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#9 少女は宿題に奔走する

「来月初めに体育祭があるが」


 ホームルームで先生の放った言葉に教室中の空気の温度が上がった。体育祭という単語にそこまで反応するのか。と思ってしまうほどに。

 私としては、あんまりいいものではない……気がするんだけど。まあ、思ったことは今朝。及び昨夜の疑問ではないなということだった。


「その前にテストがあることを忘れんなよ。今日から1週間前だからな」


 教室中の空気の温度が下がった。みんな、テスト嫌いだもんね。


 多分、これがそうかな? たぶん、昨日の私が抱いていたであろう、疑問。

「それじゃあ、ホームルーム終わり。授業中は寝るなよー」


 先生が退出しても、教室中の空気はそのままだった。時折、どこからか「やべえ」や、「終わった……」といった声が聞こえてくる。


「橘はテスト大丈夫なのか?」


 唐突に遠野くんが話しかけてきた。


「うん。記憶力自体は良い方だから、当日の朝に全力で詰め込んで勉強すればいける」


 先生が来るまで、まだ少し時間があるようだった。


 ただ、どうしたものか。


「うう……」


 斜め前の席では机に突っ伏してうなってる灰原さんがいた。




   ***




「あのなあ……」


 目の前にいる灰原に俺は言った。


「宿題は、自分でやるから意味があるんだぞ?」


 俺の放った言葉に灰原は苦そうな顔をした。


「と、遠野……いや、遠野様! そこをなんとかっ!」


 俺はどう言うべきかを少し考えて言った。


「橘もきちんと自分でやってるんだ。お前も見習え」


 そう言うと、橘は「え?」と言う顔したのち、理解したようで「うん」と、頭を縦に振った。


「くっ……」


 灰原は、さらに苦そうな顔をした。が、なにか思いついたようで橘のことを見て言った。


「橘さん、終わってるの!? 見せて!」


 なるほど。そう来たか。

 橘は俺の方を見て、どうすればいいか迷ったような表情をした。


 いや、なんでだよ。なんで俺に聞くんだよ。


「橘の思うように返事をすればいい。見せていいと思うなら見せればいいし、ダメだと思うなら、断ればいい」


 彼女は俺のその言葉を聞いて言った。


「やっぱり自分でやるべきだよ」


 橘がそう言うと、灰原は悲しそうな顔をした。


「だから、一緒にやろう?」


 橘のその言葉をに、悲しそうな顔は一転、驚きと嬉しさとが混ざり合った表情になった。


「うんっ!」


 とても生き生きとした声だった。




   ***




 さて、誰か教えてくれ。

 なぜ、こうなってしまったのかを。


「おーい、隆俊ー? なにを呆けてんだよ。宿題やれよ」


 たしか、紀香が葵に宿題を見せて欲しいとせがみに行ったのは記憶している。

 断られたのだろう。だからこそ、今やっているのだろう。

 問題はそこではない。なぜ、俺まで参加させられているのかだ。


 場所は学校からほど近いファミレス。適当な軽食とドリンクバーを頼み、机の上にはコップが4つとフライドポテトの皿、そして宿題のワークやプリント、各教科の教科書、ノートが広げられていた。


 宿題を見せてくれと頼みに行ったのは紀香だ。葵には断られて、橘さんに頼んだが、見せることは断られたが、手伝うと言われ、その手伝いで葵がいるという所までは読めた。あたっているかは知らないが。


