友人
「マジパネェ。鍵まで変えるか? 普通。マジウケる」
以前タカヤがいきなり連れ帰った三ギャルの一人『カナぞう』ことカナコがどぎつい紫色のネイルを塗りながら、マナミの話に驚愕した。
「だって、私の番号あちこちで勝手に教えてんのよ? 居酒屋だけならまだしも、キャバ嬢とか、ぼったくりバーにまで知れ渡ったら流石に身の危険を感じるでしょ!」
「マジ? そこまでいってんの? そりゃあマナミも激おこだわ」
「激おこじゃ済まないの、ええと、何だっけあの……一番上の奴」
「激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリーム」
「それそれ。毎回思うけどさあ、よく覚えられるね……」
ギャルは元々住む世界が全く違う人なので、未だにカルチャーショックの連続だ。
特に言語に関しては、マナミには外国語にしか聞こえない事が多い。いや、外国語どころか最早呪文である。
この人種と地味なマナミが友人になれたのは奇跡に近い。
「毎日使ってれば嫌でも覚えるっしょ。アタシも最初パネェとか思ったけど、使わないとお客と話通じないからさ」
カナぞうはネイリストだ。しかもギャルの間ではそこそこ名の通った人物らしい。大手チェーンから二十五歳で独立し、今や芸能人も通う程の人気ぶりなのだそうだ。
マナミは仕事柄派手なネイルは出来ないため、カナぞうの事は知らなかったが、三ギャルの他の二人が絶賛していた。
たまに遊びに来た時、宿代代わりなのかマナミの爪を整えてくれる。
「タカヤってホントヤバいよね。ルックス超だせぇし。……何で付き合ってんの?」
突然向いた矛先に、マナミは飲んでいたビールを吹き出しそうになった。
「……! ゲホっ……付き合ってないから!」
「何言ってんの、一緒に住んでてさー」
「あいつが勝手に転がり込んできたのよ!」
「そうなの? え? 何で? 意味わかんねー。付き合ってないならそのまま追い出せばよかったじゃん、連れて帰らないで」
ギャルの口から出た正論に一瞬言葉を詰まらせ、誤魔化すようにビールを一口流し込んでから答えた。
「……可哀想に見えたのよ。迷子の子猫みたいで」
「はあ? 猫? タカヤが? あんた頭大丈夫?」
「今となってはあの時の私は相当おかしかったと思うけど、どうしても放っておけなかったのよ。だって、ボロボロだったんだもの……」
マナミは、タカヤと出会った夜の事を思い出していた。