こんな俺でもか?
俺、宮司斗真は現在絶賛怒鳴られ中である。
場所は俺のアパート。普通に何処にでもありそうな白いコンクリートで覆われたアパートの2階が俺の家だ。
中は……誰がどう見ても御世辞だろうときれいとは言えない状況になっている。ゴミが散らかっていたり、服がその辺に不規則に散らかっていたりしている。
片付け……する気になんねえんだよな。
俺の容姿はと言うと、髪は日本人独特の黒色でぼさぼさになっているがそこまで伸びているわけではない。顔は少々やつれていて目には隈がくっきりとできている。身長はそこそこ高い方で皆より細い。服装は、学校指定の学ランに黒いズボンを着ている。性格は、面倒な事には一切首を突っ込まない様にしており、他人には興味ゼロ。クラスの中でもかなり浮いていて、無口な方だと思う。
え? ところで何故そんなところに住んでいるのかって?
そんなの安かったからに決まっているだろ。安いの一番!
高校に入って家はすぐに出た。どうせ居たって頭が悪いとか、お前は何故いつも家に居るのか等の声が聞こえて来る。別に学校に行っていなかったわけではない。只、学校が終わるのと同時に家に帰り自室に籠る。休日もずっと自室に籠っていた。そんな日々が今までずっと続いてきた。そんな生活が、親にぐちぐち文句を言われ続ける毎日がとても嫌だった。だから家を出た。一応働いて金を稼ぎ、学校に行き、家に籠る。働くと言うものが入ったため、家に居られる時間はかなり減ってしまった。だが、親に自室に居るときに無理矢理呼び出されると言う事がなくなっただけ開放感が沸き上がってきた。なのに……それなのに。
「分かった!? もうゲーム、読書ばっかじゃなくて外に出たら? ……聞いてるの? ねえ、斗真!」
「……ああ」
こいつ、椎名弥生はどうしてかよく俺の家に勝手に入って来やがる。そして、いつもいつも俺に説教をしてくる。
俺に八つ当たりでもしてんじゃないのか?
容姿はと言うと、髪は俺と同じように日本人独特のきれいな艶の掛かった黒色で長く後ろの方で一つに纏めている。顔はどちらかと言うと童顔で身長は平均より少し下の方だ。今の服装は学校帰りなのか学校指定の制服にリュックを持っている。体型はスマートで一言で言って美少女だ。それに頭もよくてスポーツも出来る。性格は……なんと言うか俺だけに冷たいような感じ? 普通は他の奴に笑顔で反応しているのに。小説とかでよく見る典型的な万能型の奴だな。
なんでこんな奴が俺の近くに居るのやら。
そんな事より人の家に勝手に上がり込むのはいけない事だよ。不法侵入だよ! 不法侵入!!
ん? ゲームやパソコンをいつもしているのかって?
当たり前じゃん。部屋には本がどっさり置いてあるし、ゲームはPSPやDSは持っていないけどネットでなら結構有名だよ。
まあ、俺が戸締まりをしてない事があるからと言うのも理由の一つだが……。と言っても隠れているだけじゃ駄目なんだよな。弥生は何故か俺が居る時だけは絶対に入って来るからな。扉を突き破ってでも……。あのときは凄く大家さんに怒られたんだぞ! 金もそこそこ掛かったし。それなのに何故か俺が居ない時だけは帰ってるって言うんだよな。
超能力者じゃないのか? 透視とかの。
ああ、序でに弥生は俺の幼なじみだ。幼稚園の時からずっと一緒のところに通っている。中学まではずっと同じだった事には然程気にしてはなかった。俺等の家も結構近かったし、他の奴でも中学までは同じだった奴はいたしな。唯、俺のような奴に積極的に話しかけてくるのは弥生だけだったけどな。最近は、もう一人いるが。だが、今になっても訳が分からない事がある。何故弥生が俺と同じ高校なのかと言う事だ。弥生ならもっと上の高校にも普通に行けた筈だ。一応、俺も親には頭が悪いと言われていたが平均よりは結構高かった。だが、弥生程ではない。て言うか、弥生程に勉強ができたら苦労はしないんだけどな。けど、本当になんでもっと上に行かなかったんだ?
「どうかした?」
「いや、何でもない」
「その顔……私がなんでもっと上の学校に行かなかったのかって考えてる?」
げっ、気づかれた! ……やっぱ超能力でも持ってるんじゃないのか? ガチで。……俺の顔が分かりやすいだけかもしれないけど。
「あ、ああ」
「……んー、内緒だよーだ」
いつもこれの繰り返しだ。こう言う事はどうしても答えてくれない。
「ふーん、で今日はなん―――」
ゴンゴン! ゴンゴン!
