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睡夢の人  作者: まつもと なつ
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夢か現か

 あの夜からおよそ二月ふたつきほど経ったが、マナミは一度もタカヤに会っていない。マナミが居ない間に帰って来た気配も無い。

 勢いとはいえ拒絶したのだから当然なのだが、マナミは心のどこかでタカヤは帰って来ると思っていた。今までも必ず帰って来た、だから大丈夫だと。都合の良いことだと分かってはいたが、マナミにはその一筋の希望にすがるしか道は無いのだ。

 食事もろくに喉を通らず、仕事中も油断すると涙が出てくる状態で、マルヤマにもやつれたと心配される。

 布団に入っても寝付けない。いつタカヤが夜中にこっそり帰って来るか分からないから、うとうとしてはマロが立てた物音にはっとして、タカヤではなかったことに落ち込む。

 

 浅い眠りの中で、マナミは以前見た夢を毎日見るようになった。夫婦らしき男女と、鳴き声だけ聞こえた猫。

 だが、最近は前回のような霞掛かったものでなく、日を追うごとに会話や風景がはっきりとしてきた。

 夫婦は都会のマンションに住み、妻が会社で働き夫の方は専業主夫らしいこと、二人とも年齢はマナミと同じ三十六歳で子供は居ないこと、猫は種類は分からないが明るい灰色で毛足の長い雄だということがこれまでの夢で分かった。

 猫を飼っているという共通点があることに、マナミは夢だと認識しつつも親近感を覚えた。そして何故か、この夫婦がマナミとは赤の他人だと思えないのだ。猫以外にお互い通じるものは無いのに。

 最初の夢は俯瞰で夫婦を見ているような状態であったが、二回目以降はどうやら妻の方と同化し、当事者としてそこに存在しているらしく、マナミは時々どちらが本当の自分なのか分からなくなった。しかし不思議と、恐れや不安は抱かなかった。

 夫は優しく、風貌が何となくマロに似ているし、猫もとても懐いていて仕事で疲れた妻を癒してくれる。

 マナミは、もういっそこのままでいたいとさえ思った。目覚めなければ、辛い現実に戻らなくて済むのだからと。

 

 タカヤの居ない部屋は嫌に広く、寒い。

 

 この日見た夢の中では夫婦で一緒に買い物に行き、ランチにイタリアンを食べ、美味しそうにピザを頬張る夫を幸せな気持ちで見つめていた。

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