 なぜ、俺が参加しているのか。不明すぎる。


「ごめんね。私が自信ないからって」


「いいよ。別に。教えるくらいなら全然出来るし大丈夫だから。まあ、俺はあんまり教えるの得意じゃないんだけどね。まあ、出来るだけわかりやすく教えられらよう努力する」


 うん。リア充か? こいつら。


 前も思ったが、回を重ねるごとにより強くそう思う。






 宿題を始めて1時間程度経った。夏至に向かって段々と日照時間が延びているこの季節は、午後5時程度では、まだまだ外は明るかった。


 そんな外の明るさとは反対に、目の前の少女の表情は暗かった。


「なんで……こんなに宿題って多いのさ……」


 いや、お前の要領が悪いだけだろう。この2人の解説わかりやすいし、俺は、一切手をつけていなかった国語と数学の課題、終わったのだが。


 そんなことを思いながら、俺は未だにどの教科も終わっていない紀香を怪訝そうな目で見た。


「なんだよ」


 見たいたことに気づいたようで紀香がこちらを向いて言った。


「いや、遅いなーって」


 俺は馬鹿にするような口調で言った。すると彼女はその憤りを顔に浮かべ、少し荒げた声で言った。


「なんだとっ! 隆俊なんかすぐに抜いてやるっ!」


 彼女はそう言うと、すぐに課題に取りかかった。

 俺は紀香にばれないように葵と橘さんに親指を上向きに立ててサインをした。


 すると2人は察したのか、動きを揃えて同じようにサインしてきた。


 それにしてもさすが猿と言うべきか、本当に単純だ。こいつ。




「終わった……」


「お疲れ」


 俺はそう言って、オレンジジュースの入ったコップを渡す。

 午後7時過ぎ、遠野が橘さんを家に送り届けに行ったので、残った2人で今まで紀香の宿題の面倒を見ていた。


 そして、この時、やっと終わったのだ。

 5時頃に、紀香がやる気になってから猛スピードで進んでいき、予定よりも早く終わった。


「ありがとう」


 紀香は俺の手からコップを取ると、もう片方の手で冷めたフライドポテトをつまんだ。


「勝てなかった……」


 彼女はそう呟いた。

 どういうことかというと、俺より先に宿題を終わらさせられなかったということだ。


「無理だろうけど、次頑張れ」


 俺がそう言うと、彼女は少し怒ったように反論してきた。


 そんな彼女もかわ……い……


 いやいやいやいや、何考えてるんだ? 俺。


 この、猿のことを、かわいいだと? そんなわけ無い。


「どうしたんだ? 急に頭を抱えて」


 紀香が俺の顔を覗き込んでくる。


「いや、ない。そんなはず……」


 かわいいわけ……ない。




   ***




 どうしたんだこいつ。

 急に頭を抱えてぶつぶつ何か言い出した。小さすぎて聞こえないけど。


 ……いやマジでどうしたんだこいつ。


 橘さんを送り届けて帰ってきた遠野が私にどうしたのかと聞いてきたが、 そんなこと、私が聞きたいくらいなんだけど。

 まさか、私に渡したオレンジジュース、そんなに飲みたかったのか? ドリンクバーだから取りに行けば良いのに。


 バカだな。こいつ。



   ***



「いただきます」


 私は食卓に並んでいる唐揚げを口の中に入れた。揚げたての唐揚げからは、おいしそうな匂いがしている。

 にんにくが控えめと思われる唐揚げの味は、素朴で。でも、とてもおいしい。


 そういえば、遠野くんの作ってくる唐揚げとは全然違う味がする。遠野くんの唐揚げはどっちかというと醤油ベースの味付けだ。それに対してこれは塩ベース。全然違う分、2つの味が比べられるから楽しい。


 そういえば、最近は覚えられていること多いな。特に遠野くん関連で。


 なんでだろう。


「今日の男の子がもしかしていつも言ってる遠野くん?」


 お母さんが唐突に聞いてきた。私は思わず唐揚げをのどに詰まらせる。


「げほっ……そ、そうだけどどうしたの?」


 そう。駅までで良いって言ったのに、遅いからという理由で家まで送ってくれた。わざわざ電車にも乗って。


 家まで家族以外と2人で帰るのは初めてかもしれない。


「優しそうな良い男の子ね。もしかしていつも弁当を?」


「うん」


 そう肯定の返事をすると、ふうっとため息をつき、それまで落ち着いた口調だったお母さんは興奮したような声で言った。


「それならそうと言いなさいよ! なにもお礼できなかったじゃない!」


 バンッと机を叩いて立ち上がり、そうして冷静になったのか、少し落ち着いたように言った。

 突然だったのもあったけど、正直若干慄く。


「今度、連れてきなさい。お礼したいから」


「う、うん」


 断れなかった。




「連れてくるって、いつどつやって連れてきたら良いんだろう」


 私は食後、風呂に入って着替えた後に自室のベッドに座り、そう呟いた。お母さんにこんなこと聞かれたら、明日連れてこいとでも言われるだろう。


「とりあえず、テスト終わってからだね」


 そう言って私は部屋の電気を消し、布団を被った。




「橘さん、勉強教えて」


 次の日の朝、灰原さんは私の目の前に来てそう言った。


「あれ? 昨日宿題終わらなかったの?」


 遠野くんから終わったって聞いたんだけど。


「終わったけどね、このままじゃ成績がやばそうだから」


「それなら構わないよ? 遠野くんは?」


 私が遠野くんに尋ねると、灰原さんは遠野くんが答える前に言った。 

「ふ、2人でっ!」


 その言葉に少し固まった。暫くして、私は口を開いた。


「え? 私より遠野くんの方が賢いよ?それに教えるのも上手――」


「橘さんがいいのっ!」


 彼女は勢いよくそう言った。


「遠野くん……?」


 私は遠野くんの方を見て助けを求めた。


「あー、別にいいんじゃないか? 教えてやれば」


 その助けじゃないんだけど……


「じゃあ放課後お願いします!」


「う、うん。分かった」


 まあ、いいか。

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