苦悩
ピークを過ぎたファミレスは徐々に客が引き、マナミとマルヤマを除けばあとはぽつぽつと見えるだけになった。
食事を終えて、コーヒーとイチゴのムースが運ばれてくると、居住まいを正してマルヤマが本題を切り出す。
「あのね、タカヤ君のことなんだけど」
コーヒースプーンを回す手を止め、マナミはマルヤマの言葉を待った。
「タカヤ君、街中の飲み屋街で最近良く見かけるらしいの」
「飲み屋街って、アーケード通りの一番端にある所ですよね」
この街の繁華街は、マナミ達が勤める『スーパーあべ』からかなり離れた、一つ隣の大きな駅の前にある。その駅前は六ブロックに渡って長いアーケードが延びており、数々の店が軒を連ねているのだが、その最果てにあるのが飲み屋街だ。ここには今まで散々タカヤを迎えに行っており、マナミも顔なじみが多い。
そんな近くに居るとは思いもよらず、またどの店からも連絡が無かったことを、マナミは訝しく思った。
「それがね、タカヤ君は飲み屋街の店で飲んでるんじゃないみたいなのよ」
「え? どういうことですか」
マルヤマは神妙な面持ちになると、マナミに顔を近付け声を低くして言った。
「どうやら、一つ裏道の小料理屋に出入りしているらしいのよ」
小料理屋と聞いて、マナミにはすぐに思い当たる人物が頭に浮かんだ。マナミがタカヤと別れたあの夜のきっかけになった、はんなりとした和風美人だ。
みるみるあの時の暗い感情が蘇り、手が汗ばんでいるのに冷たくなっていくのをマナミは感じた。
「マナミちゃん、大丈夫?」
マナミの様子にマルヤマが、何か触れてはいけないことに触れてしまったと、恐る恐る顔をのぞき込む。
「いえ……ちょっと……」
ぎゅっと絞まる喉からようやく声を出すと、勝手に涙があふれてマナミの顔を濡らしていく。
マルヤマがそっと差し出したハンカチが、あっという間にくしゃくしゃになった。
「すみません……」
「私の方こそ、聞きたくないこと聞かせちゃったみたいね。ごめんね」
「いいえ、私がお願いしたんですから。只、タカヤが居なくなった日のこと思い出してしまって……」
マナミはあの夜のことを、マルヤマに打ち明けた。
「そうか……。今まで苦しかったね。よく一人で我慢したね……」
マルヤマの言葉に、マナミはやっと心が救われたような気がして、ますます涙が止まらなくなる。自分に責任があるとはいえ、ずっと誰かにこの苦しみを分かって欲しかったのだ。




