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学校跡での格闘

 数日後のことだ。俺は学校跡に向かっていた。とにかく何処の施設ーーーキャラゲーも5つの館も酷い混みようで空いてる場所を探すのが億劫だ。夏休みのせいなのだろうが、それでも不思議とこの魔法の街には来て居る。


「シグマさん、ちょっといいすか?」


 そう声を掛けられ、振り返ると男の子がいた。いや、よく見ると腰回りが女の子だ。


「ん……? あっ、あ〜、アタル君か。男の子かと思った。あははは、ごめん、ごめん。でもそのスタイルは間違えられるだろ? 君、可愛いのに勿体無いぜ」


 ちょっと大きめのーーー身体にフィットしていないアーミー系の上下に身を包んだアタルが、両手をズボンのポケットに突っ込んでキャップも目深に被っているのだ。きっと、背丈も165くらいはあるだろう彼女は、肩の線も女性らしくなく、胸もけして豊満とは言えないせいで、腰回りに目を向けなければ、可愛い男の子にしか見えない。

 タマコもやんちゃ坊主って言うのか、どちらかと言えば男の子っぽいが、身体つきは、パッツンパッツンのジーパンを穿いて、胸を強調するようなシャツを着ているせいもあって女の子そのものなのだが、アタルはあえて身体の線を隠すような服を着ている。そして、自分から声を掛けてきたクセに、驚いたような困ったような顔で視線を泳がせる。

 少しばかり小さい黒目がそうさせているのか、キツイ目をしたアタルはストイックな雰囲気を醸しだし、見るからにとっつき難い感じではあるが、何重にも着込んだ鎧で身を守っているようにも見える。俺はこういう子が嫌いじゃない。


「なぁ、アタル君、ちょっと後ろ向いて」

「え……」

「いいから、ほら」

「あっ……」


 アタルはアドリブに弱いのだろう。タマコとは大違いでノリの良いリアクションが出来ないようで固まっている。その肩を掴んで後ろを向かせると、それはそれで、やっぱりそのままの姿勢で固まって、けっこう笑える。


「お、お尻……触ったら……マズいです」

「尻? あはははははは、触ったりしないって。……あーー、やっぱりだ。アタル君、バレエやってた? 肩と背中のラインがカッコいいね」

「え……はい……バレエやってました。凄いっすね、初めて言われた。……カッコいいっすか? あの……どうも……」


 そう言いながらも背を向けたままで固まっているのは変わらないアタルは、なんだか苛めてやりたくなるタイプなんだよな。


「うん、そんなガブガブの服着てても、肩とか背中って分かるよ。うん。それに可愛いお尻してんじゃん」


 パーーンとアタルのケツッペタを叩いてやった。


「ヒッ……」


 案の定、股間を向こうに突き出すような格好でよろけ、叩かれたケツを両手で抑えて振り返った真っ赤な顔のアタルは、眉を寄せて、更に困った表情だ。


「ところで、何の用?」


 そう訊いても、どうも、言葉が出ないようで、構わず俺は続けた。


「俺、この学校跡に残ってる資料にけっこう興味あってさ、たまに読みに来るんだよね」


 IDをかざすと扉が開き、俺は学校跡の建物に入って行く。何と無くだけど、アタルもきっとついて来るだろう。


「アタシ、この学校に通ってた。……京華さんとか金太郎とか……友達も出来て、凄く楽しくて……でも潰された。事件があって……」


 ほら来た。


「潰されたって、誰に?」

「シグマさん、この街に来るようになったのって最近ですよね? なんで学校に興味あるんですか?」


 俺は偶然立ち寄った喫茶店で読んだサリーの詩から、この街に来た事を説明し、なんとなく、そのサリーに会ってみたかったのだと言ってるうちに気が付いた。


「あれ? 俺が勝手に想像してたサリーって、君みたいなタイプだな。鎧着込んで、相手を見据えるように睨みつけて、全然笑わない、とっつき難い女の子。君、サリーじゃないよな?」


 学校の中にはついて来ていたアタルだが、またケツを叩かれたらたまったもんじゃないと思っていたのだろう、俺からちょっと距離を取って喋っていたのだが、自分のことを、笑わないとか鎧を着込んでると言われ、それが心外だったのか、2歩、大きく寄って来て、


「アタシ、サリーじゃないけど……アタシとっつき難いですか? でも、さっきシグマさん、肩掴んだし、お尻も……」

「うん? ああ、俺、君みたいなタイプって苦手じゃないからね。よく、変わってるって言われる」

「そっ、それって、どう言う意味っすか?」

「あははは、深く追求しないで。ところでさ、アタル君、ちょっと聞き難い事ズバリ聞くけど、君って女好き?」

「オンナズキ……? ちっ、違いますーーー!! アタシ、レズビアンじゃないです!」


 アタルは見た目と違って、いたってノーマルだそうだ。ただ、確かに女の子から誘われるーーー俺にはナンパされかかったのだと思うがーーーそんな事が多いのだと、なにやら怒ったように言う。