いきなり俺の部屋のドアが強く叩かれた。
……うん、この叩き方は必ずあいつだな。それにしてもいつもなんでベルを使わないんだ? その方が楽なのに。別に関係がないし放っとこうか。うん。それが一番良いよね。
「開けて〜」
うん。先程の声で仮定が確証に変わったな。
ガチャッ。
え? 開いた?
ドテッ。
「痛っ」
そんな、少々間抜けな声が辺り一帯に響いた。弥生の奴、鍵を閉めなかったな。……俺が言えた事ではないか。
やれやれ。またうるさいのが来たな。邪魔なのに。
「斗真く〜ん、なんで開けてくれなかったの〜?」
「え? 君は誰ですか? 番号を間違えていませんか? 序でだから弥生も一緒に出て行ったら?」
質問攻めにして序でだからと言って弥生を追い出そうとしている俺は鬼畜かな? いや、別に鬼畜だろうが鬼畜でなかろうが俺にとっては知った事じゃないけど。
「えっ!? すす、すみませんでした! ……て、あれ? やっぱ斗真くんじゃない〜」
「海上さん、なんでいつも漫才してるんですか! て言うか、斗真の部屋に勝手に入って来ないでよ」
いやいや、それは弥生、君もだよ。
ついさっき入って来たのは海上繭。俺と弥生と同じクラスの俺に話しかけて来るもう一人の珍しい人物だ。こいつの容姿を言うと、髪はこれまた日本人を象徴する黒い色をしており、きれいなポニーテールになっている。顔は弥生よりももっと童顔で幼さが残っている。背もクラスで一番の低さを誇っており、高校生なのか? と思う事も度々ある。服装は弥生と同じ制服を着用している。性格はと言うと、もうお分かりいただけたかと思うが結構な天然だ。その少々感じる幼さ(幼いと言えば怒る)と何処からどう見ても天然にしか思えない彼女は、クラスのアイドル的な存在だ。そして弥生の一番の親友でもある。
俺から見たら別にそんな風には見えないのだが。
「ダレデスカ?」
「ガーン、そんな事言わないでよ〜。て言うよりなんで片言なの!?」
本当に五月蝿いな。こいつ等が来ると俺の趣味のゲームや読書が出来ないんだよ。正直言ってうざい。
「はいはい。繭は早く出て行けよ。序でに弥生もな。邪魔だから。」
「え〜!! 繭はさっき来たばっかりだよ〜!」
「なんで私も入ってるの!? 私は斗真の事を思って言ってるのよ!」
「えっ、別に弥生っちは帰っていいよ〜。斗真くんは騒がしいのは嫌いなんだし〜」
「海上さんの方こそ帰ってください! 最初に居たのは私です!」
……虫が二匹も。殺虫剤でも買っとこうか。
「順番は関係ないも〜ん。斗真くんがいいと言った人だけが斗真くんの部屋に居られるんだもん!!」
「じゃあ、私ね」
「繭だもん!」
「私!」
「繭!」
「私!」
「繭!」
どちらとも五月蝿いわ!
ポコ。ポコ。
俺は二人の頭を軽く……なのか? 加減をして叩いた。
「痛っ、斗真! なんで叩くのよ!」
「そうだよ〜。酷いよ〜?」
「五月蝿い。声を張り上げるな。そしてさっさと帰れ」
「何その言い方!? 分かったわよ。さっさと帰ればいいんでしょ!」
この言い方は弥生は拗ねたかな?
