インターバル・Ⅲ
「…………! ……ちゃん、大丈夫? まーちゃん!」
夫に大声で起こされ、私は慌てて飛び起きた。
「何? 地震?」
辺りを見回してみたが、棚から物が落ちた様子もない。
「まーちゃん、地震じゃないよ。うなされてたから起こしたの。何か怖い夢でも見た?」
「夢? ……覚えてない……あれ」
何気なく顔を触ると違和感があった。濡れている。
「何で濡れてるのかな……」
「泣いてたよ、苦しそうに」
泣いてた……?
そう言われてみれば、心臓が締め付けられるようにきりきりと痛む気がする。何も覚えていないのに。
でも、またあの人が居たことはうっすら記憶にある。何故だろう、何か意味があるのかしら。
「まーちゃん、温かいお茶でも飲もうか」
まだぼんやりしている私に、夫が心配そうに言う。
仕事の虫な私の代わりに専業主夫になってくれた優しい夫。結婚してからちょっとぽっちゃりになったけど、困ったような顔に見せる短い眉毛とも見事にマッチして、ますます良い人オーラを振りまいている。
「ありがとう。じゃあもらおうかな」
「オッケー、ちょっと待っててね」
キッチンに向かう夫の背中を見送ると私はベッドに寝ころび、夢の内容を思い出そうとしてみたがやはり無理だった。
最近よく夢に見るあの人は、一体何者なんだろう。彼の姿だけは、はっきりと脳裏に焼き付いている。いつも同じグレーのスウェットでぼさぼさ頭で。ちっとも私のタイプじゃないのに、どうして何度も夢に現れるの……?
「ニャア」
不意に鳴き声がしたと思うと、ベッドの足元から猫がぴょんと乗ってきた。
「あれ、起きちゃった? ごめんね」
私の胸元まで寄ってきた猫の背中を撫でてやると、気持ちよさそうにお尻を持ち上げる。顎の周りをくすぐると、ごろごろ喉を鳴らした。
「ねえ、あなたは彼って何者だと思う?」
猫に分かるわけがないのを承知で、私は質問する。
ところが猫は、そのきらりと光る眼をこちらに向けじっと私を見て、まるで何かを訴えかけているようだ。
ややしばらく、私はその意図を読みとろうと見つめ返していたが、
「まーちゃん、お待たせ」
夫が扉を開けた音に驚いた猫は、さっと私の上から飛び降りてベッドの下へ潜り込んでしまった。
「あーあ、マサヒロさんが驚かすから逃げちゃったじゃない」
完全なとばっちりを食らった夫は、そんな時でさえ優しい。
「ごめんね、ちゃんと君の分もあるからね」
足元の猫にも、しっかりおやつを用意していた。




