焦燥
マナミがタカヤと離れてから、もう三ヶ月が経とうとしていた。相変わらず、なしのつぶてである。
徐々にタカヤが居ないことに慣れ始め、そんな自分に呆れるマナミであったが、だからといって生活をしないわけにもいかない。家と職場を只々往復する日々が続いていた。
ところが、ひょんなことからタカヤを見たという情報が入る。憔悴したマナミを見かねたマルヤマが、常連客にタカヤの特徴を伝え、もし見かけたら教えて欲しいと掛け合っていたのだ。その甲斐あって、よく飲み屋街に行くという年輩の男性がタカヤらしき男を見たとマルヤマに話しているのを、閉店間際のスーパーでレジ締めの準備中に耳にした。
急いでレジを締め、最後の客を送り出すマルヤマが作業を終わらせるのを待ちきれず、マナミは話し掛ける。
「マルヤマさん、さっきの話……」
「うん、ちょっと待って。終わったら言うから」
マナミには、ベテランのマルヤマがレジを締め終わるまでに掛かるたった五分が永遠にも感じられた。
素早く、しかしマナミにとってはようやく締め終わったマルヤマがレジを出てロッカールームに向かうと、マナミは後を追いながら返答を急かす。
「ねえ、あのお客様タカヤを見たって……。本当ですか」
「マナミちゃん、きちんと話すからまずは着替えましょ」
「でも……」
食い下がるマナミに、マルヤマは向き直ると、
「落ち着いて。ここじゃゆっくり説明できないから、どこか座って話せる場所に行きましょ」
マナミの肩に手を掛け、諭すように言った。
「はい……」
逸る気持ちを抑え、マルヤマの言う通り着替えて職場を後にし、近所のファミレスに入ることにした。
「まずは何か食べましょ。お腹空いてると、イライラしちゃうからね」
マナミは食欲が涌かなかったが、これ以上マルヤマに心配を掛けるわけにいかないので、食べやすい温かいうどんを注文する。
「私はハンバーグ&エビフライセット。それと、食後にコーヒー二つ。あ、あとイチゴのムースも二つ」
「マルヤマさん、私そんなに……」
「いいから。甘いもの食べると元気になるよ」
押し切られる形ではあったが、マナミは素直にマルヤマの気遣いに感謝する。
十分もするかしないかで、料理が運ばれてきた。
お腹が満たされると、不思議と気持ちが落ち着いた。