「そうだよ〜。そんな事言われたら繭泣いちゃうよ〜? でも弥生っちが帰るならいいかな〜?」
「お前もだ」
「えー!? 繭はここに居るもん! わっ、ちょっと弥生っち!? 離してよ〜」
「駄目です。それとこれ、これ渡しとくからその日だけは絶対に来てよね」
「あっ、繭も渡したいのがある〜」
そう言って二人は手紙みたいなものを渡して出て行った。繭は引っ張られながらだったけどな。と言うか、これは何だ? いや、それよりも……。
ガチャ。バタン。
二人が出て行ったのを確認。直ちに行動を開始。
サササササ。
下の住民に迷惑が掛からないようにしながら急いで玄関へと向かう。
カチャ。
任務完了。鍵は閉めたぞ。
「繭はもう一度入るからいいもん〜」
ガチャガチャ。
少し弱めに俺が奥の方にいたら気づかない程度の音で開けようとしている。
「あれ?」
ガチャガチャ。
今度はもっと思いっきりドアノブを回して開けようとしている。
……はっはっは。残念だったな、繭。もう鍵は掛けておいたのだ。この勝負、俺の勝ちだ。……俺って今キャラ崩壊してないか? 冷静に、冷静に。
「ぶ〜。酷いよ〜、斗真くん〜」
なんとでも言えばいい。勝ちは勝ちなのだ。
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それから繭が帰るまで1時間程掛かった。弥生もいたみたいだけどな。
それにしてもこれは何だ?
そう不思議に思っていた二つの手紙を開けてみる。
…………ああ、成る程な。弥生が置いて行ったこの手紙は今度の春咲き祭りを一緒に行こう、て事を伝えたかったのか。待ち合わせ場所は学校の入場門前、ね。まあ、たまにはこういうのもいいかもな。あんま行きたいわけでもないけど。
それはそうと繭のは何なんだ? …………何これ。繭も春咲き祭りに行こう、かよ。待ち合わせ場所は……学校の入場門前、か。
こいつ等相談して一緒に決めたんじゃないのか? だって、時間も同じだし。嫌な予感しかしない。何か、嫌な事が起きそうな気が。トラブル発生確率100%
『これだけは来てよね』
断ったらどうなるか……。もっと怖い事がありそうだな。繭はどうせ断っても待っていそうだし。願わくば、不吉な事が起こらんように……。
で、何日だっけ。日付は……明日ですか。嘘でしょ。明日ですか。突拍子にも程がありますよ。ガチで。
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遂になってしまった。待ち合わせ30分前。今は日が傾き始めてもう少しで暗くなりそうだ。10分前位に着けば良いか。
ガチャッ。
俺は、今、この瞬間扉を開けた。もしかしたらこれが最後の……って、なわけないか。
カチャッ。
俺は一応どんなトラブルに巻き込まれても冷静でいられるように心を落ち着かせてから鍵を閉めた。
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「……なんでここに海上さんがいるんですか?」
「なんでって、繭は斗真くんと一緒に祭りに行くからですよ〜」
「は? 斗真と一緒に祭りに行くのは私よ?」
「そんな事言われてもですね〜。もう、伝えてしまったものは仕方ないのですよ〜」
「帰ればいいのに」
「え? 何か言いました〜?」
「別になんでもないのよ」
「邪魔なのに」
「え? 何か言ったかな?」
「何でもないよ〜」
俺がいるのは学校の入場門の右の方。入場門の方は見えない位置だが、声は普通に聞こえる。はっきり言ってあの中に入るのは無理だと思って引き返そうとしてしまった。早速トラブル発生。だが、俺も男だ。ここで諦めるわけには……いかないよな。
「よー、相変わらず五月蝿いな」
そこにいたのはやはり弥生と繭の二人だった。だが、いつものような服とは違って二人とも浴衣を着用している。弥生はきれいな花びらが舞い落ちているかのような絵柄をしていて赤をベースとしたピンクと黄色で飾られており華やかだ。繭は水をイメージしやすいように青をベースとした水色と緑でとても落ち着いた雰囲気がある。
なんと言ったら良いか……逆だな。まあ、二人とも五月蝿いんだけどまだ弥生は大人しい雰囲気もあるので繭のような落ち着いた服を着ているかと思ったが華やかなもの。その逆もまた然りだ。だがまあ、その中でも服に負けない美しさが出ている。
はっきり言って、一瞬二人がとても綺麗に見えて惚れてしまった。一瞬だがな。
俺は……ジーンズにシンプルなコートを着ている。うん、釣り合わねえわ。
「斗真! これは何? 説明して!」
「そ、そう声を張り上げるなって」
「何言ってるんですか〜! 繭も説明してほしいです〜。それと弥生っち、指を指さないでほしいです〜」
弥生は俺に顔を向けながら繭の方を指している。繭の方は……俺を怒るか、弥生を注意するかどっちかにしてほしい。
「と言ってもこれは俺が悪いのか?」
「「へ?」」
繭はよく間抜けな声を出す事があるけど弥生まで間抜けな声を出している。
「だって、お前等が渡した手紙に書いてあったのが内容、日時、待ち合わせ場所が全て同じだったんだぜ」
「え? 海上さんも同じ事書いてたの?」
「弥生っちも〜?」
「ああ、そうだ」
凄い偶然だけどな。と言うか、俺がこんなに普通に喋れるのってこいつ等だけだな。
「そ、そうなんだ」
「何か凄いね〜」
「う、うん」
良かった、良かった。さっきまでの感じのまま祭りに行っても面白くもなんともないからな。どうせ面白くはないどろうけど。
「でもどっちかが帰らないとね」
「そうだよね〜」
なんでそうなるの!?
