表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

かぐやの涙

二千人もの近衛兵も無力のままに、かぐや姫は百人ほどの天人たちと共に空飛ぶ車に乗り、天高く月へと帰っていった。爺と媼のすすり泣く音が、屋敷中ばかりでなく空いっぱいに響き渡る。しかし天の羽衣を着せられ、人間の心を失ったかぐや姫の耳には全く入らない。無情にも車は天の星々よりも小さくなっていき、やがて見えなくなってしまった。


かくしてかぐや姫は再び月へと戻った。しかし姫とは言えども一度罪を犯した身故、月の上では幽閉された暮らししか許されなかった。静かの海に広がる月の都の宮殿の、一番端の角部屋で、幾日も幾日もそこに居るだけ。その部屋には小さな窓が一つ付いていて、そこからは一億の星と共に、黒い宇宙に浮かぶ地球が見えた。他にすることも無く、幾日も幾日もかぐや姫は地球を見続けた。天の羽衣を着てしまったので何も思えなかったが、それでも幾日も幾日も見続けた。そしてある日、地球を見ながら涙を一粒流した。心は既に失っていたので、やはり何も思わなかったが、しかしその涙はかぐや姫の頬をつつつとすべっていき、床へ落ちた。その途端涙は一つの石となった。その後も石と共に、かぐや姫は部屋の中で独り地球を見続けた。



盛者必衰の理通り、月の都はそれから数百年後滅びた。月はただの荒れた地となり、天女もかぐや姫も月の都もどこかに消えた。



それからまた悠久の時が過ぎた。ある時、一人の男が月に降り立ち、石を一つ掴んだ。それはかつてかぐや姫の流した涙の石であった。男はその石を地球に持ち帰る。


そして時代は1970年、場所は日本の大阪、万国博覧会会場アメリカ館。64,218,779人の翁と媼がかぐや姫の涙を覗き込んでいる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