バレたいん?
◇キャラクター紹介◇
我妻ひより(24)
読みは「あがつまひより」。まだまだ半人前なわんこ系幼稚園教師。自身の子どもっぽくて天然な性格をごまかすために教育大学生時代から取って付けたようなエセ関西弁で喋るが、まわりには生暖かい目で見守られている。
果々夫千茶(6)
読みは「かかおちさ」。両親に捨てられたらしいにゃんこ系美幼女。幼少の頃から刷り込まれていた性の知識と生まれ持った美しい肢体をフルに活用して、日々我妻ひよりを誘惑する。最終目標は「およめさんにすること」。
「きりーつ! れー!」
「さよーならー!」
「はーい。みんなさよならー!」
あいさつ当番のサヤちゃんを筆頭に、ショコラ組のみんなが帰りのあいさつをする。そして私は、そんな子ども達に笑顔で返す。
私は、この「相模川幼稚園」で、先生をしている。
「せんせー、ばいばーい!」
「はーい、さよならー!」
最後にコータくんを見送って、ショコラ組は全員帰宅。
……あ、「全員」ではないか。
「ひより。あたし、先に部屋に行ってるね」
「うん。ちょっとお仕事したら、すぐ行くから。……って、またウチのこと呼び捨てにして……」
ただ一人、園内に残った園児。
果々夫千茶ちゃんは、とてとてと奥へ駆けていった。
◇
夕日の射し込む職員室で事務作業をしていると、園長先生が話しかけてきた。
「我妻先生、千茶ちゃんはどうですか?」
私は少し悩んでから、答える。
「……今日も、元気にレイナちゃんとシエルちゃんと仲良く遊んでいましたよ」
「……それはよかったわ。……あの子がここに来てから一年。未だに、親が見つからないなんて……」
「……そうですね」
あれは、ちょうど今日のような澄んだ青空の日、その早朝。
寒波がなかなか収まらず、白い息を吐きながら園のゴミを収集所に持っていこうとしていた時。
千茶ちゃんは、段ボール箱の中で眠らされて園の入り口の植え込みの陰に放置されていた。
「き、君、どないしたん!?」
私が揺すると、千茶ちゃんはゆっくりと目を開けた。翡翠のように輝く瞳が、私を捉えた。
「だれ……?」
私は胸に着けたネームプレートを見せながら、言う。
「ウチはひより。我妻ひよりや。ここで、先生をしてるんよ」
「せんせー……?」
「こんなところでなにしてるん? お父さんとお母さんは?」
「……わからない」
「え?」
「あたし……昨日、夜ご飯を食べてて、眠くなって……起きたら、ここにいたの」
「……」
「へくしゅん」
「あ……さ、寒いんやな? ほな、中行こか?」
「……うん」
「結局警察に確認しても『捜索願は出ていない』って言われて、保護してもらおうとしたら、千茶ちゃんが我妻先生から離れてくれなくて、園の空き教室で面倒見ることになって……」
「……あの、園長先生、そろそろ……」
「あらあら、つい長くなってしまったわ。それじゃあ我妻先生、戸締まりお願いしますね」
「はい。お疲れ様でした」
私が話を切ると園長先生は身支度を整えて帰っていった。
「もう外暗くなってしもてる。はよ千茶ちゃんの所に行かんと」
◇
園に備え付けてある小さな調理台で夕飯のオムライスを作って、給食運搬用の台車に乗せて、空き教室へ。中に入ると、私のお古のキャラクターパジャマに着替えてウサギのぬいぐるみで遊んでいた千茶ちゃんが気づいて、こちらを向いた。
「おまたせ千茶ちゃん。ご飯食べよか」
「うん」
小さなピンク色のちゃぶ台に載せたオムライスを見るなり、千茶ちゃんは満面の笑顔でマットに座り、キッズスプーンを取った。
「ほな、いただきます」
「いただきます」
小さなスプーンと小さな口ではむはむとオムライスを食べる千茶ちゃんの姿がとても可愛らしくて、私も思わず笑顔になる。
「今日もおいしい。さすが、あたしの彼女」
「またおままごとかいな」
「おままごとじゃないもん。あたしとひよりはラブラブなの。あたしの告白も受け入れてくれたの」
「あれは遊びやと思て……」
「あたしは本気だったもん。だから、恋人同士なの。ん」