「と言う事で帰ってよ。海上さん」
「繭は帰らないも〜ん。弥生っちの方こそ帰ったら〜?」
「帰る気は本当にないのね?」
「弥生っちの方こそないの〜?」
「ないわね」
「ないよ〜」
「……帰りなさいよ。このド天然ぶりっ子ドジツインテールが」
「五月蝿いな〜。勉強馬鹿で恋愛経験無しの初心者が」
「五月蝿いわね。本当に!」
「やるの〜!」
ポコ。ポコ。
俺は昨日より少し強めに頭叩いた。昨日の今日でそれかよ。
見ているこっちが恥ずかしいわ!
「痛ーい!」
「酷いよ〜!」
「なんか人が集まりだしただろうか!」
面倒だな。
「行くぞ」
「ちょっ、ちょっと!」
「えっ、わわっ」
本当に面倒だから俺は馬鹿二人組のてを持ってその場を離れる。何時までここにいるつもりだったんだよ!
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俺等はあれから歩いてさっきの場所から少し離れた路地の近くに入った。
「ここまで来れば大丈夫だな」
本当にこいつ等は。親友ならもっと仲良くしろよな。
「「うっ」」
俺がちょっと睨んでいると二人は顔を真っ赤にしてそっぽを向いて俺の掴んでいた方の手を見ている。
何だありゃ?
「ばっ、馬鹿斗真」
ん? 何か弥生が呟いたような? まあ、気にする事ではないか。
「もう喧嘩すんなよ」
「「……」」
なんで睨んでくるの? まるで俺が悪いとでも言っているかのように。なんで?
「ばっ馬鹿!」
「……なんなんだ。本当に」
あいつなんでいきなり走り出したんだ?
「兎に角追うぞ。繭」
「う、うん」
繭もやっぱおかしいな。何かあったのか?
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ガヤガヤガヤガヤ。
あれからすぐに弥生に追いついて一緒に祭りをやっている場所に歩いて行った。祭りの中は人がいっぱいであまりさっさと進めていない。祭りってそんなもんか。
それにしても俺はあんまり体力がないんだから走るのは勘弁してほしかったぜ。ガチで。死ぬかと思ったよ。弥生を追いかけているときは。
で今は人ごみの中、皆で綿菓子を食いながら進んでいる。途中で輪投げをしたり射的をしたりと優雅に楽しんでもいる。
唯、弥生と繭のおかしなところはあまり直っていないんだよな。熱でもあるのかな?
「斗真はさ、何かしたいものとか食べたいものはある?」
「うーん、今のところないな。今までも結構楽しかったし」
これは本当だ。あんまり楽しめる事はないと思っていたのにこいつ等といたら結構楽しかったんだよね。
「そう」
「あー、繭あれ食べたい〜」
うん。繭の方は直っていたな。と言うかよく食うな。
「……斗真も弥生もこれ美味しいよ〜」
「そ、そう。よう食べるわね」
「俺もそう思う」
「そうかな〜?」
それでそこまで食べてないとか言ったら俺等は何なんだ……。
「あ、もうここら辺で終わりだよ?」
「らしいな」
「もう終わり〜?」
まあ、繭の気持ちも分からなくはないがもう暗いし時間も丁度いい位だからなあ。
「ねえねえ。ちょっとあそこで金魚すくいやってるよ。行って来ても良いかな?」
「行ってこいよ」
「繭も近くで待ってるから〜」
そう俺等が言うと弥生は金魚すくいが出来る屋台の方に行き、道具を貸してもらっていた。金魚を見つめている姿は何処か子供っぽくて笑ってしまった。そして金魚を捕まえようとして―――
「あー、捕まえれなかった」
失敗していた。そのとき散って来た水で濡れた顔で笑っている姿を見たとき俺は―――
惚れてしまった。
とても子供っぽくて、それでいてどこか大人っぽくて、とても無邪気なその顔に俺は心の底から弥生に惚れてしまった。いつも見ていた筈の幼なじみのそんな顔に惚れてしまった。
「駄目だったよー」
そんな事を言いながら少し残念そうな感じでこっちを見ている顔もとても可愛かった。
「あ、ああ」
「?」
「帰ろ〜」
「うん。そろそろ帰らなきゃね」
「ああ」
「「?」」
