違和感
不快な電子音がマナミの意識を引き戻そうと、部屋中に鳴り響く。
布団の中から腕を伸ばし枕元の目覚まし時計を掴むと、手探りでアラーム停止ボタンを押す。まだ開ききらない目で必死に文字盤を見ると、マナミは何やら違和感を覚えた。
「あれ……こんな時計だったっけ……?」
時計を枕元に戻し、天井を見上げる。昔ながらの板張りの天井が目に飛び込んできた。またもマナミにはしっくりこない。
布団の上に起きあがり、周囲を見回す。
六畳ほどの室内には、ハンガーラックと引き出し式の衣装ケース、小さな押入、ピンクのカーテン、そして床の上に布団。
自分の部屋なのだという認識はあるのだが、マナミはどこか居心地の悪さを感じずにはいられなかった。
と、ドアの方からカリカリと音がする。無意識に猫だと分かり、布団を出てドアを開けると、足元にやはり猫。だがマナミはその猫を見ても、すぐに名前を呼ぶことができなかった。
「ええと……あれ? 何でだろう。おかしいな……」
しゃがんで猫の顎をくすぐると、ごろごろと喉を鳴らす。ふと、その首元に何か物足りなさを感じた。
「首輪、どこ行っちゃったの?」
寝室を出て、リビングを歩く。マナミはここでも現実感を得られない。気持ち悪さを堪えながら首輪を探していると、猫の食事用の皿が目に入った。
ローマ字で「MARO」と書かれている。
「ま……ろ……? ……あ!」
マナミは一気に現実に戻って来た。
「ごめんごめん、寝ぼけてたみたい」
足元のマロに謝ると、やっと分かったか、とでも言わんばかりに、マロは自分の皿の前に陣取った。
「何で首輪してると思ったんだろう……」
マロは首輪など、初めからしていないのだ。
マナミは、自分の寝ぼけぶりに一人で顔を赤くする。
「それにしても……嫌な夢だったな」
いつもなら朧気にしか覚えていなかったが、今日の夢は強く記憶に留まっていた。
夢の中の夫婦が飼っている猫が、たまたま開いていたドアからするりと逃げ出してしまったのだ。猫が居ないのに気付いたのは、それからやや時間が経った頃である。
食事の時間になっても姿がないので、部屋中探し回ったが見つからない。外に出てしまったと分かり、慌てて近所中名前を呼びながら歩いたが、一向に姿を現さない。
すでに夜も遅くなり、この日は引き上げて次の日また探すことにした。




