核心
二人は、家までの道のりを一言も喋らずに歩いた。
マナミには言いたいことが山ほどあったはずだが、それを全く言葉にできずにいる。タカヤはいつものタカヤで、マナミの後をくっついて歩くのが仕事でもあるかのように、黙々と足を動かす。
そうしているうちに、あっけなく家に着いてしまった。
マナミは自転車を駐輪場に停め、入り口の前で待っていたタカヤに、
「ねえ、家に入る前にそこの公園でちょっと話したいんだけど……」
と持ちかけると、タカヤはすぐにそれに応じた。
今来た道を少し戻り、大きな公園の入り口にある車止めを越えた脇にある、モダンなデザインのベンチにマナミが腰掛けると、タカヤはマナミの真向かいに立って、マナミの言葉を待っている。マナミは自分の横に座るよう、座面をぽんぽんと叩いてタカヤに促す。タカヤは素直に従うと、マナミの方に向き直った。
やや躊躇った後、マナミはぽつぽつと話し始めた。
「……あのね……何て言うか、昨日のことなんだけど」
心臓が今にも口から出そうなくらい、マナミは緊張した。頭も上手く働かない。指先が冷たくなっている。秋口とはいえ、まだまだ気温はそれほど下がっていないのに、マナミの体は震えていた。
それを察したタカヤは、冷たいマナミの手を取ってぎゅっと握った。タカヤの手は、ほっとする温かさだった。
「昨日の……あの女の人は、誰?」
言われてタカヤはしばし考え込んだが、あまり覚えていないのか首を傾げている。
「潰れたあなたを家まで連れてきたあの人よ。どういう関係なの? 私のこと教えていなかったでしょう。驚いていたわよ、私が家にいて。もしかして……恋人……?」
タカヤのぱっとしない態度にじれたマナミは、一番知りたかった事をずばり聞いてしまった。言った後で激しく動揺したマナミはタカヤから身を離すと、発言を誤魔化すように早口でまくし立てた。
「いや、いいんだけどね? 私達そういう関係じゃないんだし、どうこう言う権利もないから。只ね、私のことを教えてない人って初めてだったからびっくりしただけ。だからタカヤの特別な人なのかなと思って……」
そこまで言うと、マナミの目にみるみる涙が溢れ出す。
「あれ……? 私、何で泣いてるのかな。ごめんね、ちょっとおかしいね……」
タカヤは只静かに、マナミを抱きしめた。




