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#102 少女はふたりきりで昼食を摂る

「雨宮とふたりで話すのは、遊園地ぶりか」


「あっ、うん! そうだね」


 どうしてこうなった。私は頭を抱えながら、必死で今の状況を整理する。


 事の始まりは朝のホームルーム。まさかそんなことが都合よく起こるはずがないだろうと思っていた、橘さんが風邪で休むということが先生から告げられた。

 直後、スマホには麻衣ちゃんから恐怖を感じるほどの怒涛の通知が送られてくる。その内容について簡単に言うのであれば、今日しかない、遠野くんをお昼ごはんに誘え、ふたりきりで。というものだった。


 正直、一瞬くらいは願ったシチュエーションだった。麻衣ちゃんと郷沢くんに詰められたあの日、もしかしたら橘さんが休んだらって思いはした。

 けど、実際こうして起こってみると、他人の不幸に乗じているようで、どうしても申し訳なさであるとかが勝ってしまう。


 とはいえ、授業中でもお構い無しに届いていた通知がついに1000件を越えようとしていたので、さすがに応えないわけにも行かないということで、実行に移すことにした。

 ……ちなみに授業中のスマホの使用は禁止なんだけど、よく見つからずにこれだけ送ってこれたね。


 そうして、いつものメンバーにあらかじめ声をかけていき、それぞれに許可を求めた。

 誰ひとりとして反対する人はおらず、思っていたよりも事はすんなりと進んだ。


「……へぇ、先に動いたのは雨宮さんか。まあ、このチャンスを逃すってわけも無いし当然か」


 途中、蓬莱くんに許可を求めたときにそんなことを言われた。「大丈夫、安心して。邪魔をしようってわけじゃあないから」と彼は言い、灰原さんには蓬莱くんから伝えてくれるとそう言ってくれた。


「バレてるのかなあ……」


「なにが?」


「はえっ!? 遠野くん、な、なんでもないよ!」


 口から出ていたとは思っておらず、反応されたことに大きく驚く。


 たぶん、遠野くんにはバレてない……と思いたい。これでバレてるのであれば私は恥ずかしくて死ぬ。


 とはいえ、蓬莱くんにはバレていそうではある。

 随分と前の話にもなるけど、郷沢くんにもパッと言い当てられてしまったし、もしかしたら結構わかりやすいのかもしれない。まあ、郷沢くんのときに関しては半分自爆なんだけど。


