#16 忘却少女は棒に困惑する
玉入れって、あんなに筋力使うんだ。
……いや、単に私が筋力ないだけか。
いや、まさかは入らないどころか、カゴにすら届かないなんてことになるとは思ってもいなかった。
たしか、あと学年種目があるんだっけ。せめてそっちで少しでも貢献できるようにしよう。そうしよう。
「橘さーん、こっちこっち! あとお疲れ様!」
大袈裟な身振り手振りで私のことを呼ぶ女性がそこにはいた。
私はその人の元へ早く行くために、小走りで移動した。
体育館。学年種目は男子の部が先に始まった。
並ぶ8本の棒を倒そうと、たくさんの生徒が揉みあっていた。あるところでは棒を押し、あるところでは人と人とが組み合い、あるところでは棒に登り。
「なるほど、人が見に来るわけだ。これは凄い」
私がそう呟く。そこでは派手な競技が行われていた。わざわざ学年種目中は他の競技をしない理由はこれを見たいからということもあるだろう。
もちろん、その競技中、その学年が他の競技に出られないからというものもあるだろうが、他の学年の学年種目さえしないのは、きっと他学年の学年種目を見たいという声が多かったという理由だろう。
「でしょー!」
隣で灰原さんがそう答えた。
その表情は、とてもキラキラとしていた。
***
パーンッ! ピストルの空砲が聞こえる。
「5組の皆さん、周囲に注意しながら速やかに退場して下さい」
そんな放送が聞こえてくる。なるほど、また1本倒れたのか。
「あと……何本残ってる?」
俺は棒を支えながらそう言った。
「残ってるのはここを含めて5本。どうしてだ? 隆俊」
「そうか。ありがとう」
返してくれた生徒に礼を言う。
つまり、あと敵は4チームというわけか。
「よし、それじゃ」
俺は棒を支える手を離し、言い放った。
「ここの防衛は任せたっ! モブ太! 他のみんなにもおまえから言っといてくれ!」
「信太だ! ってか、防衛を任せただと!?」
俺はにやりと笑った。
「ちょっと、おいっ!」
モブ太……野鴨 信太の声は無視。
「ったく、このクラスチームワーク滅茶苦茶かよ」
そんな愚痴が聞こえた気がした。
まあ、気にはしない。ここにいるより戦線に出たほうが絶対に面白い。
うわぁ……なんだよこれ。
「いくぞー!」
棒の先端で男子生徒がそう言った。
「おう」
とある男子生徒が棒の上の男子生徒の足を引っ張る。すると面白いくらい簡単に棒が倒れていく。
「黒崎、おまえ……」
「えへへー」
棒の先端にいた彼は自慢げに笑っていた。
別の方向から嘆息が聞こえた。向こうでも倒れたのだろう。
「1組、7組の皆さんは周囲に注意しながら速やかに退場して下さい」
「あと倒れてないのは俺らの所の棒も含めて三本か?」
俺がそう言うと、黒崎が答えた。
「そうだよ? って、防衛どうしたの?」
「抜けてきた」
俺がそう言うと、黒崎は驚いたような顔をして「じゃあ、俺が防衛行ってくる!」と言って棒の所へ行った。
「じゃあ、俺も」
黒崎を引っ張っていたクラス1の高身長、そしてクラス1力が強い彼、郷沢 剛志も黒崎に着いていった。というか、郷沢と黒崎は謎に仲がいい。まあ、この2人がいればそうそう倒れはしないか。
それを見届けると、安心して俺は別の棒へ向かった。
「終了ー!」
放送の声とともに、ピストルが2発鳴った。
自分たちの棒を見てみると、黒崎と郷沢、モブ太がこちらに気づいたようで手を振っていた。
ひらひらと手を振って返す。倒れなかったようだ。
「ふうー。疲れた」
その場に倒れ込み、天井を仰いだ。
しばらく、動きたくない。
「女子の部を始めます。男子は退場してください」
動きたくない。
***
「橘さん! 行こう!」
「へ?」
突然手を引っ張られ、私は気の抜けた声を出した。
「ど、どこに!?」
