少年
男性は用意されていたマナミの部屋着を着て戻ってきた。
「……やっぱりちょっと小さいわね。でも、なかなか似合うわよ、ピンク」
上下ピンクでもこもこした可愛らしい部屋着は、肩や太股がややきつそうで小花柄が横に潰れている。マナミが思っていたよりもがっちりとした体型のようだ。ズボンの丈も寸足らずで、すねが半分覗いている。
何だか男性がそわそわしているので、マナミは目線の先を追ってみた。すると、彼は眠っているマロを見つめている。
「猫、好きなの?」
男性は嬉しそうに即座に頷いた。その様子がますます男性を少年のように見せ、母性本能がくすぐられたマナミは思わず彼に言った。
「あなた可愛いわね。小さな子供みたい」
言った後、マナミは大人の男性に言う言葉ではないとはっとした。大抵の男性はこういう事を言われると、馬鹿にされたと感じると聞いている。
「ごめんなさい、失礼なこと言ったわね」
しかし彼は全く意に介さず、むしろ喜んでいるように見える。今まで出会った男性とは全く違うパターンの反応に、マナミは面食らってしまった。
こういう時一体どうしたら良いのか。マルヤマがこの場にいたら、きっと巧いこと対応できるのだろうが。
男性が全く喋らないので、話はそれ以上続かなかった。
その時、マナミの窮地を救うかのように、マロが目を覚ました。マナミはすかさず、
「マロ、この人あんたが好きなんだって。一緒に遊んで貰いなさいよ、いいダイエットになるわよ」
マロに男性を押しつけて、マナミは洗濯をしに風呂場へと逃げた。
洗濯機の中に、男性が着ていたボロボロのスウェットが入っている。一体、彼に何があったのか。マナミは上着の方を取り出し、痛み具合を確認する。すると。
「……あら? 何かタグに書いてある。……た、か、や……?」
消えかけたサインペンの文字で、襟のタグに平仮名で確かに書いてあった。名字とも、下の名前とも取れる。
謎の男についての手がかりが一つ見つかった。
ともかく、この泥だらけのスウェットを綺麗に洗ってやらなければならない。あの部屋着のままで帰すのは流石にマナミには気が引けた。
洗濯と乾燥が終わるまで、まだしばらく掛かる。
ともかく、食事を取りながら名前について聞いてみることにした。
リビングでは、マロのためにと買ったはいいが全く見向きもされなかった猫じゃらしでマロと遊ぶ男性と、マナミに見せる態度とは全く違うアクティブなマロの姿があった。




