第二の人生のはじまり
何度目かの深呼吸を繰り返す。それでも震えが止まることはない。元々緊張することが多いし、緊張に弱いのは分かっているのだが、これまで緊張しているのは初めてではなかろうか。そう、初めて異能力を使えた時も、暴走した月と戦った時も、最後の試合で透と戦った以上に。何故だろうか、たかが入隊日であるのに…。
今日は異能力軍隊の入隊日だ。なんとか試験をクリアし、開花した異能力を使いこなせ、日々の手洗いうがいを繰り返し、当日まで規則正しい生活をしたおかげか無事に迎えられた。兄と妹に感謝する、本当にありがとうございます。
緊張するとお腹が痛くなってトイレに行くことがあるが、今回もそうだ。お腹が痛くなって駆けこんで数十秒で出てきた。鏡で髪を整える。が、頭の上の一本のあほ毛だけは無理だ。どんだけ撫でようが、どんだけ梳いてもやはり、ピンと立ってしまう。
諦めて手を洗い外に出ると、壁に寄りかかっている親友がいた。僕は頬を緩めた。
「凄い顔だよ、透」
「何時ものごとくついてこい、と言われる気持ちが分からないだろ…」
透ははぁ、と溜息をついた。確かに悪いと思っているが、不安になってしまうので仕方がない。…と言えば、また溜息をつかれてしまうだろう。
東雲透。帝都学園からのライバルであり親友。薄いベージュの髪をしていて、そこから見える綺麗な空色の瞳は何処か鋭い。最初は敵対として見られていたが、長い時間を掛けて仲良くなっていった。透と過ごすのはとても楽しい。
そんな透は第六部隊への配属が決まった。どうやら第六部隊は艦隊のセーラー服が制服らしい。白い爽やかな白い生地に、深い海を連想させる蒼いスカーフ、縁取り。そしてちょこんと乗る帽子。透はうざったいようにしていたが、似合っていた。
「そういえば…御伽は?」
「あぁ、今更衣室で着替えてるはずだが…」
ロビーに向かいながらもう一人の到着を待つ。着替えるのも何もかも早いから、もう居るかもしれない。…という予想は当たり、つまらなさそうに待っていた。こちらの姿を見つけると、ひらひらと手を振った。
「…似合ってる!!可愛いよ御伽!」
「そう?」
黒紫渕御伽。帝都学園を首席で卒業した親友だ。毛先の方だけ(何故か)紫色で、艶やかな黒髪を後ろで纏めている。月の様に光る金色の瞳は真っ直ぐに何かを見つめているようだ。帝都学園で出会ったころからどこか馬が合っていた。御伽と戦えば安心できて、心強かった。
御伽はどうやら十番隊らしい。一番軍服っぽいけれど、大正の装いを感じられる。落ち着いた少しだけ暗い桃色の生地は御伽とどこかマッチしていた。
「あれ?その桜の髪飾り…」
「あぁ、纏めた時に使ったの。ありがとね」
そういって微笑んだ。
「…似合ってんな、お前にしては」
「何ですって?」
「ちょっと喧嘩しないでよ!二人とも!!」
係員の誘導で自分の位置に並ぶ。
「って何で先頭なのっ!?」
「なんでって異能実技テストで最高ランクだからでしょ」
自分を先頭に入隊する部隊順に並んでいる。御伽に限っては一番後ろだ。
「そういえば、榊原は?」
「ん?えっとね、今日は無理だって…」
そう告げると御伽は興味なさそうに後ろへと向かっていった。何だったんだろう…?
(そっ、そんなことより…!!)
自分が先頭だと自覚を持って深呼吸をする。自分はこの部隊の先頭なんだ。司会の人の声を間違えないように…!
「すぅー…」
息を吸って目を閉じる、目を開けば自然と焦りは落ち着いていく。緊張はまだするが、ましになった方だ。
『それでは、新入隊隊員の入場です!』
司会の人の声が響く。
「行こう、新しい人生の道のりを」
合言葉を呟いて歩みだした。眩しい光と拍手と見えない重圧が自分たちを、僕らを出迎えてくれる。
「それでは第一部隊隊員、颯希京前へ」
新しい隊服に身を包んだ、まだまだなじんでないし柔らかいはずが固く感じる。でも、それでも、。
「…第5年度帝都学園卒業した私たちは誓います、国民のためにお国のために、異能力を取り戦うことを!!」