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#101 少女はふたりきりのお昼ごはんに誘いたい

「まあ、進展の有無については一旦置いておこうじゃないか」


 しばらくずっと面白いことを教えろー、と騒ぎ続けたいた麻衣ちゃんを、郷沢くんがそう言って止めてくれた。


「むう。まあ、たしかにそれもそうね。集まった目的の半分はそれじゃないし」


 じゃあ半分は私から面白い話を聞くためだったのか。そう言い返したかったが、変に盛り返すとまた詰められる未来しか見えなかったので黙っておいた。


「考えるべきは、次にどう攻めるかということだろう」


「そうだねぇ。見た感じだとそんなに進展してるわけじゃないし、だからといって悠長にしてるわけにもいかないし」


 麻衣ちゃんがそう言いながら悩み始める。……私だって、悠長にしていていいとは思っていないのだけれども。


 もうすでに12月に入ってしまった。高校1年生でいられるのもあと4ヶ月、冬休みと春休みのことを考えると、実質的には3ヶ月くらいしか残ってない。

 2年生になってしまったら、また同じクラスになれる保証はない。遠野くんは部活に入ってるわけじゃないから、そういう意味でもクラスが別になってしまったらそれこそ本格的に接点がなくなってしまう。


「2年生になるまで、もうそんなに余裕ないもんね……」


「なに寝ぼけてんの、詩織。2年生までとか、そんな悠長にしてるから進展がないんでしょうが」


「ふぇっ!?」


 なにを怒られているのだろうか。全くわからず麻衣ちゃんと郷沢くんを交互に見るが、ふたりとも呆れたと言わんばかりにため息をついていた。


「もう12月なのよ。いいえ、言い換えるわ。今は12月なのよ」


 そして、彼女は机に手をつき立て、身体を乗り出してくる。


「とーっても大事なイベントごとがあるでしょうが! クリスマスよ、クリスマス!」


「ああ、そういえばそんなのあったね」


「そんなのあったね、じゃないわよ!」


 そう、麻衣ちゃんは今日一番の声で叫んでいた。


 ……これ、私が悪いんだろうか。







 しばらく、麻衣ちゃんと郷沢くんがふたりああだこうだ言い合っていた。

 私も途中で混じろうとしたけど「恋愛ポンコツは入ってこなくていいから」と拒まれてしまった。それにしてもひどい言われようだ。泣いちゃうよ? 私泣いちゃうよ? ……まあ、さすがにこれくらいじゃ泣かないけど。


