野戦で決戦
個人的武勇<集団戦術
レイルは軍2000を率いて、プロバンス領との境界に兵を進めた。もう少し進むと開けた平野部に出る。事前に戦場の調査を行っている、わずかな高低差はあるが基本は見通しが良く伏兵などには向かない。小細工のできない戦場であるあたり、相手の性格が透けて見えるようだ。
「スカサハ、策を」
「はい、まずは本陣を固めます。柵を連ね防戦の用意を」
「ふむ、守ってばかりでは勝てぬ。逆撃を加える機は?」
「二通り。柵を破られた場合は後退し、包囲陣に誘い込みます。もしくは攻めきれず下がったときに追撃を」
「逆にこちらが伏兵にはまることはないか?」
「その点は敵の正面戦力である程度読み切れるかと」
「というと?」
「半数以下であれば予備兵力は大きくとっています。すなわち追撃を誘って包囲する意図であると」
「うむ」
「逆に正面突破に戦力をつぎ込んできたのであれば、その攻勢を跳ね返せばすなわち勝ちかと」
「わかった。それで行こう」
「後は、虎の子の兵の投入時期のみですね」
「とどめに使うか、反撃の際に使うか」
「臨機応変にいきましょう」
「それ行き当たりばったりって言わないか?」
「高度な柔軟性を維持しつつ、気に臨んで変に応ずるのです」
「変わってねえ…」
なんだかんだ言いつつ布陣予定地に到着した。ジークが率いる自警団は、そのまま荷駄隊となり、野戦築城を開始する。正面になる方向に合わせて地面を掘り下げ、土塁を作る。その上に柵を連ね、櫓を建てる。スカサハがかなり早い時期からジークを隊長に任じて訓練させていた。防御施設の構築、荷車を使っての簡易陣地の構築、あらかじめ加工した材木を利用しての柵の構築。フリード王国に伝わる書物はほぼ現存していないが、数少ないそれをかき集めて研究した成果とのことだった。
夜明け前、ジョルジュほか数名を派遣して敵の状況を偵察させる。総大将がいる本陣は簡単な柵を連ねているが、特に防御施設を築いている様子はない。見張りの兵は等間隔で配置されており、夜襲などの備えはしっかりとされているようだった。
払暁、立派な身なりの騎士が現れた。どうやら総大将のプロバンス伯のようだ。
「ティルナノグの兵に告ぐ。無駄な抵抗はやめて降伏せよ。マッセナ卿の偽物を引き渡せば降伏を認める。賢明な判断を期待する」
「ティルナノグのレイルだ、返答は…やなこった! 以上だ!」
あまりの返答に馬からずり落ちかけたが、何とかこらえたようだ。その有様を見てセタンタなどはゲラゲラ笑っている。スカサハも苦笑いだ。なんか皆殺しだ!とか物騒なセリフを吐いて戻っていった。
重装歩兵が150、5列横隊で整然と前進してくる。レイル軍からの応射は熾烈を極めた。一瞬空が暗くなるほどの斉射である。だが、大楯を構えた兵は徐々に前進してくる。鎧や盾の隙間をすり抜けた矢で倒れる兵もいるが、即座に陣列は埋められその足は止まらない。陣にとりつくが、頭上から振り下ろされる攻撃に苦戦している。援護射撃のため、弓兵が後方に展開を始める。頃合いを見てスカサハが采を振るう。弩を構えた兵が一斉に引き金を落とす。通常の弓より長い射程と威力を誇る矢が敵弓兵に降り注いだ。そして第二射は重装歩兵の中列に撃ち込まれる。今まで鎧に阻まれていた矢が突き刺さり、敵前衛に動揺が走る。敵は敢えて被害の出ている弓兵を前進させ、援護射撃をさせる。応射により被害が出ているが、前衛にかかる圧力は軽減され、何とか陣列を整えることに成功する。
前衛部隊は陣にとりついている状態を維持し、300ほどの軽歩兵が陣の側面に回り込もうとする。こちらも迎撃の兵を出す。セタンタが勇躍して飛び出していった。敵兵は一塊になっているが、セタンタは方陣を組んだ。長槍を構え、剣装備の兵をアウトレンジで一方的にたたく。両翼が左右に展開し、一気に包囲することで敵が逃げ腰になったころ合いでセタンタが一気に中央に突撃し、敵指揮官を討ち取る。側面攻撃はこうしてあえなく失敗した。
敵は総攻撃を決意した。さすがに最前線に立ってはいないが、残存兵力のすべてを率いて部隊中央で檄を飛ばし前進させてくる。
「矢を惜しむな、たっぷり馳走してやれ!」
「ひるむな、プロバンスの精鋭の力、あの田舎者どもに見せつけるのだ!」
両軍の意地と誇りがぶつかり合う。伯爵の親衛隊の練度はさすがで、堀に土を投げ込まれ、高低差をつぶすと、一気に兵力を集めて突破を図ってきた。レイルは一度陣頭に姿を見せる。セタンタと肩を並べて、前衛で白兵戦を演じる。名乗りを上げて襲い来る騎士を3人立て続けに倒すと、頃合いを見計らって兵を下がらせる。築いた陣を捨て、兵を徐々に後退させる。敵もさるもの、こちらの意図を読んだか追撃の足が鈍る。そこにマッセナ率いる兵が現れる。そして大音声で名乗りを上げた。
「トゥールーズ候、一の家臣マッセナ推参! 儂の首が欲しくば参れい!」
「おのれ、これ見よがしに…あ奴を討ち取れ! 突撃!」
マッセナが率いるのはレイルのもとに最初に集った兵たち。勢いに任せて切り込む。そして哄笑が響き渡った。
「ぐわはははははははははははははははははははははははははははははははは!」
斧を水車のように振り回し、当たるを幸いと敵兵をなぎ倒す。あまりの光景にさしもの精鋭も怯む。マッセナに注意が集まっていることを見越して、兵たちは敵の陣列に浸透し切り崩す。フルプレートを着た兵が頭上高く打ち上げられる光景に目を奪われ、そのスキに切り伏せられる。指揮官が檄を飛ばしているが兵の足が止まってしまった。そこにレイル率いる騎兵50が切り込み、前衛と親衛兵を切り離すように分断してゆく。そこに、本体が反転して戻り反撃を始めた。ご丁寧に反対側から弩を連ね、一斉射撃を叩きつけた直後である。敵本隊に矢が降り注ぎ、指揮官級の騎士が何人も倒れ伏す。指揮系統を分断されたことで混乱に拍車がかかり、後方の部隊が崩れ出す。いわゆる裏崩れ状態だ。
レイル率いる騎兵が再度の突撃を敢行した。弓兵の支援射撃の直後で、陣列に空いた穴は埋まっていない状態である。そこをこじ開けた。後続部隊は潰走したと告げて兵の動揺を誘う。
「フリードのレイル、参る」
「な、なんだと?!」
レイルの名乗りにプロバンス伯は動揺する。馬上から剣を振り下ろすがさすがにそれは受け止められた。馬から降り立ち、徒立ちで切り結ぶ。敗戦しつつあるという心理的重圧と、レイルの名乗り、マッセナの勇戦でやはり動揺があったか、数合で剣を弾き飛ばされた。
「降伏…してもらえますかね?」
「わかった。私の負けを認める」
ここにプロバンスの戦いの勝敗は決した。
プロバンス伯は全面的に降伏し、レイルの配下になると言い出した。南の都市部への進出を進言してくるプロバンス伯にレイルは当惑気味である。
次回 時を渡りし者たち
お楽しみに




