華燭の典ーレイル編ー
トゥールに凱旋したレイルを町の者は歓呼して出迎えた。フリード再興を果たしたレイルに発祥の地である民は喜びに沸いていたのである。そして祭りでもするのかというほどの飾りつけにわずかに疑問を抱いたが、まあ、この騒ぎだしなと軽く流していた。流してしまった。
「陛下、このたびの凱旋、心よりお喜び申し上げます」
「ああ、ジョシュア、貴公の後方支援あってこそ、前年の兵は憂いなく戦えた」
「そのお言葉、末代まで伝えたく…」
「はっはっは、大げさな」
「して、婚礼の支度は整っております。明後日には参列する諸侯も到着となっております」
「え…??」
「レイル殿、年貢は収めるためにあるのだよ」
「図ったなスカサハ!」
「ふ、煮え切らない貴方がいけないのだよ」
ぎゃあぎゃあと言い争いをする二人に、ジークとセタンタがあきれ返っていた。
「セタンタ殿。陛下はなぜにあそこまで騒ぎ立てるのかな?」
「あん?決まってんだろ?」
「どういうことですか?」
「坊やだからさ」
二人は顔を見合わせて肩をすくめた後、自宅へと戻っていった。そういえばジーク自身はすでに隣村の婚約者と結婚し、先日子供が生まれている。
彼らが最後に見たのは、フレイアが背後から当身をレイルに食らわせて、スカサハが縛り上げるところまでだった。
レイルは自室に監禁されていた。花開いたような笑顔のスカサハにOHANASHIされ、すでに抵抗の気力を失っているようだ。花婿にふさわしく純白の衣装をまとい、椅子に座ってうなだれている。
熱に浮かされたようにうふふふふふふと笑みを浮かべるスカサハ。あまりに幸せすぎてセタンタすら近寄らない、いや近寄れない。フレイアも同様で、常時笑みを浮かべていた。彼女の部下たる騎兵たちもこんな彼女を見るの初めてで、シアワセソウデナニヨリデアリマスと笑顔で答えてくれた。
婚礼の朝が来た。花嫁にとっては希望の朝で、花婿にとっては…うん、どっかの将軍が言ってた。人生とは重き荷を背負いて長き道を行くが如しと。明らかに焦点が合っていない目つきでレイルが控室から出てくる。両脇から花嫁二人ががっちり腕を抱え込む。両手に花なのだが、それを見たセタンタは全くうらやましいと思えなかった。
トゥールの大聖堂は民衆の歓呼の声に沸き返っていた。フリードの若き王、レイルが凱旋し、妻を迎える。歴史に残るであろう場面に参加しているこの場の民衆は興奮冷めやらぬ様子であった。
花嫁二人に付き添われレイルが入場する。両腕に見目麗しい少女ががっちりとしがみつき、まさに両手に花であった。少女二人は笑顔の大盤振る舞いで参列者を見回す。盛大な拍手と、ふりまかれる花びら。まさに幸せの象徴であり、若き王の前途を象徴する光景であった。
大聖堂の中央、祭壇で3人は立ち止まる。すごくイイ笑顔を浮かべたクリフォード候が聖職者の衣服を着こんで出迎えた。
「おお、我が義弟よ、死にそうな顔をしているとは何事か」
「あんたか、俺を嵌めたのは」
「なんと人聞きの悪い。私は妹の幸せを心から祈っているのだよ。手段を択ばずに」
「少しは選べ!」
「ふむ、そうだな…だが断る!」
「何がしたいんだ!?」
「私は自分が一番楽しくなるように事を運ぶことを望む!」
「それで俺の意思は無視かよ!?」
「王にはそんな自由はない」
「え?」
「むしろだな、いきなり女が現れて、たった今からあなたの妻ですと。私ですらそうなんだ」
「む、ムムム…」
「戦場で背後を任せられる相手が妻など、望外といってよい。陛下は幸せ者です」
クリフォードに諭されてレイルの目に色が戻る。甲子まで小声でやり取りしていたため、周りには聞こえていない。いないったらない。
「こほん、さて、本題に入ろうか」
「そうですね、お願いします」
「フレイアもいいか?」
「ええ、望むところですお兄様」
「え? え?」
「この状況で本題といえば、誓いの言葉しかないだろう? いい加減覚悟を決めるんだ義弟殿」
「くぁwせdrftgyふじこlp;@:」
レイルが口を開こうとしたその時、両サイドから抜き手がわき腹に決まる。示し合わせたようなタイミングでの突込みに、レイルは声にならない悲鳴を上げていた。
「お、わかったって? さすが英雄王の再来は違う!」
息が止まり声を出せないレイルにニヤニヤした笑顔でクリフォードが声をかける。レイルの視線で人が死ぬならクリフォードは何回死んだであろうか?
「天地を統べる神に誓いの言葉をささげる。この場にいる者全てが証人である!」
クリフォードの宣言に再び歓呼の声が上がる。
「汝スカサハ。これなるレイルを夫とし、病める時も健やかなるときも苦難を共にし生きることを誓うか?」
「はい、喜んで!」
居酒屋チックにスカサハが即答する。
「汝フレイア。これなるレイルを夫とし、病める時も健やかなるときも苦難を共にし生きることを誓うか?」
「はい、誓います」
「最後に問う、レイルよ、これなるスカサハ、フレイアを病める時も健やかなるときも苦難を共にし生きることを誓うか?そして、守り抜くことを誓うか?」
「……誓います」
「「レイル殿(様)」」
二人は感極まってレイルに抱き着く。
「ここに誓いは成された。盛大な拍手により彼らの前途を祝おうではないか!」
万雷の拍手が降り注ぐ。再び花びらが撒かれ、この世ならぬ幻想的な雰囲気が醸し出される。
入り口から血まみれの騎兵が駆け込んでくるまでは。
「婚礼の場に推参な!」
「無礼者!」
参列者が口々に怒声を上げる。だがレイルが報告するよう命じる。
「陛下に申し上げます。オズワルド軍が和議を破棄して侵攻、アンスバッハが攻撃を受けております」
その報告を聞いて真っ先にスカサハとフレイアが駆けだした。その表情を見たものは恐れおののいていたという。
レイルもあわててそのあとを追いかけ、即応可能な手勢のみを率いて援軍に向かったのであった。




