四季の恋のものがたり
むかしむかし────
せかいには四つの国がありまして、四人の王さまがおりました。
春の王さま、夏の王さま、秋の王さま、冬の王さま。
春の王さまは春の国を、夏の王さまは夏の国を、秋の王さまは秋の国を、冬の王さまは冬の国を、それぞれおさめておりました。
いろとりどりの花がさき、ことりがさえずる、春の国。
もえぎいろの野の丘に、花びらのとけいがありました。
お日さまがかがやき、お星さまがまたたく、夏の国。
きらきらまぶしいすなはまに、貝がらのとけいがありました。
木の葉がそまり、あまいかおりの実がゆれる、秋の国。
もりのなかのきりかぶに、木の実のとけいがありました。
霜がおり、ぎんいろの雪がふる、冬の国。
つめたくしずかなみずうみに、氷のとけいがありました。
とけいがうごいているあいだ、せかいのじかんはすすみます。
ただし、四つのとけいは四つとも、うごきつづけていられるわけではありません。
せかいでひとつ、きんのいろのかぎだけが、四つのとけいをうごかすことができました。
四人の王さまは、きんのいろのかぎをかわるがわるにあずかりまして、とてもたいせつにしておりました。
はじめに春の王さまが、きんのいろのかぎをあずかりました。
春の王さまは、春の国の花びらのとけいに、きんのいろのかぎをさしこみます。
つぎに夏の王さまが、きんのいろのかぎをあずかりました。
夏の王さまは、夏の国の貝がらのとけいに、きんのいろのかぎをさしこみます。
そのつぎに秋の王さまが、きんのいろのかぎをあずかりました。
秋の王さまは、秋の国の木の実のとけいに、きんのいろのかぎをさしこみます。
さいごに冬の王さまが、きんのいろのかぎをあずかりました。
冬の王さまは、冬の国の氷のとけいに、きんのいろのかぎをさしこみます。
きんのいろのかぎをまわすと、とけいはまかれ、うごきはじめます。
そして、とけいがうごいているあいだ、せかいはきんのいろのかぎをあずかる国の季節になるのです。
四つの国にはそれぞれに、きんのいろのかぎのうけわたしをする、つかいの者がおりました。
春の国は、春の国で一番うるわしい、春の乙女。
夏の国は、夏の国で一番たくましい、夏の青年。
秋の国は、秋の国で一番うつくしい、秋の淑女。
冬の国は、冬の国で一番いさましい、冬の将軍。
きんのいろのかぎのつかいの四人は、それぞれの国の国境で、きんのいろのかぎのうけわたしをします。
冬の国との国境で、冬の将軍からきんのいろのかぎをうけとった春の乙女は、春の王さまのもとへむかいます。
春の乙女からきんのいろのかぎをあずかりました春の王さまは、春の国の花びらのとけいに、きんのいろのかぎをさしこみ、まわします。
春の国の花びらのとけいがうごきはじめると、春の王さまは春の乙女にいいました。
「さあ、このきんのいろのかぎを、夏の国へとどけておくれ」
春の乙女は、夏の青年に恋をしていました。
春の王さまからきんのいろのかぎをわたされると、春の乙女は夏の青年にあうために、いちもくさんに夏の国との国境へとはしりだします。
夏の国との国境までのとおいとおいみちのりを、ひっしにはしる春の乙女。
やっとのおもいで夏の国との国境にたどりつき、春の乙女は夏の青年にきんのいろのかぎをわたします。
しかし、夏の青年はきんのいろのかぎをうけとったとたん、春の乙女のほうをふりかえることもなく、はしっていってしまいました。
春の国との国境で、春の乙女からきんのいろのかぎをうけとった夏の青年は、夏の王さまのもとへむかいます。
夏の青年からきんのいろのかぎをあずかりました夏の王さまは、夏の国の貝がらのとけいに、きんのいろのかぎをさしこみ、まわします。
夏の国の貝がらのとけいがうごきはじめると、夏の王さまは夏の青年にいいました。
「さあ、このきんのいろのかぎを、秋の国へとどけておくれ」
夏の青年は、秋の淑女に恋をしていました。
夏の王さまからきんのいろのかぎをわたされると、夏の青年は秋の淑女にあうために、いちもくさんに秋の国との国境へとはしりだします。
秋の国との国境までのとおいとおいみちのりを、ひっしにはしる夏の青年。
やっとのおもいで秋の国との国境にたどりつき、夏の青年は秋の淑女にきんのいろのかぎをわたします。
しかし、秋の淑女はきんのいろのかぎをうけとったとたん、夏の青年のほうをふりかえることもなく、はしっていってしまいました。
夏の国との国境で、夏の青年からきんのいろのかぎをうけとった秋の淑女は、秋の王さまのもとへむかいます。
秋の淑女からきんのいろのかぎをあずかりました秋の王さまは、秋の国の木の実のとけいに、きんのいろのかぎをさしこみ、まわします。
秋の国の木の実のとけいがうごきはじめると、秋の王さまは秋の淑女にいいました。
「さあ、このきんのいろのかぎを、冬の国へとどけておくれ」
秋の淑女は、冬の将軍に恋をしていました。
秋の王さまからきんのいろのかぎをわたされると、秋の淑女は冬の将軍にあうために、いちもくさんに冬の国との国境へとはしりだします。
冬の国との国境までのとおいとおいみちのりを、ひっしにはしる秋の淑女。
やっとのおもいで冬の国との国境にたどりつき、秋の淑女は冬の将軍にきんのいろのかぎをわたします。
しかし、冬の将軍はきんのいろのかぎをうけとったとたん、秋の淑女のほうをふりかえることもなく、はしっていってしまいました。
秋の国との国境で、秋の淑女からきんのいろのかぎをうけとった冬の将軍は、冬の王さまのもとへむかいます。
冬の将軍からきんのいろのかぎをあずかりました冬の王さまは、冬の国の氷のとけいに、きんのいろのかぎをさしこみ、まわします。
冬の国の氷のとけいがうごきはじめると、冬の王さまは冬の将軍にいいました。
「さあ、このきんのいろのかぎを、春の国へとどけておくれ」
冬の将軍は、春の乙女に恋をしていました。
冬の王さまからきんのいろのかぎをわたされると、冬の将軍は春の乙女にあうために、いちもくさんに春の国との国境へとはしりだします。
春の国との国境までのとおいとおいみちのりを、ひっしにはしる冬の将軍。
やっとのおもいで春の国との国境にたどりつき、冬の将軍は春の乙女にきんのいろのかぎをわたします。
しかし、春の乙女はきんのいろのかぎをうけとったとたん、冬の将軍のほうをふりかえることもなく、はしっていってしまいました。
こうして、きんのいろのかぎは、四つの国をじゅんじゅんにわたっていきます。
そして、四つのうちのどこかの国で、とけいはきょうもうごいています。
春と夏と秋と冬、四つの季節はすべてがおわらない恋のおいかけっこで、ゆえに、季節は永遠にめぐりつづけているのです。
────おしまい。