発見
「え? あの、タカヤはあなたのところに通ってるんじゃないんですか?」
マナミの質問に、今度は女将の方が面食らった表情になる。
「何度かはお見えになりましたけど、通っている、というほどではありませんねえ」
「じゃ、じゃあ……率直に聞きますけど、タカヤとはどういう関係なんですか?」
一瞬目が点になった女将だが、ぷっと吹き出して言った。
「嫌だわ、どういうも何も、只の飲み屋とお客様ですよ。もしかして、私とタカヤさんが男女の関係になっていると思ってらっしゃる?」
「……思ってましたけれど……違うんですか?」
女将は左手の甲をマナミに向けた。キラリと光るものがある。
「私、結婚してますのよ。この店は夫と二人でやってるんです」
「……ええ!?」
予想外の答えにマナミはパニックになるが、女将とタカヤは深い関係でないことが分かり、一人であれこれ悪い方に考えていたことを恥じた。
「あの、すみませんでした! 変なこと言ってしまって……」
冷静になると顔から火が出そうになり、マナミは女将に深々と頭を下げる。
そんなマナミを、女将は優しく許してくれた。
「お気になさらないで。こういうことはよくありますから」
いつか二人で来て欲しいと女将に見送られ、とぼとぼ駅に向かって帰る。
結局空振りだった。女将とは何でもないということだけが収穫だったが、タカヤ本人に会えないことには、ここに来た意味がない。
帰る道すがら、ひょっとしたらタカヤに会えるかもしれないと思い直し、目を皿にして辺りを見回しながら進む。
端から見るとかなり怪しい人物だろうが、マナミはなりふり構っていられないのだ。今見つけなければ、永遠に彼を失ってしまうかもしれない恐怖に、マナミは突き動かされている。
駅に近づくにつれ人の数は増し、視界を遮られる。人の間を縫って歩いていると、ほんのわずかな隙間から、見覚えのあるグレーのスウェットが顔を覗かせた。
その一瞬の手がかりに向かって必死に人波をかき分ける。だが、背の高くないマナミは簡単に押し流されそうになる。進んでは戻り、また進む。
死にものぐるいでようやく人ごみが切れた隙間に出ると、遠くに、懐かしいぼさぼさ頭が見えた。
肺がはちきれそうなくらいに息を吸い込む。
持てる限りの力を振り絞って、マナミは思い切り叫んだ。




