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睡夢の人  作者: まつもと なつ
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失踪

 その日は突然やって来た。

 

 私は仕事で家に居らず、夫はいつも通り家事をこなし、午後になると買い物に出た。

 夫が買い物から帰宅すると、猫が一直線に玄関に向かって走って来る。玄関には脱走防止用に背の低い扉を付けてあったが、丁度夫が開けたところで、更にタイミングの悪いことに、大荷物を入れるため玄関のドアをストッパーで開け放っていた。


「わわわ……! 駄目だよ!」


 夫の制止は間に合わず、あっという間に猫は玄関を走り抜けて行く。しかし一階のオートロックで足止めされることも多いので、夫はそれほど慌てずエレベーターで降りた。

 ところが運の悪い時というのは続くもので、この時一階の自動ドアはオートロックが解除され、宅配便のドライバーが入って来たところに猫が居合わせたため、足止めされることなく外に出て行ってしまった。

 夫が一階についた時には、そこに猫の姿はあるはずもなく遅きに失した夫は自分を悔やんだ。

 すぐに私にメールを送り、とりあえず一人で近所を探して見るも行き先など見当もつかないため、当てずっぽうに歩き回ったが見つからない。

 とうとう日が暮れて私が帰る時間になったため、一旦家に戻ることにし、簡単な夕食を準備する。そこに私が慌てて帰宅した。

 これまでの経過を一通り聞いた私は、夫の無防備さにしっかりと雷を落としたあと、いつものように明日からの捜索範囲を決め、この日は寝ることにした。

 

 『いつものこと』だと、この時は思っていたから。


 次の日、私は仕事があるため早起きしてマンション周りをくまなく調べたが、駐輪場にも駐車場にも居なかった。ゴミ捨て場も当然行ってみたが、カラスが居るだけで猫の姿は無い。

 敷地を出て、猫が通りそうな狭い道や壁と壁の間なども行ける範囲で確認したが、居るのはうちの猫ではなかった。

 出勤時間が迫ってきたので、後ろ髪を引かれる思いをしながらも仕方なく出かける。あとは夫に任せてきたが、何故だかこのまま見つけられないのではないかという不安ばかりが押し寄せる。

 このところ、猫は体力が落ちてきたのかおとなしくしていることが多かったように思う。保護したときすでに大人だったので、もしかしたら結構いい歳なのかもしれない。

 

 ちらりと、悪い考えが頭をよぎる。

 

 すぐに『いつものこと』と無理矢理切り替えたが、一度浮かんでしまったネガティブな気持ちは中々消えてくれなかった。

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