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魔槍強襲

小規模な戦闘だと一人の豪傑が戦況をひっくり返すことはよくあります。

 村の北東には、古い時代の砦跡というか、土台が残っていたようだ。それを掘り返し柵を建て木造ながら砦を再構築している。ただの山賊や小規模な傭兵団には到底なしえない規模の工事である。裏で資金を提供している黒幕がいるのではないかとの推測がなされ、その黒幕と敵対して更なる大敵を呼び込むのではないかとの懸念があった。だが、それならばと彼らの指揮下に入るのはもっとあり得ない選択である。レイルの下した判断は出たとこ勝負であった。それを告げたとき、マッセナはぽかんとした表情を浮かべ、ホリンは全力で爆笑を始めた。スカサハは笑みを浮かべ頷いた。

 ともあれ、村を守るという契約もあり、北東の山賊砦を放置することは安全保障上あり得ない。そもそも敵対しないという選択肢は最初からなかったのであるが・・

 兵力はそもそも向こうのほうが多い。兵一人当たりの練度はこちらがかなり上である。戦力としては同等とみなした。ただし、砦にこもれる分地の利は向こうにある。そして敵を誘い出すなどの策を弄することも難しい。まずは村の自警団とジーク、スカサハを村の守りとして置いた。正直ジークだけでは守りに不安があるが、ある意味最大戦力であるスカサハを配置することで不安を解消している。この配置のために3つの依頼の一つを使用していた。

 村との連絡と後方支援として、リンと旅芸人一座に援助を依頼した。彼らとしても盗賊団の脅威が排除されないことには次の村に移動できない。そこに利害の一致があったため、この依頼は即決で受諾された。しかしながら、リン自身はレイルとともに盗賊砦に強襲をかける気満々で、アレスが頭を抱えていた。


「セタンタ、炎のルーンは使えるか?」

「ああ、この前師匠に教わった」

「俺が部隊を率いて門に攻撃をかけるから、別動隊を率いて、柵と壁を焼き払ってそこから強襲をかけてほしい。いけるか?」

「つーか、俺が門をぶち破ればいいんじゃないか?」

「はい?」

「そもそも、あの村の城門吹き飛ばしたの俺だし?」

「そういえば・・・」

「うちの傭兵隊の武名を上げるためにいっちょ派手にやろうぜ」

「…具体的には?」

「ゲイ・ボルクを使う」

「相当強力な魔道具に見えるが・・・」

「全開で使えば、奴らを一人残らず殲滅できる・・・が」

「が?」

「燃料は俺の魔力だからな、干からびちまう」

「すまん、それ笑い事じゃない」

「はっはっは。まあ、それはやらんが、門をぶち破って、敵前衛を突破するあたりまでは俺ひとりで行ける」

「…頼めるか?」

「任せろ」

 セタンタはイイ笑顔で快諾した。その笑顔に頼もしさよりもいっそ不安を覚えるレイルだった。


 兵を率いて砦に向かう。やや小高い丘の斜面を利用して作られており、門にたどり着く前に3回迎撃を受けているが、マッセナとセタンタの勇戦により、敵は都度数名の戦死者を残して撤退していた。こちらは被害らしい被害もなく進撃する。

 門の上のやぐらから頭に赤いバンダナを巻いた傭兵が声を張り上げた。

「てめえらとっとと降伏しろ! 俺たちにてっめらみたいな木っ端がかなうと思ってるのか!」

 レイルの横からジョルジュが弓を引き絞り矢を放つと、叫んでいた兵の顔面に突き立つ。こちらの陣営で兵がわっと沸き立つ。ジョルジュは3回矢を放ち、そのすべてが敵兵を射抜いた。敵兵が盾の後ろに身を潜めることを確認すると、セタンタが前に出る。

「貫け、ゲイ・ボルク!」

 手に込めた魔力を槍に流し込み、槍身が輝きだす。数歩の助走の後、渾身の力で槍を投擲する。朱い魔力の残光が煌めき、門の中央に突き立った後、爆発した。そのまま槍はセタンタの手元に戻る。そしてもう一度光を残して今度は天高く投げ上げる。放物線を描いて赤い光を纏った槍が、空中で分裂した。そのまま流星雨のごとく敵兵に降り注ぐ。槍は正確に敵兵の心臓を貫き、光が再び集うと元の槍身となってセタンタの手元に戻る。敵前衛は大混乱に陥っている。そこにマッセナ率いる強襲部隊が切り込んだ。残存兵はわずかで、そのまま次の門も突破される。最初の門が即座に破壊されたため、閂がかかっていなかったのが理由である。そのままレイル率いる本隊が投入され、戦闘は一方的な展開となっていた。唐突にセタンタが跳躍し、寝泊まり用の小屋の屋根に飛び乗る。そして、槍を投擲した。槍は狙い過たず、逃走しようとしていたヘラルドを貫き絶命させた。首領が討たれたことで敵は総崩れとなり、半数が討たれ、半数が降伏した。移動に1日、戦闘はわずか半日で終結したのである。

 戦後処理を行い、ため込まれていた資金や、食料などの物資を確保した。そのまま荷馬車に乗せて村に戻る。砦は戦死者とともに焼いた。降伏した敵兵は武装解除し、村の外で簡単な収容施設を作り、そこに放り込んだ。村に戻ったレイルを待っていたのは近隣の3か村の村長であった。そして彼らの申し出は、レイルを盟主として、このあたり一帯を治めてもらうという案だった。

「なんでこうなる?!」とレイルがつぶやいた。

「何卒、レイル様にはこの地を治めていただきたく・・」

はいつくばって懇願する隣村の村長を前にレイルは頭を抱えていた。俺にいったいどうしろと・・・


次回 辺境子爵レイル(自称

おたのしみに

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