「あー、いつものやつやね……。はい、あーん」
「あーん。……すごく、おいしい」
「ありがとなー」
「ひよりも、おいしい?」
「え? うーん、自分で作ったモンやし、なんとも……」
「違うよ」
「え?」
突然、千茶ちゃんは私の膝の上に立って、抱きついてきた。
「ひより自身の味の話」
「どないな意味ンムッ…………!?」
唇に伝わる、柔らかい感触。正座している脚の感覚が無くなっていくのに平行して、私の思考も徐々に麻痺していく。
ゆっくりと、私の両腕が上がっていく。
もうすぐで、抱き締めてしまう。そんな時、わずかに残っていた教師としての理性が、私と千茶ちゃんを引き離した。
「ぷはぁっ! な、なにしてるの!?」
「ひより、地の喋り方に戻ってる」
「そんなこと今はいいの! 千茶ちゃん、そういうことは大人になって、好きな人とするものだよ?」
「ひよりがそうだもん。ひよりも、幼稚園だと出会いがなくて、よっきゅーふまんでしょ?」
「どこで覚えたのそんな言葉!?」
「あたしのおとーさんとおかーさんは、毎日、毎日、あたしの隣で愛し合ってたの。だから、いろんな言葉、知ってる」
「子どもの前でなんてことを……」
◇
「……ん」
カーテンの小さな隙間から射し込む朝日が私の意識を現実へと引き戻した。
「ふわわわぁ……わ?」
あくびをしながら布団から起き上が……れない。
「ま、また服の中に入って……」
異様な重さを感じた箇所、胸の方に視線を向けると、千茶ちゃんが、私のシャツの中に潜り込んでいた。私の素肌と、なぜだか服を全て脱いでいる千茶ちゃんの全身の肌が触れ合い、小さな子ども特有の温もりが直に伝わってくる。
「ア、アカンよ千茶ちゃん! 服着ぃひんと!」
「ん……? おはよー、ひより……」
「何度もダメって言ったやろ。風邪ひいてまうやんけ!」
「ひより、あったかいからだいじょーぶ……すぅ……」
「二度寝せんといてー!」
千茶ちゃんは、今日も平常運転。
◇
「はーいみんな。今日は、なんの日かな?」
「ばれんたいん!」
「好きな子にチョコあげる日!」
「チョコいっぱい食える日!」
「チョコレート業界の繁忙期!」
シンノスケくん。それ、私が求めてた答えと違う……。
「ということで、今日は……みんなでチョコレートクッキーを作ろう!」
「レッツ・クッキーイング!」
タケルくん、誰が上手いことを言えと。
今日は、ショコラ組のみんなで調理実習。
◇
「じゃあ、帰ったら今日作ったこのクッキーを家族みんなで食べてください!」
「はーい!」
一通り作業も終わり、道具を片付けたら、そろそろお昼休憩の時間。
一旦職員室に戻ろうと教室を出た時。
千茶ちゃんに、腕を掴まれた。
◇
連れてこられたのは、園庭の、ちょうど建物や植え込みの陰になる場所。
「どないしたの、千茶ちゃん?」
「話したいことがあるの。屈んで」
「うん?」
千茶ちゃんの手には、さっき作ったクッキーの袋が握られていた。
「これ、ひよりにあげたいの」
「え? ……あぁ、ありがとな。でも、私は大丈夫やで。それは、千茶ちゃん一人で……」
「やだ」
千茶ちゃんは袋を開けてクッキーを一枚口に含んで……。
「ふむぅっ!?」
ぐちゅ。
千茶ちゃんと私、二人の口が、繋がった。そして流れ込んでくる、柔らかくなったクッキー。
口と口の間からクッキーが漏れるのも気にせず、千茶ちゃんはせっせと口や舌を動かす。
「ん、んくっ、ふふぅ、ふ、ふぅんっ……!」
「ふふっ。ひより、美味しかった?」
千茶ちゃんの質問に答えられるほど、私には心の余裕が無かった。
「な、ななな何してるの? こんなとこ、誰かに見られたら……!」
「あたしはいいよ? むしろ、バレたい」
「バレたいん!?」
「みんな、どう思うのかなー。親も黙ってないだろうなー。ひより、ここにいられなくなっちゃうなー」
「え……?」
「でも、あたしはずっと、ひよりのそばにいるよ?」
まだまだ私は、この子を侮っていたみたいだ。