「とりあえず食べるか」


「そうだねっ!」


 そう言って、とにかくお弁当を開く。玉子焼きを箸で掴み、口に運ぶ。

 ……いつもなら甘い味がするはずなのに、全く何も感じられない。


 黙々と、何も会話が起こらず食事が進んでいく。

 ダメだ。さすがにこれはダメだ! なんでもいいからとにかくなにか話題を探さないと。


「そういえば、今日はお弁当ふたつ持ってきてなかったんだね?」


「ああ、今朝にあらかじめ橘のお母さんから休むことを聞いてたからな」


 橘さんの分を多く持ってきてるのかと思っていたけど、そりゃのなら連絡はするか。……でも、保護者の方と連絡を取り合うくらいには仲がいいんだね。


「やっぱり遠野くんは橘さんと仲いいの?」


「……どうなんだろうな」


 ふとした質問だったが、想像していたのと全く違った回答が返ってきた。


「でも、お弁当を作ってきてあげるくらいには一緒にいるわけでしょ?」


 それだけじゃない、橘さんがいるところにだいたい遠野くんがいるし、遠野くんがいるところにだいたい橘さんがいる。

 それくらいにはふたりは一緒に行動しているようなイメージがある。


 だというのに、彼から返ってきた答えが「どうなんだろうな」だったのだ。


「それはそうなんだが。……いや、少し考えることがあってな」


 彼はそう言うと、私の顔をしばらく見つめたのち、罰が悪そうにそっぽを向いた。


「いや、悪い。こんなことを他人に言うべきじゃないな。忘れてくれ」


「ううん! こっちこそ変な質問しちゃってごめんね! せっかくのご飯の時間なのに空気が悪くなっちゃって……」


 慌ててなんとか場を取り繕う。……うーん、特段なにか特殊な質問ってわけでもないとは思うんだけど、遠野くんにとってはセンシティブな問題だったみたい。


「あっ、でも私から見たら遠野くんと橘さんはとっても仲がいいように見えてるよ! うん!」


 ……って、なにを敵……橘さんに塩を送るような真似をしてるんだ私。急いで「もちろん、蓬莱くんや灰原さんとも仲がいいように見えてるよ!」と付け加える。


「そう言ってもらえると、ありがたいな」


 彼はそう言って、にこりと笑った。


 よかった、とにかくなんとか空気は取り戻せたみたいだった。

 ……ふたりきりのお昼ごはんで変な空気のまま終わっちゃうとか、印象最悪だしね。なんとかできて本当に良かった。


 私がほっとしながら、次のおかずに箸を伸ばしていると、スマホに通知が1件来た。

 なんだろうと思ってると、遠野くんが確認したら? と言ってくれたので確認してみる。


 送り主は、麻衣ちゃんだった。

 うまくお昼ごはんを一緒にできてるようね。送られてきたメッセージに対して「おかげさまでね」と、感謝半分、皮肉半分で送り返す。


 数秒と経たず、次のメッセージが送られてくる。

 それじゃあ次はクリスマスに誘いなさい? と。


 そんなこと、昨日の今日でやれるわけないでしょう!

 お昼ごはんに誘うのだって、めちゃくちゃに苦労したんだから!


 思わずスマホをぶん投げてしまいそうになるほどの衝動に駆られるけど、さすがに遠野くんの前ということもあって自重する。


 ……とはいえ、今がそのための絶好のチャンスだというのは間違いなかった。


 今日は橘さんが休みではあったが、明日もそうだとは限らない。もう12月ということもあって、予定を決めるのであれば早くしてしまわないといけない。


 次のチャンスがいつともわからない上に、クリスマスまでにそれが来る保証はどこにもない。なんなら来ない可能性のほうがずっと高い。


「あっ、あの! 遠野くん!」


「どうした? 雨宮」


 ……言うんだ。言うしかない。言わなくちゃいけない。

 自分自身を必死に鼓舞して、なんとか言葉を紡ぎ出す。


「あの、クリスマスって予定ある?」


「あー、すまん。クリスマスは――」


 ですよね! もう予定埋まってますよね!

 橘さんとかな? それとも蓬莱くんたちと? もしかしたらみんなでなにかするつもりだったのかも。橘さんと一緒のイメージとは言ったものの、どちらかというと4人で一緒なイメージも強かったので。

 自分の行動の遅さと、既にそこにある壁の高さに絶望していると、


 遠野くんの続きの言葉に、それが勘違いだということに気づく。


「妹や弟たちと過ごす予定だから」


「あっ、兄弟さんたちと……それは大事だね」


 橘さんに負けたわけではなく、兄弟に負けた。その差は大きかった。

 もちろん今だって勝てているのかというと絶対にそんなことはないのだが、それでもまだ追いつけるほどの差なんだというように思えた。


「あー、それだったら。今から絶対にと言えるわけじゃないんだが、来るか?」


「えっ?」


 遠野くんのその言葉の意味が、すぐに理解できなかった。


「雨宮さえよければだが、うちでやるクリスマスパーティに、くるか?」


「えっ? いいの!?」


 その提案は私にとってとても嬉しいものだった。もちろんそんなもの、二つ返事でオーケーを――、


「せっかくだし、他のみんなも誘って」


 あっ、うん。そうですよね。やっぱりそうですよね。


「うん、それがいいね」


 内心、とても泣きそうになりながら、私はそう返した。


 あとからその旨について麻衣ちゃんに送ったら「はあ」という返信がふたつ返ってきた。


 はあ? という怒りのこもったメッセージと、

 はあ……、という落胆のこもったメーセージとが。

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