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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

貴方のためなら

作者: ともとも.com

俺は考えていた。

というか、珍しく迷っていた。


「…んー…やっぱ…かなぁ…」

時は天正九年、師走(十二月)の初旬。

場所は俺、天下人に一番近い男・織田信長の執務室。

目の前では俺の愛する小姓頭の蘭丸が、自分の仕事を片付けていた。

あんまり俺が唸っていたものだから、蘭丸が顔を上げた。

きれいな瞳がまっすぐに俺を見た。

「いかが、なされました?」

「なぁ、おらん、何歳になった?」

「…?…年が明ければ、十八になりますが…」

「そっかぁ…城、欲しい?」

「は?急に、何おっしゃるんですか。僕、何の武功もありませんよ?初陣さえしてませんよ?」

俺の唐突な問い掛けにびっくりしたようで、いつもより目が大きくなっていた。可愛い。

けど、そうだよなぁ。

それが普通の反応だよなぁ。

思わず腕を組んで天井を見上げた俺を見て、蘭丸が仕事の手を止めて居住まいを正した。

「何を、お考えですか?」

蘭丸の真摯な目を見ていたら、話しておこうと云う気になった。


「あのさ、家中の序列を上から言ってみて」

「まず、一番上に信長さんがおいでで、次が信忠様を筆頭にご子息方やご一族、後はご家老衆、各方面軍の軍団長、遊撃部隊の指揮官方、武将の皆様、お馬廻り衆、奉行衆、僕たち小姓衆、あとはご祐筆、同朋衆…」

「はい、ストップ!で、さぁ…そん中で俺の側近連中はどこにいる?」

指折り数えていた蘭丸がハッとした顔をした。

「ほとんどがお馬廻り衆や奉行衆で、身分的には高くないですね」

「そうなんだよなぁ。

パッと見は軍団長より権限ありそうなんだけど、実は俺の虎の威を借る狐なんだよねぇ。

それをさ、本当に高い身分にしたいんだ」

「それは天下統一後の為ですか?」

蘭丸の瞳の色が深くなっていく。

真剣な表情と相まってゾクゾクしてきた。

「そうゆう事。

実は武田家から俺に内通する者を作った。

春には武田家は滅びる。

上杉も時間の問題だと思う。

東方面はあと北条家と東北の伊達家を何とかすれば終わる。

西方面は毛利家さえ下せば、あとは勝手に下ってくるはずだ。

そうして天下が収まったら今ある軍団はお役御免。

で、おらん達側近が表舞台にでる事になる。

だからさ、今から身分的に嵩上げしときたいんだ」

「でしたら、まずは側近でも上席の堀殿や菅谷殿の所領をご加増されれば宜しいのでは?

お二人とも何度か出陣されてますし」

「ま、それが順当ってヤツなのは分かってるが…側近のお前らは戦に出したくないんだよなぁ」

そう!そこなんだ、問題は。


俺には天下統一後の構想がすでにある。

今は家臣たちの究極の地位は各方面の軍団長だが、天下統一後には無用の長物に成り果てる。

平和になった国には外国から攻められるのを防御する兵の他は自警団的な組織があれば十分だろう。

下手に大軍団なんかがあれば、謀反を企む奴らが出ないとも限らない。

だから、小部隊に解体するつもりだ。

俺がどんだけ苦労して統一してるとか考えてよ。

で、反対に必要になるのが今は側近達がやってる国を統治する人材だ。

一つの法に則り、この日の本を平和に治める為の官僚たち。

俺の側近達はその頂点とする為に、俺自身が育て上げた。

下手に戦なんぞで死なれてたまるか!

だから最近は戦場に行かせても検使や軍監しかさせていない。

実際の戦闘からは遠ざけている。

前に万見仙千代を本人の希望もあって初陣させたら、その戦で討死してしまった。

俺にとってかなりの痛手になった。

だから、おらんに至っては十七歳にして初陣もさせていない。

兄で森家当主の長可からは再三の願い出があったが却下してきた。

この頃は諦めたのか何も言って来なくなった。大助かりしてる。


だが武功もなく所領を与えると、いろいろあるのが現実だ。

少し前におらんにも五百石やったけど、陰でいろいろ言われたらしい。

仮にも織田信長の小姓頭だよ?

奏者にも任命してるんだよ?

そんなに武功の有無が大きいか?

俺的には戦働きの者達は、俺の戦略とおらん達の後方支援に乗っかってるだけと思ってる。

食糧や武器弾薬、その他諸々の手配と確実な輸送があるから戦えてるくせに、事務方の働きを自分達より下に見てる。

今まではそれを許してきた。

けど、そろそろ次の段階に進めねば。


おらんは側近の序列ではNo.1ではない。

が、側近達の中で身分的に一番高い。

何せ大名家の子息で、信忠の有力武将の弟だ。

白羽の矢を立てて問題あるまい。

「あのさ、俺の為に泥かぶってって言ったら、やってくれる?」

「僕は信長さんの小姓です。お命じ下されば、何でもいたします」

揺るぎのない瞳で返してきた。

じゃ、お言葉に甘えよう。

とりあえず、おらんの横に移動して畳の上に胡座をかいた。

慌てて座布団を取りに立とうとする蘭丸を座らせた。

「なら、今度の武田家殲滅戦におらんを連れて行く。

絶対に俺の本隊が戦闘する事はないけど、論功行賞で金山城主になってもらう。

今の金山城主である長可には上杉討伐の先鋒になってもらう予定だから、武田家の旧領に転封する。

どうだ?」

俺が言った途端おらんの顔色が変わった。

指先も僅かに震えていた。

大きな出世に興奮してる訳ではないようだ。

俺の側から離される。

そう思ったんだろう。

慌てて細い肩を抱きしめた。

「おらんは小姓から外さない。

今まで通り俺のそばに置いて置く。

おらんは今は俺の小姓で側近だけど、それに五万石の城持ち大名の肩書きが増えるだけだ」

そのまま軽く唇を合わせると蘭丸が遠慮がちに身体を預けて来た。

「なるべく早く他の連中も大名にするから。それまでいろいろ居心地悪いかもだけど、我慢してくれる?」

「信長さんのお役に立てるなら、誰に何を言われても僕は平気です」

「ごめん。頼む」

二度目の口付けはさっきより少し深いものになった。

蘭丸の唇が応えてきた。

まずい!俺の理性が・・・

「じゃあ、さ…お詫びの前倒しでいっぱい気持ち良くなって…」

俺は抱いていた身体を畳に横たえた。




天正十年弥生(三月)。

織田・徳川連合軍により、甲斐の武田家は滅亡した。

その論功行賞で森蘭丸は転封する兄に代わり森家の本領・金山五万石の大名となった。

前代未聞の小姓大名の誕生だった。

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