トラブルの火種ってやつは向こうからやってくる
ちょいちょい見たことのある単語が出てきますがあまり気にしないように
次の日、目覚めたレイルは部下たちに指示を出してゆく。盗賊団の探索、ゴブリンの集落を探す。兵の休暇ローテーションなど。そして自らと5名の兵を選び、西の集落への使者の護衛を行う。
「あ、レイルさんが護衛なんですか?」
「ああ、ジーク、おはよう」
「じゃあ、安心だ。よろしくお願いしますね」
「ああ、任せとけ。んで、やっぱ昨日の騒ぎの件かね?」
「そうみたいですね。いざって時に援軍とか避難とかの話し合いです」
「あっちもどっかの傭兵入れてるんだっけ?」
「らしいですね。ただ、あんまり働かない割に給金の催促が多いとかで・・・」
「安心確実のがモットーのラーハルト傭兵隊を今後ともよろしく!」
冗談めかしてライルが言うとジークとほかの村人もにも笑い声がはじける。彼らは足取りも軽く森の中に切り開かれた道を歩いて行った。
道中ゴブリンの襲撃が1回と、コボルドの集団をやり過ごした以外は特にトラブルはなく、隣村にたどり着いた。ジークはすでに何度かこちらを訪れており、顔パスで門は開いた。ジークと村人は村長宅に入り、門前でライルたちはジークが用事を済ませるのを待つ。するとガラの悪い男がやってきて兵の一人に因縁をつけ始める。
「てめえらどこのもんだ?」
「隣村からの使者の護衛だ」
レイルが代表者として答える。
「ハッ、こんなガキに護衛なんぞ務まるわけがないだろうが!」
「そう思うのは勝手だが、お前の認識でこの世のことが決まるわけじゃない」
「なんだと、このガキ、生意気な口をききやがって!」
「どうでもいいがそんな怒鳴らなくてもいい、ちゃんと聞こえてる。それとももう耳が遠くなったのか?」
言い返された傭兵は頭から湯気を噴き上げそうな勢いで首から上を紅潮させて行く。剣を抜こうと右手を腰にやり、柄を握った瞬間その柄頭をレイルが押さえた。
「やめとけ、それを抜いたらただじゃ済まなくなる」
「そうだな、それにお前のかなう相手じゃない」
背後から声が掛けられる。気配を察知していたのか、レイルは平然とした様子だった。
「お前がレイルか。物騒な名前の傭兵隊を率いている」
「どんだけ物騒か知らないが、俺がそのレイルだ」
「ふむ、若いのに対したタマだ。なあ、俺の部下にならんか?」
「それで俺にどんないいことがあるんだ?」
「近いうちにこの辺の村を支配下に入れる、お前さんには村一つを預ける。働き次第じゃもっとだ」
「一応名前を聞いておこうか?」
「ふん、傭兵団ビリジアン・ラクーンのヘラルドだ。ってそういう返事ってことは」
「ああ、断る。俺たちは誰の下にもつかない」
「ふん、後でほえ面かくなよ?」
「お前こそ、あちらの男に乗っ取られないようにするんだな。ありゃ俺より強い」
レイルの目線の先には一目で業物とわかる槍を手に立っている戦士がいた。しなやかな、野生の獣じみた雰囲気を出しつつ、どこか人好きのする笑みを浮かべている。だがその腕を一振りすれば、手にした槍は多くの兵の命を瞬時に奪い去る。そんな物騒な雰囲気をも纏っている。
「ふん、余計なお世話だ・・・覚えてやがれ」
「お前の首を取るまでは一応覚えていてやる」
静かな殺気を交わしつつ、二人は別れた。やり取りが終わったのか、村長宅の門が開きジークが出てきた。
「レイルさん、急いで戻ろう」
「なにがあった・・・ってさっきのアレ絡みか」
「やっぱりそっちでもトラブルがあった?」
「ああ、変なのに絡まれた」
「うん、すぐ出発しよう」
「了解だ。野郎ども、支度しろ!」
足早に村を出てきた道を引き返す。スカウト役の兵ジョルジュが先行し、前方に待ち伏せや罠がないかを確認する。報告は問題なしだった。そのままジョルジュを先頭に立たせ、自らは最後尾を歩く。あのやり取りの後だ、ただで済むはずがない。
「ジーク、何があった?」
「あの村は傭兵団に乗っ取られてる」
「ああ、そういうことか。うちにもスカウトが来たぞ」
「え? それでどうするんだい?」
「先にそっちとの契約があるからな。むろん断った」
「あ、ああ、よかった」
「契約破りは外道のすることだ。で、うちは契約順守がモットーだ」
「そんなこと言ってるのレイルさんところだけだと思うよ?」
「ジーク、いい言葉を教えてやろうか」
「え?どんな?」
「よそはよそ、うちはうち。だ」
「えー、なんだそりゃ、オカンかよ!?」
思わず笑いがこぼれ、村人たちの緊張が若干ほぐれる。
「さて、おいでなすったか」
「え?」
「敵集だ、ジョルジュ! 上から狙撃だ!敵の配置の確認!」
「了解!」
ジョルジュは音もなく樹上に駆け上がり、そのまま森の中に紛れた。
「アド、大楯でジークたちの護衛だ」
「承知!」
「俺が前に出る、槍使いの戦士が現れたら無理せずに下がれ。ありゃ俺でも勝てるかわからん」
軽口っぽく告げたが兵の間で緊張が走った。マッセナでもレイルと模擬戦では半分も勝てない。ここにいる兵でレイルと向かい合って1分立っていられない。
「やれやれ、世の中ってのは広いですな。若より強いのがいるとか」
「そりゃあ、俺はまだ未熟者だ。それに父上は俺よりもずっと強い、強かった」
彼らの前に追撃してきた兵が現れた。そこにいたのは村長宅前でレイルに絡んできたチンピラだった。
「なんだ、お前らだけか?」
「はっは、頭に逆らう愚か者はここで死ぬんだよ!」
「もう一度聞く、お前らだけか?」
「てめえ、こっちは20いるんだぞ。とっとと武器を捨てろ!」
「雑魚だ、一気にやるぞ!」
レイルの合図で、どこからともなく矢が飛んできてチンピラ兵の口の中に突き立つ。レイルが突進し先頭にいた兵を切り伏せる。左右に展開していた兵が二人一組で奇襲をかける。一応、隊長格がいたはずが真っ先に狙撃されて倒された。後方にいた兵はそのまま逃げる。追撃の余裕はないし、一刻も早く離脱するべきと判断してレイルは一団を率いて村へと急ぐ。
夕刻、村へと帰り着いたレイルたちが目にしたものは、100あまりの兵に包囲される開拓村の姿だった。
村はマッセナの懸命の指揮で持ちこたえていた。だが、レイルのそばにいるのは村人と傭兵合わせて10名。奇襲をかけるには戦力が足りない。そんなとき、昨日の旅芸人の一座が敵兵から隠れ潜んでいた。
次回 奇襲
お楽しみに!