「ふ〜ん、男が好きなんだ」

「ちょっ……シグマさんに言われたら、淫乱みたいに聞こえます。たっ、ただ……普通なんです、普通。男嫌いじゃないだけです!!」

「ところで、俺に声を掛けてきたのって何?」

「え……? あっ、そうだ! シグマさんにいっぱい変なこと言われて忘れてた。それに、お尻触られた……誰にも言わないでくださいよ! アタシのお尻触ったって」

「それ、触られた方が言う? それに叩いたけどサワサワしてないし、誰にも言わないよ……アハハハ」


 しかし、この女の子は笑わない。男の前じゃ笑顔を見せる事が出来ないのか、ニコリともしない。可愛い顔してるのに勿体無い。


「シグマさん、ヤバイっすよ。中央広場のメッセージ板に、名指しで載ってます」


 そう言われた俺は、とっさにアリスを賛美するメッセージの嵐の事を思い出した。


「名指しで俺に?? 俺と逢えて感激しましたって? 誰よ、それ?」

「へ? いや……そんな人いないでしょ。そっちじゃなくって、裏の方。解ります?」

「あ〜あ〜、お友達募集の方な。……えええ? 名指しで? 俺とお友達になりたいって? それってマジ?」

「それは無いんじゃないですか? お尻触るし………なんでも、キャラゲーで遊んでたら、後ろからシグマさんに何かをぶっけられて、表に連れ出されて酷いこと言われたって、そう書いてあって、そのメッセージに色んな人が反応してるんです」

「あーー、アイツか………なんで俺の名前知ってんだ?」

「え……? ああ、そうだ。その人はシグマさんだって知らなかったみたいだった。ただ、現場を見てた人がシグマさんのこと知ってて、レス付けて、あれはシグマさんだって書いてたんだ。シグマさん、顔売れてますよ。ところで何やったんです?」


 どう言う訳だか俺を心配してくれているようだ。うん、この子かなりの美形だと、俺はどうでもいい事を考えながらアタルの顔をまじまじと見ていた。


「シグマさん……聞いてます?」

「ん? ああ、聞いてる。うんうん。そいつ、猫組でアダルト用語連発させてたんだよな。それも延々と何時間も」

「うわ、キモい。でも、それが、その人だって分かったんすか?」

「俺、背高いだろう。だから見えちゃうんだよな。あいつもの凄い勢いでキーボード打ち続けてたから、後ろからテッシュ丸めてぶつけてやったんだよ。そしたら、シコってやんの」

「しこってやんの?」

「オナニー。男ってシコシコするだろ?」


 アタルは何かを言い掛けて止まった。目をパチパチしている。あ、その表情ってメチャ可愛いかも。


「男の人って……そんなのするんだ」

「いや、普通にオナニーはするだろ」

「シグマさんも、するんっすか?」

「はあああ? いや……勘違いするなよな。俺だってオナニーはするけど、あんな場所じゃやんないって。アタル君だって家で一人の時にするだろ。同んなじだ」

「そっ、それは……」

「ウソ言ったって解るもんだよ」

「だっ、誰にも言ったらダメっすからね!」

「大丈夫、アタル君の事を知らない人にしか言わないから」


 仮面ライダーのような飛び蹴りがきた。

 けっこうジャンプ力があって足も上がる。バレエをやっていたせいか? ギリギリでかわした俺は変に感心していたが、真っ赤な顔をしたアタルの回し蹴りがビュンビュンくる。


「ああ、その表情、やっぱり可愛いわ。あはははは、心配しなくても大丈夫だって。アタル君がオナニストだなんて、口が裂けても言ったりしないから」


 ちょうど、左足を軸にしたーーー右足での旋風脚をアタルが繰り出して、俺が頭を下げて潜ったところだ。いやいやいや、けっこう風切ってるよ。でも身体のバランスが悪いのと防御がなってないね。

 後ろ向きで両足を踏ん張るような姿勢ーーーちょっと膝を曲げたガニ股で、下げた両手がキッチリと拳を作っていて、いかにも勇ましいアタルの後ろ姿。顔を横に向けて視界の端っこに俺を捕らえているようだが、はい、隙ありです。


 後ろから、股ぐらを蹴り上げちゃった。そんなつもりは無かったのだが、肩幅ぐらいに足を開いてガニ股で踏ん張った姿勢が、妙に「蹴って」と誘っているようで、条件反射のように足が出た。


「んぎゃ!」


 蹴った俺もマズいとは思ったが、その後のアタル君のリアクションがやたらと可笑しくて、笑っちまった。

 チョコチョコチョコと小走りで俺から離れると、クルっと振り向いた。背筋を伸ばして足を開いてガッチリと大地に立つ勇者のようなアタル君。

 右手を真っ直ぐ俺に向かって伸ばして指を差して格好いい。だが、左手がいけない。股間を隠している。それも覆っているような押さえ方じゃなくて、指を曲げてしっかり股間を握っている。

 もっと女の子らしくちょっと身体を屈めて恥ずかしそうにした方が良いと思うのですが、堂々とし過ぎて、それがかえって滑稽だ。この子はとても面白いタイプだが、それを言ってあげると、ズケズケ言う俺が苦手だと思ったのか、急に、


「帰る。よっ、用事あるから……」


 と、股間を握りしめたままで走って行った。と思ったら立ち止まって、大声で怒鳴っている。


「浄化委員会が動くみたいだよーーーー! 気をつけてーーーー! どすけべーーーー! オナニー言わないでよーーー! 絶対だからねーーー!」




 メインの板の裏側に、俺に酷い事を言われたと書いてあるらしいが、何て言ったかなど覚えていない。ただ、見たくもないモノを見てしまって、あの時の映像だけはしっかりと脳裏に焼き付いていた。

 何書かれたんだろ? まさか、オナニー邪魔されたって書いてんのか? それは無いだろ。


 学校跡で資料を読むのは又の機会にして、街のあちらこちらに設置されている、中央広場の巨大スクリーンと繋がっている端末を覗いてみることとした。


 あれ………ここもダメか。どこもかしこも並んでるよ。

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