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壁の花

 3日が過ぎた。


 この魔法の街には大勢の人がいるのを知ったが、常時いるのは多くても2000人くらいのような気がする。

 平均年齢が異様に若い。まだ10代の男女が大半を占めていた。その7割くらいが女の子かもしれない。


 中央広場のスクリーンに連動している端末が、街のあちらこちらに設置されているのを見かける。暇さえあればその端末を覗き込んでいる人が絶えない。自分が書き込んだものに誰かの反応があったのかが気になるのかな? それとも何かを探しているのだろうか?


 そう言えば、この街には平屋の建物しかないな。どこに居ても中央広場の巨大スクリーンの一部が見える。あれって、この街のシンボルなのか。


 憩いの館と呼ばれる建物を4つ見つけた。もっとあるのかもしれない。

 俺は、3日間の間に何度も足を運んでいたが、何時行っても、どの憩いの館にも人が居た。夜中だろうが朝方だろうが絶えず数人が居て、笑い声が絶えることがない。


 俺は壁の花だ。


 1対1であれば気後れなどする事も無いのだろうが、見ず知らずの人達の輪に躊躇うことも無く飛び込んで行くのは、ちょっと無理なんだよな。


 どの憩いの館も基本的な造りは同じだった。トイレなどを別にすると、1つの憩いの館に1個の部屋しか無く、窓が無い建物だ。壁際をぐるっと回れる通路ーー2メートルくらいの幅の通路があって、その通路から3段の階段を下りた処にスペースが広がっている。通路に立つと見下ろすような型に出来ており、それはプールを連想させた。

 窓の無い部屋では、当然、昼間でも明かりが灯されているが天井には付いていない。通路の床を下から照らす明かりが2〜3メートル置きにあって、プールのような低いスペースには、50センチくらいの高さだろうかーーお洒落な街灯のミニチュアのような灯りが何本も立っている。


 通路から誤って落ちたりしないようになのか、それとも通路に立っている人を完全に区別するためなのか、プールとを仕切るパイプの手すりが走っている。そのパイプのせいで、通路から降りる階段は2箇所しかなく、いつも通路に居る俺にとっては、超え難い仕切りに思えてならなかった。


 プールの中に無造作に置かれている多くの椅子。どれも座り心地を重視したようなソファーで、1人掛けもあれば数人掛けもあって、そんな様々なソファーがランダムに置かれ、皆がめいめいに飲み物や食べ物を持参しながら会話を楽しんでいる。


 アルコールとタバコはご法度なのかな? ここで吸ってる人も飲んでる人も見たことが無い。


 気が付くといつの間にか誰かが抜けていて、また違う誰かが入って来るを繰り返す憩いの館。プールのスペースは広く、ソファーはいつも何脚もが余っていたが、俺はパイプの手すりの向こう側ーー通路の壁に持たれて立っていた。階段を下りてプールに行った事が一度も無い。

 通路とプールの間には、パイプの手すりがあるだけなのだが、目に見えない壁があるように感じていた。


 この街には大勢の人がいるが孤独だった。それでも俺はこの街にいる。何かを求めて。



 俺みたいな壁の花は珍しくもないのだろうな。さっきだって向こうの通路に女の人が居たけど、そのまま帰っちゃった。プールで雑談をしている人の中で、そんな壁の花を気にする人は誰もいない。まぁ、通路の灯りが足元から照らす位置にあるから、向こうからは顔が見えないってのもあるのかもしれないが。



 それでも、足繁く憩いの館に通ったおかげで分かった事がある。時間帯によって顔ぶれが変わる。そして、どの館のどの時間帯も、それぞれ馴染みの顔ぶれが集まっていた。派閥と言うほどではないのだろうが、数多くのグループがあって、それは固定されているように思えた。

 それと、物凄い数の防犯カメラが街中に設置されているのに気付いた。こんなに沢山あるのって何なんだ? 死角なんて無いんじゃないのかな。勿論、どの憩いの館の中にも何台もあって、異様な感じだ。


 立て札にはアリス個人の財産だって書いてあったけど、法人なのか? 管理専門の人が居なけりゃ難しいだろ。事務局程度じゃ無理だ。




 あれ? この建物って何だろう?


 街の南側の一角に、そうとうな敷地を使った建物があった。入り口でIDカードをかざすと扉が開き、中に入って行ったが妙に静かだ。


 入り口から数メートル行くとT路地にような造りにぶつかり、左右を見渡すと、それは真っ直ぐに伸びている廊下。片側には外が見える窓が並び、その反対側にはポツンポツンと引き戸があった。



「これって、病院?…………学校か?!」


 それぞれの引き戸の上には、「何年何組」と書かれた木の札も見える。



 サリーが書いた学校がこれか!



 俺は目的がある訳でも無いのに走り出していた。そして、次々と教室の引き戸を乱暴に開けては中を覗き込むが、静まり返って誰も居ない。

 息を切らせながらも走り続けて、最後の教室の前に立つ。きっと、ここに集まってるんだ。


 誰一人居ない学校。それは学校の跡だった。

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