悪循環
タカヤがマナミの家にいつの間にか住むようになって、およそ二ヶ月がたったある日、マナミが仕事から帰るとタカヤは家に居なかった。
元々タカヤの家ではないので当然と言えば当然なのだが、マナミは既に同居人として受け入れていたので、居ないことに不自然さを感じるようになっていた。
「どこに行ったのかしら。全く、メモくらい置いて行きなさいよ」
その日はとうとう帰ってこなかった。そればかりか、次の日も、その次の日も、果ては一週間しても帰ってこない。余りにも戻らないので、マナミはもう自分の家に帰ってしまったのだと思ったのだが、そうではなかった。
居なくなった次の週末、深夜に突然知らない番号からマナミの携帯に着信があった。普段なら登録していない番号には出ないのだが、この時はタカヤからだと思ってとっさに出たのだ。
「もしもし?」
「あの、タカヤさんのご家族の方ですか?」
聞いたことのない男の声だ。マナミは緊張して答える。
「家族って言うほどの関係ではないですが……同居人です」
「実はタカヤさんがうちの店で酔っぱらって寝てしまったんです。どれだけ起こそうとしても起きないもんで、すみませんけど迎えに来てもらえませんかねえ」
「ええ? 何とかそちらで起こしてタクシーにでも乗せてくださいよ」
「いやいや、こっちは店が閉められなくて困っているんですよ。とにかく迷惑なので早く来てくださいね」
一方的に店の住所を伝えると、電話はブツリと切れた。
しばらく唖然としていたが、また催促の電話が来るのも煩わしいので、仕方なくマナミはタカヤを迎えに教えられた店へ向かい、ひたすら迷惑を詫び、飲み代を立て替え、タカヤをタクシーに突っ込むと自宅へと戻った。
次の日、このことについてマナミが散々説教をし、その場では反省したように見えたタカヤだったが、結果は知っての通り、同じ事の繰り返しである。
そして業を煮やしたマナミが、電話番号と鍵を変える決断をするに至ったのだった。
「何で一緒に住んでんのかますますワケわかんないわあ」
経緯をすっかり聞いたカナぞうの心底呆れた声に、マナミは返す言葉もなかった。




