独白
マナミはリビングへ戻ると、皿の前から動かないマロのためにキャットフードと新しい水を出してやった。
太り気味なマロのためにダイエットフードを与えているのだが、一向に痩せる気配がない。それどころか、ますますその体躯は丸みを増している。
「あんた……私がいない間につまみ食いしてるでしょ」
マロは食事に夢中で聞いていない。
「知ってるんだからね、おやつが減ってるの。あんたの届かない所にしまってる筈なのに、どうやってその体で登っているんだか……」
あっという間にキャットフードを平らげたマロは、ペロリと口を舐めると知らん顔で自分の寝床に潜り込んでしまった。
「本当、食べるとき以外は近寄っても来ないんだから。薄情者」
マロを横目で睨みつつも、言葉を続ける。
「ねえ、私ったら勢いとは言え、どうして女と猫しかいない家に知らない男を上げちゃっているのかしら。まあ色気も素っ気もないけれど、こっちは一応女じゃない? 何かあったらその時はあんたも助けてよね」
マナミは、何も言葉を返してはくれないと分かっているのに、それでもマロに話しかける。いや、話しかけているようでその実、自問自答しているのだ。
今日の自分は何か見えない糸で操られているようだと、マナミは落ち着かない心地なのだった。
「……あの日のあんたに似ていたからかな……」
どこか捨て猫のような風体の男性を、ガリガリの子猫だったマロの姿に重ねたのか。だから放っておけなかったのか。
優しくマロの顎を撫でると、ゴロゴロと喉を鳴らした。
生き物の温かさに慰められる。
安心したら、腹の虫が鳴った。
「ああ、私もお腹空いた。そういえばあの人、好き嫌いあるのかしら」
マナミが自分以外のために食事を作るのは、随分久し振りのことだった。
その時、リビングのドアが開いた音がした。
「あ、上がった? お湯は熱くなか……うわっ!」
キッチンにいたマナミがリビングの方を振り返ると、バスタオルを腰に巻いた以外は産まれたままの姿の男性が、汚れた自分のスウェットを持っている。
「ちょっと! 何しているのよ! 着替え置いておいたでしょ? 裸でうろうろしないでよ。あなたの着ていた物は後で洗ってあげるから、洗濯機に入れてきて」
男性は言われるがまま、また風呂場へと戻っていった。
「何なのよ……変な人」