状況が理解できないまま、私はそう尋ねた。
「決まってるじゃん」
そう言うと、彼女は得意げに続けた。
「学年種目に出るんだよ?」
あ、そうだった。
……ん? まって。
「あれに出るの!?」
「そうだよ」
私は虚空を臨んで呟いた。
「嘘でしょ……」
灰原さんに聞こえない程度の声で、そう呟いた。もちろん、嘘じゃないことはわかっていたけれど、そう言わずにはいられなかった。
だって、玉入れですらお荷物の私に、いったいなにが出来るのだろうか。
いやまあ、純粋にあの中に入るとか恐ろしいってのもあるけど。
「よーい」
パーンと1発、ピストル乾いた音を鳴らした。その音ともに周りの人は、棒の防衛にあたったり、他の棒を倒しに向かったり様々である。
「どうすればいいの? これ」
周囲の人が各々やることをしている中、私はそう呟いて、ただただ途方に暮れていた。ルールはさっき聞いたから大丈夫。でも、
「なにをすればいいのが皆目見当もつかない」
これが本音である。なにをすればいいのかを誰かに尋ねようにも、どうやらみんな必死なようで、少し聞きづらい。
とりあえずうろうろして、しばらくたった。結局なにも出来ていない。
この間に、何本かの棒は倒れていた。
とりあえず、なにか貢献しないと。なにか貢献――。
「橘さん! 危ない!」
そんな声が聞こえた。その声が聞こえて振り返ってみると、棒が倒れてきていた。
「あっ……」
やばい。その一瞬でそのことはハッキリとわかった。
ただ、咄嗟のことだったのもあって、なにをどうすればいいのかさっぱりで。
ゴン。という低い音とともに頭に痛みが走った。
「痛い」
普通に痛い。そこまで棒は重くはなかったが、痛い。と言うか、普通にかなり痛い。あれ、語彙が崩壊してる気が。うん?
「大丈夫?」
灰原さんが近寄ってきてそう聞いてくれた。
「うん。頭が痛いだけ」
結構痛いけど。でも、なにか貢献しないとまだなにも出来てないからなにか……
「休んで来なよ。念のために保健室に行ってきたら? ちょうどあそこに遠野がいるし」
灰原さんが遠野くんに向かって手を振る。遠野くんが察したようで、頭を縦に振った。
「それじゃあ、保健室まで頼むな」
「ああ」
灰原さんは、私を遠野くんの所まで連れて行ってくれた。私が遠野くんの横に移動したことを確認すると、灰原さんは、手を振ってくれた。
「ごめんね」
私が灰原さんにそう言うと、彼女は「大丈夫大丈夫! ほら、早く保健室に行きなよ」と、笑って返してくれた。
「行くか」
遠野くんがそう言った。私はそれに同意の言葉を返すと、隣について歩いて行った。
「失礼します」
保健室の扉をノックしながら、遠野くんはそう言った。
「どうぞ」
その声が聞こえて、遠野くんが扉に手をかけた。
ガタン。
開かない。
「あ、ごめんなさい。鍵を閉めたままだったのを忘れていたわ」
どうやらこの人、かなり抜けているようだった。
バタバタと、スリッパで急いで移動している音がした。扉が音を立てて開いた。
「どうぞ」
扉が開かれると、そこには予想に反した人がいた。
体操服に身を包んだ、1人の女子生徒だった。
「えっと……」
私は戸惑った。その様子を察してくれたのか、彼女が私に言った。
「先生は今、ちょっと席を外していてね……」
彼女の目は、どこか遠くを見つめているように思えた。
「私でよければ、できる範囲でするわ。本当はダメなんだろうけど、あの先生はしばらく帰ってこないだろうし」
そう言って彼女は私たちを招いた。
というか、鍵を閉めて、なにをしていたのだろうか。
「確か保冷剤はこの冷凍庫の中に……」
どうやら、彼女はかなりこの保健室のことを熟知しているようで、滞りなく、保冷剤と、それを包むための手ぬぐいを取り出してきてくれた。
「はい。これを痛いところに当ててお




