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睡夢の人  作者: まつもと なつ
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春の夜

 その日は、春だというのに嫌に寒く、夜半には雪も降るという予報だった。

 マナミは仕事帰り、買い物を終えて駐輪場へと向かっていた。

 天気予報を見てきたにも関わらず薄手のコートで来てしまった自分に恨み言を言いつつ、ブルブル震える手で自転車の鍵をバッグから取り出したその時、業務用ゴミ箱の陰に動くものが見えて、マナミは思わず足を止めた。


「え……何?」


 またマロのような野良猫かもしれないと言い聞かせ、恐怖に早鐘を打つ心臓を必死で押さえつけながら、ゴミ箱に近づく。


「……! ……ひ、人?」


 それは薄汚れた服を着た、青年にも、老人にも見える男性のようだった。


「あの、大丈夫ですか……?」


 恐る恐る声を掛けるが返事がない。


「もしもし、あなた? 大丈夫ですか?」


 今度は大きな声で、ぐっと距離を詰めて話しかけるが、全く反応がない。

 やや躊躇いながらも、マナミは意を決してその人物の肩に手を掛け揺すってみた。


「ちょっと、あなた! こんな所に寝たら風邪引きますよ! 起きてください!」


 耳元で大声を出しながら揺すったのが利いたのか、男性はようやくうなだれていた頭を上げて声の主の方に目を向けた。

 反応があったことにマナミは安堵し、大きく息を吐く。


「ああ良かった! あんまり起きないから、死んでるんじゃないかと思って怖かったの! ねえ、大丈夫? 立てる?」


 男性はまくし立てて喋るマナミに目を白黒させたが、寒さで固まってしまった体をほぐすようにその場でぐいぐいと伸びをすると、のろりと立ち上がった。

 だが、ただ道ばたで寝ていただけにしてはあまりにも全身泥だらけで、服が所々破けている。マナミは、何か事件に巻き込まれたのではと訝しんだが、このままここに置いておけるわけもないので、どうしたものかと困惑した。

 すると男性が寒そうに両腕をさすりだしたので首に巻いていたストールを掛けてやると、男性は戸惑ってストールを返そうとしたので、


「いいから、これ以上体冷やしたら死んじゃうよ。あげるから掛けてなさいよ」


 更にしっかり巻き付けてやった。

 申し訳なさそうにぺこりと頭を下げる男性を見て、マナミはこの人物が危険ではないと何となく感じた。

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