俺の気持ちが伝わってしまったのだろうか。いや、俺の表情がいつもと違っていたせいだろう。二人は頭の上に?を浮かべていた。顔……少し赤くなっている感じがあるな。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「じゃあ、この辺で私は帰るよ〜」
「うん。じゃあ、また明後日、学校でね」
「じゃあな」
「うん。ばいば〜い」
そう言って繭は帰って行った。小さな電灯がチカチカしている小さな道の中俺と弥生の二人だけ。そう惚れた人と二人だけ。惚れた人の顔を見るだけでもこんなに辛いなんて知らなかった。いつも見て来た顔なのに目も合わせられない。でも何故か見てしまう。
「…………」
「…………」
無言が続いた。何の声もしないそんな空間が続いていた。今の俺には隣を他の人が通ろうと気づかなかった。弥生の事だけで頭がいっぱいだった。そんなときいきなり弥生から声がかけられた。
「……どうしたの?」
理由は弥生がこっちを向いた瞬間に俺が目を背けたせいだった。
「……何でもない」
平然を装っているが頭の中は全然平然ではなかった。
「気に障る事でもしたかな、私?」
「そんなわけないだろ!」
頭の中で精一杯我慢していた気持ちが怒鳴ると言う方法で出てしまった。当然、弥生は俺に恐怖を抱き「ひっ」と声を出していた。
最低だな。俺は。
「でもっ、だって今の斗真は私が知っている斗真らしくないもん!」
「仕方ねえだろ! お、俺は、お前の事が……その、好きになってしまったんだから!」
頭の中で今この言葉を出してしまえば関係が悪くなってしまうかもしれない。そう思い、我慢していたが遂に出てしまった。言ってしまった。本音を。
「え?」
弥生は俺の言っている事に対して理解が追いついていないのかきょとんとした顔をしている。いつの間にか足を止めてお互いに向き合っている。とても辛くて胸が締め付けられるがここで目を離してはいけない気がする。
「そう、だったんだ……。斗真も」
え? 今何て言った? 斗真もって言ったような……。
「実は、その……わ、私も、ずっと斗真の事が……」
俺の頭の中もフル回転させ、弥生の答えを待っている。本当は断られたくない。聞いて損したくない。だけど、聞かないでこのまま過ごすのはもっと嫌だ。
「好きだったんだ」
ドクン!
高鳴っている心臓が一際大きく鼓動すると心臓が動きを止めた気がした。一番聞きたかった答え。それが今、僕の目の前にいる彼女から聞けれた。聞き違えではない。心の底に芯から響くその言葉が今、この瞬間聞こえた。
「こ、こんな俺でもか?」
「こんななんて言わないで。私にとって一番はあなたよ」
何故だか涙が出て止まらなかった。小さい頃からずっと続いていた虐め。誰にも言わなかった。いや、言いたくなかった。それでもずっと今まで俺の事を気に掛けてくれて俺を支えてくれた人からの言葉。人を信じなくなっても彼女だけは、弥生だけはずっと信じていた。そんな人からのこんな言葉で感激しない人はいるだろうか。いや、例えいてもいなくても今、俺は感動している。心の底から。そして―――
俺は弥生とファーストキスをした。
ほんのりと甘くて苦い優しさの味がした。
◇◆◇◆
そのとき私、繭は斗真くんと弥生っちのキスをするところを少し離れた斗真くんより後ろの方の道見ていた。
私では決して追いつけないかもしれない空間。その空間には誰一人として入る事は出来なかった。
ポロリ。
涙が一粒出て来た。その涙は悲しみの意味を含んだものではなかった。
「弥生っち、気を抜いた瞬間繭が斗真くんを貰うから」
斗真と弥生とは違う少し離れた空間で繭の呟いた声が小さく響いた。その意味は自分も諦めていない。そして親友の恋が実った事を素直に認める彼女なりの言葉だった。
そして彼女は清々しい顔をしながら自分の家へと帰って行った。
読んで頂き有り難う御座います。恋愛と言うものに関して全くと言っていい程の中学生が書いたものなのでご指摘、感想等をしてもらえると嬉しい限りです。