子。成績優秀で、ちみっこ。身長低くて胸はほぼ無い、寸胴体型。
俺が普段、ほぼ毎日のように言っている「巨乳」「高身長」「お姉さん系」のどの1つにも当てはまらない。
さて、心の準備はできた。悪いがなにを言われても驚かない自信しかない。
さあ、行こうじゃないか。
「嘘つきね、やっぱりあなた」
は? ……は?
とりあえず、2つほど謝らないといけない。フラグはキッチリ折れてました。見事に折れてました。
それから、思いっきり驚いている俺がここにいます。
あれだけ豪語したのに、なかなかに情けない。
というか、「嘘つき」っていったい……
「黙っててもなにも始まらないわよ。それから、いつまで嘘をついているつもりなの?」
体中に悪寒が走る。どこか、見透かされているような、そんな感じがして、体が動かない。
「え……いったいなんの話?」
ドキリ、とした。話しかけられたその言葉に。
「ふーん、しらばっくれるつもりなんだ。別にいいけど」
「だから、なんの話なのかわからないんだけど」
マズい。明らかマズい。目の前の彼女からはあからさまに疑いの目な向けられている。
「まあいいわ。演技しててもどうせそのうちボロが出るでしょうし」
「だから、なんのこと――」
「今はせいぜい演じてなさい。自称巨乳好きさん」
彼女はそうとだけ言うとこの場から立ち去っていった。
ええ、やめてよ。嘘だろう。
これから1週間以上の間、俺、あいつと一緒の仕事なの?
死ぬよ。死ねるよ。こんなの。
「え、仕事を変えて欲しいって?」
「うん。そう。変えて。お願い。お願いだから」
「そう言われてもなあ。ちゃんと全員いる日に仕事は決めちゃったからな。正当な理由はあるのか?」
頼みには行ったものの、うん。ダメだよね。今さら仕事変わりたいとか。
「やっぱいいよ、頑張る」
「そうか。無理しないようにな」
やっぱり葵は良いやつだよな。そしてなぜかこの優しさが今に限っては地味に痛い。
碧原 風子。成績は優秀で、貧乳で。身長低くて、ぺったんこで。結構気が強くて、つるぺたで。顔は割とかわいい方で、まな板で。
正直な話、包容力のあるお姉さん系じゃないし、俺のタイプとは――
「ねえ、今、すっごく失礼ないこと考えてたでしょ。自称変態」
「うおっ、いきなり後ろに立つなよ碧原。それからその自称ってつけるのやめてくれない?」
「自称じゃない。だって」
うーん、どうもやめてはくれないらしい。説明したと思うんだけどなあ。
「あのな、俺はな、おっきいおっぱいが好きなんだ」
「うん。知ってる」
ものすごく真顔で、平然とした様子で返されてしまった。割とビビる。
「ある程度なら女子のカップも測れる。目視で」
「じゃあ、私のは?」
はて、聞き間違いだろうか。
いま、「私のは?」と聞き返された気がするのだが。うん。多分間違いはない。
とりあえず問題は「私のは?」がなにを指し示しているかだ。
それにしても、日本語って不便だよね。「私のは?」で会話が成立してしまうのに「私のなにがどうなのかは?」という肝心の部分が抜け落ちていても、それくらい自分で埋めとけというスタイルで突き返される。バカには厳しい。
「私の胸はなにカップか。わかる?」
さて、ついに彼女がハッキリと聞いてきてしまった。そうして埋まってしまった1番想定したくもなかったその答え。
「えっと……ですね」
わかる。とても自信を持って言える。だけど、言ってもいいものか。いいのだろうか。
「え、A……」
「ん、正解」
とても、とてつもなく短絡に、そう返されてしまった。さっきから連続で拍子抜けしてしまう。
「な、変態だろ? 俺」
「どこが?」
やっぱり、苦手だ。俺、コイツのこと。
「あのな、さっきも言ったが、女子のカップも測れる。好きなものはおっきいおっぱい。ついでに追加で言っちまうが、相手が女子だろうが男子だろうが、時場所構わずおっぱい発言するようなやつだぞ? そんなやつが変態じゃないわけないじゃないか」
「変態じゃないわよ。その程度」
嘘だろ。マジかよコイツ。いったいどれだけ頭ぶっ飛んでんだよ。
「また失礼なこと考えてるし」
「あのさあ、頭の中読むのやめてくれない?」
「やっぱり考えてたんだ」
はい、やらかしました。引っかかりました。
うわあ、思いっきり乗せられた。
「あと、頭の中は読んでないわよ。読む方法があるなら教えて欲しいくらいだし」
え、それならなんでわかったんだ? コイツ。
「なんでわかったんだ? って思ったでしょ。顔に出すぎなのよ。あなた。他のみんなも出すぎなくらいだけど。顔色見ればだいたい考えてることわかる」
「そんなに出てる? 俺」
そう聞くと、コクリと頷かれてしまった。全然自覚ないんですけど。
「まあ、さっきも言ったけど、みんな出すぎだから。むしろ顔を見て考えてること分からないのって遠野くんくらいだし」
へえ。そうなのか。まあ、たしかに葵っつったら無表情っつーか、あんまり感情が表情に出ない方だし、橘さんが来てからいろんな顔が見られるようになったけど、その前はあんまり表情変わったりしてなかったしな。
「って、そんなことはどうだっていいのよ。仕事よ仕事」
「へいへい。さいですか」
なんだか少し負けたような気がして。なにに負けたのかはよくわからないけど。とりあえずちょっと悔しい。
先に歩いて行く彼女の後ろをとりあえずついて行く。
「自分で言ってるうちは、大抵そうじゃないのよ」
後ろにいたせいか、ちっさい(なにがとは言わない)からか、彼女の言葉はぼそぼそとしか聞こえなかった。「え、なにか言った?」と聞き返しても、はぐらかされてしまう。
うーん、やっぱり苦手だ。




