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明かされた秘密

バレバレって言うな(笑)

 帝国西部、開拓村のおかれたある意味最前線の地域は領主は置かれず、半ば流刑地と化していた。それゆえに力を持ったものが幅を利かせ、略奪なども横行している。村も城壁を巡らせ、その身を守るすべを武装化と流れ込んでくる傭兵たちに求めた。また、微妙に性質が悪いことに、このあたりの産物は都市部で高く売れる。商人の往来もそれなりに盛んで、それゆえにこの地域を一律で治めることができれば、大きな力を持つ可能性がある。

 開拓村は15が確認されており、レイルがいるあたりは最西部の最も奥まった地域である。ある意味で最も厳しい地域である。しかし勢力を広げるのに後背を気にする必要がなく、そういう意味では恵まれた立地である。開拓村がある地域はティルナノグ地方と呼ばれていた。


「で、私に何用だろうか?」

 自身よりはるかに年長の人間が、這いつくばるように頭を下げている。ある意味で、非常に居心地の悪い状況ではあるが、それを感じさせない口調であった。

「はい、この最奥の3か村は、レイル殿の指揮下に入らせていただけないかと申し出ておる次第です」

「それはどのような理由で?」

「はい、この地は盗賊団とならず者傭兵団の後送で荒れておりました。しかし、レイル殿の活躍により平定されております。われらの生活を守っていただけないかと」

「ふむ、弱き者を守るは戦士としての本懐。だが、われらも霞を食って生きるわけにはいかぬ」

「村の生産高の3割を税として納めましょう」

「ふむ、だがそれでお主らは生活が成り立つのか?」

「今までも傭兵を雇ったり、自警団の装備などでそれなりの出費はあったのです。そのあたりをレイル殿にまとめてお支払すると考えれば、むしろ安くつくかと」

「はは、正直だな」

「この村の村長より、レイル殿は信頼できるお方と聞いております。それゆえに胸襟を開いてのお話としました」

「ふむ、ならば問う。今後の方針についてだ」

「なんでしょうか?」

「私の方針と貴公らの方針が合わねば今後うまくはいかなくなる。それゆえに今問うておきたい。まず、私は地盤がほしい。そこで貴公らと利害は一致する。そして私の最初の目標は、ティルナノグの統一だ」

「なんと?!」

「まずは、わたしは子爵位を自称する。それを建前に勢力を広げる。場合によっては村人から兵を募るし、戦をするには金がかかる。それゆえに、税を取らせてもらうこともあるだろう。だが、わたしがティルナノグを平らげた暁には、お主らは私のもとで重き地位に就くこととなる。いかがか?」

「むむむ、一度村に持って帰らせていただいてよろしいか?」

「むろんだ。無理に強いても誰も得をしないからな」

「では、また後程…」


 村長たちが出ていった後で、レイルは椅子からずり落ちていた。そんな有様を見てセタンタは苦笑いを浮かべている。マッセナも似たような表情だ。スカサハは嫣然とした笑みを浮かべているが、よく考えたらいつも似たような感じなので、逆に感情は読み取れない。

「スカサハ殿、今のような感じでよろしかったか?」

「ああ、レイル殿はなかなかに演技の才能があるな」

「笑い事じゃありませんよ。あんな大風呂敷は柄じゃないです」

「されど、貴方の目的とも合致するのだろう?」

「スカサハ殿、貴女はどこまで知っている?」

「古の英雄王と同じ魔力の波動を持つものが現れた。そして古き遺跡の封印が解かれた。事情はよく分からんが、そのあたりだな」

「ここにいる皆は一蓮托生、ということでよいですか?」

「もとより」

「当り前じゃねーか」

「おお、ついに私を身内と認めたか。妻の座を射止める日も近いな」

「師匠、身の程を知らない・・・ぐがっ!?」

 抜く手も見せぬ投擲術にセタンタが沈んだ。額のど真ん中に小石がめり込んでいる。

「私は、エレス王の長子レイル・ラーハルト・フォン・フリードという。そこのマッセナも王に仕える騎士だった」

「左様です。儂自身は、エレス王の親友にして片腕たるカイル候の副将でした。レイル様付きに転属となりましての」

「ある日私は父に呼ばれた。そしていきなり意識を失って、気づいたら洞窟の中だった」

「はい? そりゃどういうことだ?」

「本当にそれだけなのだ。まあ、目覚めてからはいろいろと驚きの連続だったが」

「目覚めてみりゃ国は滅びてるし、100年たってるし。もう何が何やらって感じでしたなあ」

「まあ、マッセナの力を借りて紆余曲折があって、いつの間にか傭兵隊を率いてた。それで今に至るって感じだね」

「そのいろいろはいつか語る日も来るでしょうかね」

「ところで、レイル殿。お主が目覚めた洞窟で、何か気づいたことはなかったか?」

「そうですね、棺のような魔法機械の中にいたのですが、同じような機械が後10台ほど。中身は空っぽでしたが」

「うむ、なれば得心が行った。リン殿、入られよ」

「はーい。うん、やっぱりそうだったね。レイル。お姉ちゃんだよ!」

「エ・・・・・・・?」

「だからミリアム母さん、覚えてない?」

「あ・・・ああああああああああああああああああああ!」

「うふふ、ああ、先に言っとくけど。アレスはアストリアおじさんとこの息子ね」

「そうなの!?」

 スカサハが嘆息する。

「なんか伝説上の人物がポンポンと出てくるなあ。まさかとは思ったが」

「儂もなんか名前って残ってるんですかね?」

「旋風のカイルの切り込み隊長じゃないのかね?」

「おお、その名前が残ってるんですか。いやあ、ありがたいことで」

「というか、閃光ミリアムの娘さんとか、もうね」

「ミリアム様はそんな二つ名はなかったんですがねえ?」

「そうなのか、当時を知る人物というのは貴重だ。後ほど話を聞かせていただけぬか?」

「いいでしょ、若の奥さんになるかもですし」

「マッセナ殿は話が分かるな! 私がこの辺に引きこもったのも、伝説の英雄王の出身がこの辺だという説を確かめたくてだな…」


 ついに明かされたレイルの秘密。レイルが知る世界から100年後のこの時から歴史の歯車は回りだす。

 とりあえず今は抱きしめられた姉のぬくもりに、家族と再会した喜びを見つけて少し感傷に浸っていた。

レイルは英雄王の子孫を名乗り、ティルナノグの統一に乗り出す。だが彼の勢力はまだ弱小。この地方の半分を治める覇者がレイルに向かって牙をむく。

次回 辺境子爵を名乗るといろいろ面倒ごとがやってきた

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