「とりあえず、今の状態から一歩進ませるなら、着実に行くべきよね」


「うん。とにかく今はみんなで昼ごはんという段階にいるから、次はふたりきりで昼ごはんに誘うべきだろう」


 ……前回もそうだったけど、私がこの作戦会議に混じれないからここで決まった作戦について、私の意思が介入できないのがなんとも納得しがたい。実行するのは私なのに。


「あの」


「なに? 詩織」


「はひっ」


 気になったことがあったので思わず声をかけたが、思ってた以上に怖い反応が返ってきて思わず身体が固まってしまう。


「えっとね、なんか今、ふたりきりでお昼ごはんって話があったと思うんだけど」


「……まさか、嫌ってこと?」


「いや! そういうことじゃないの。ただ、難しいんじゃないかなーって」


 私がそう言うと、彼女らは首を傾げる。


「その、ふたりきりでお昼ごはんは難しいと思うの、私」


「難しいって、それは詩織の心持ちの問題じゃないの?」


「そうじゃないの! あっ、いやたしかに私も誘うとなるとすごく緊張しそうだしアレなんだけど……」


 私がそう言うと、彼女は「じゃあどういうことなの?」と聞いてくる。


「あのね、私も初めて聞いたとき驚いたんだけど、橘さんのお昼ごはんを遠野くんが作ってきてるの。それで、ふたりで一緒にお昼ごはんを食べてるの」


 だから、遠野くんをひとりだけ誘うってのは難しいんじゃないかな。私がそう伝えると、麻衣ちゃんと郷沢くんは目を見開いて呆けていた。


「……えっ? 詩織、今、なんて言った?」


「だから、遠野くんが橘さんのお昼ごはんを作ってきていて、ふたりが一緒に食べてるって」


「……ごめんちょっと状況が理解できてない」


 そう言うと、彼女は眉間に指を当てて悩み始めた。

 郷沢くんも難しい顔をしながら、口を開く。


「一応確認しておきたいんだが、遠野は橘さんと付き合ってるわけじゃないんだよな?」


「遠野くんも橘さんもそう言ってる。私も嘘じゃないかなって思ったけど、ずっと一緒にいる灰原さんや蓬莱くんも信じられないけどそうだって言ってるからたぶんそうなんじゃないかな」


「知ってはいたし、警戒してはいたけど強敵ね、橘さん」


 麻衣ちゃんが苦い顔をしながら、そう言った。……私もそう思う。


 遠野くんに想いを伝えるうえで、1番の障壁になるのが橘さんの存在だ。


 本人たちは特別どうだという関係だとは言ってないし、なんとなく数日間一緒にお昼ごはんを食べていただけだが、その間に見ていた限りでは、本当になにか特別に意識してお互いのことを思っているような感じはしなかった。……もちろん、無意識下ではそんなことないようにも思えるというのも同じく感じたのだが。


 遠野くんは正直わからない。というか、全くどう思ってるのか見えてこないのだけれども。少なくとも橘さんは遠野くんに好意を寄せていると思う。たとえそれが無自覚な気持ちであっても。


「けど、クリスマスまでそんなに余裕がないってのも事実なのよね。……なんとかして、それまでにしっかりふたりの仲を発展させないと」


「ねえ、麻衣ちゃん。そんなにクリスマスって大事なの?」


「大事に決まってるでしょうが! クリスマスだけじゃないわよ。季節ごとのイベント、これからだと正月やバレンタインだって、きっちり回収していかないと」


「ええ……」


 バレンタインはともかく、正月ってどうするつもりなのだろうか。基本的には家族と一緒に過ごしているようなイメージがあるんだけども。

 しかし麻衣ちゃんはめちゃくちゃに息巻いているし、郷沢くんは横でウンウンと頷いている。……つまるところ、きっとなにかさせられるんだろうな。


「とりあえず、一旦の方針はなんとかして詩織がふたりきりでお昼ごはんに誘うってことで」


「えっと、2点ほど質問いいかな?」


「いいわよ。何でも聞いてくれていいわよ!」


 自信満々に麻衣ちゃんがそう言う。この態度だけを見るならばとても頼りがいがあるのだが、これまでの彼女を知ってるからとてつもなく頼りなく見える。……たぶん質問にまともな答えは返ってこない。


「その作戦に、私の拒否権ってある?」


「あるわけないでしょう! その代わり安心しなさい、期限なら設定してあげるから!」


 わあ、何も安心できない。不安しかない。

 歪みそうな顔を必死で笑わせながら、私はもうひとつの質問をする。


「なんとかして私が遠野くんとふたりきりのお昼ごはんに誘うってことなんだけど、そのなんとかってのに具体的な案はあるの?」


「ないわよ! そこは詩織、あなたが頑張るところよ!」


 とても。とってもいい笑顔でそう言われてしまった。


 あはは、と力なく笑ってみるが、絶対に顔が歪んでる自信しかない。……とんでもなく不安しかない。


 そもそもさっき言ったじゃん、橘さんがいるから遠野くんを誘っても、きっとふたりきりにはなれないだろうって。


 そりゃ、もちろん。橘さんが都合よく風邪で休むみたいなことがあれば、できるかもしれないけどさ? でも、そんな他人の不幸を願うみたいなことをするのはよくないと思うんだけど……。






「えー、橘が今日は風邪で休みとのことだ。だんだん寒さも厳しくなってるから、体調管理には気をつけるように」


 月曜日。ホームルームで先生が言った言葉に、私は空いた口が塞がらなかった。


 ……そんなことある?

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