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睡夢の人  作者: まつもと なつ
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行動

 猫が家出して、六日が経った。

 毎日行けるところは虱潰しに探したが、見つけるのは知らない猫ばかり。

 こんなに長いこと帰って来ないことは今まで無かった。せいぜい三日で帰って来たのだ。

 自力で探すのにも限界を感じたので、チラシを作り近所中の郵便受けに片っ端から入れて回る。うちの猫は日本猫と違い、長毛で変わった毛色なので、見ればすぐに分かるだろうという希望的観測を持っていた。


 チラシを配って二日、三日、とうとう十日が過ぎても、一向に連絡は来ない。事故にでもあったのか、はたまたあの子を気に入った誰かに連れて行かれたのか……。

 心配のあまり食事もろくに取らない私を心配して、夫は言った。


「まーちゃんが倒れたら、彼が悲しむよ。帰ってきた時に笑顔で迎えてあげようよ」


 夫の優しさはありがたかったが、何故だろう、頭の片隅であの子がもう帰って来ないような予感がするのは。

 必死で振り払おうとしても、あとからあとから涌いてくる。

 中々見つからない焦りがそうさせるのか。それとも、虫の便りというやつなのか。

 ベッドに入ってもしっかり眠れない日々が続いていたが、寝不足がピークに達し気絶するように眠ったある日、夢を見た。

 

 夢の中で私はいつもの女性になっており、ファミレスで先輩らしき人と一緒にいる。行方不明の彼について、先輩は人づてに情報を得たらしい。

 私は彼と別れた時を思い出して、大泣きしてしまった。

 涙でぐちゃぐちゃの私に先輩が「今からそこに行ってみよう」と、思い切ったことを言ってくる。

 私は驚いて拒否したが、先輩は「逃げてばかりじゃ、彼は絶対に戻って来ない」と、強引に私を隣の駅まで連れて来た。

 気の進まない私の背中を一発叩いて「彼が欲しいなら取り返してきな」と、送り出してくれた。

 駅前から長く続くアーケードの下を、人混みをかき分けながら進む。一足ごとに心臓の音が高なっていく。早く会いたいけど、会うのが怖い。

 あと一ブロックで、飲み屋街に入る。私は立ち止まって大きく深呼吸した。

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