訪問者
今日のマナミはすこぶる機嫌が悪かった。昨日もタカヤが酔っぱらって飲み屋で眠ってしまったからだ。
しかし、そんなことは日常茶飯事なのでいまさら怒りのポイントにはならない。
一体何がマナミをそこまで不機嫌にさせるのかというと、ずばり、女である。
タカヤが酒癖とともに女癖も悪いことは、マナミもよくよく承知のことであるし、二人は夫婦どころか恋人でさえないのだから、お互いどこで誰と何をしていようが全く問題もないし、今まで気にしたこともなかった。
だが、今回は違った。
なんと飲み屋の人が、タカヤを家まで連れてきたのだ。
ずっとタカヤに迷惑を掛けられてきたマナミにとって、初めての出来事である。喜ぶべき瞬間が訪れたはずだった。
しかし相手が良くなかった。
これまでの、タカヤが厄介になった店はどちらかというとキャバクラなどの派手な店が多い。ところが、今回飲んでいた店は極々普通の、どちらかと言えばかなり地味な小料理屋だったのだ。
それだけならまだマナミには何もダメージが無いのだが、タカヤを連れてきたのが小料理屋の女将で、マナミとはほど遠い、落ち着いた大人の雰囲気たっぷりの和風美人なのである。
彼女を見た瞬間、マナミは女としての存在意義を打ち砕かれたようなショックを受けた。
世間の男が真に求める女は、きっとこの人のような女なのだ。自分では到底太刀打ちできない──そんなほの暗い嫉妬が、じわじわと涌いてくる。
女将は言われて連れてきた家に女性が居たことに初め驚いたが、すぐに平静になって、
「タカヤさん、奥様がいるなんて仰らなかったから、びっくりして。すみません、突然お邪魔いたしまして……」
と丁寧に詫びた。
その言葉に、マナミは更に頭を殴られた気分になった。
これまでの店ではマナミのことは周知のことであったので、タカヤが自分のことを教えていない女性が存在するなど考えたこともなかった。
何故、自分の存在を知らせていないのだろう。それほどに、この人は特別な女性なのだろうか。タカヤにとっての自分とは……?
マナミの頭の中を、疑問ばかりが駆け回る。
「あのう……? 私そろそろお暇いたします。夜分に失礼いたしました」
女将はきちんとお辞儀をして、帰って行った。
マナミは何も言えず、只その背中を見送るだけだった。




