食卓
「こら! ご近所迷惑でしょうが! 静かにしなさい!」
マナミが、近所に響かないように気をつけながらも一喝すると、一人と一匹はぴたりと動きを止める。
しゅんとする男性と、マナミには見せなかった一面を見られどこかばつの悪そうなマロ。人間と猫が逆になったような両者の様子に怒るに怒れなくなったマナミは、とりあえず腹ごしらえをすることにした。
「座って。ご飯食べましょう、お腹空いたでしょう?」
食卓兼用の白いコーヒーテーブルの上に、二人分のオムライスが乗るともう他の物は入らなかった。仕方なくマナミは自分の分をトレーに乗せ、サラダとスープはテーブルに乗せた。
「狭くてごめんなさいね。一人暮らしだとこれで用が足りちゃうから」
男性の分は全てきちんとテーブルに置き、トレーを抱えて自分はソファーと反対のカーペットの上に座る。男性は余程空腹だったのだろう、マナミが勧める前にすでに食べ始めていた。
「よっぽどお腹が空いていたのね。おかわりあるから、沢山食べてね」
がっつきながらもうんうんと頷く男性に、マナミは先ほど発見したタグに書かれた名前について訊ねることにした。
「あのね、あなたのスウェットに名前が書いてあったんだけど、あなた『タカヤ』っていうの?」
それを聞いて、男性は食べる手を止めた。
「『タカヤ』って、下の名前? それとも名字かな?」
何の返答もない。
聞いてはいけないことを聞いてしまったのかとマナミが一瞬困惑すると、男性がいきなり人差し指を下に向け何らかのジェスチャーを始めた。
「……? 下……? 下の名前でいいの?」
伝わったことが分かった男性は何度も頷き、にこにこと笑う。
あどけない笑顔に、マナミは男性が一体何歳なのか興味が涌いた。
「今いくつなの? 私は三十四歳」
妙齢の女性の割に、マナミは自分の年齢を口に出すことに抵抗はない。美人とか可愛いという、目鼻立ちのはっきりした顔ではなかったが、童顔なので実年齢よりかなり下に見られることが多いため、むしろ自分から年齢を明かしている。
あまりにも年相応に見られないということは、かえってコンプレックスにもなるのだ。
年齢を聞かれた男性は、しかし首をひねるばかりであった。
「もしかして、自分の歳分からないの?」
男性ははっきりと頷いた。




