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道化の王様

作者: 爆弾岩

むかしむかし、あるところに、人々から大変心優しいと親しまれた王様がいました。


貧しい人へ自らの食事を分け与えたり、王冠を金から銅へ変えたり、自らの城を、一部貸し与えたり。


しかし、この王様は本人も気づいていない、偽善の王様でした。


相手の思いを聞いていたわけではなかったのです。

自分がこうすることこそが、この人のためになるに決まっている。


王様は、民の声を聞き届けない王様でした。


ある日、そんな王様の前に一人の道化師が現れました。


「心優しい王様よ。どうかこのしがない道化師を雇ってはくれますまいか。」


王様は考えました。

どうやら、この道化師は行く宛もなく、仕事もなく、ふらりとこの町へやってきたようでした。

ならばここは希望を聞いてみようではないか。

そう考えた王様は、道化師を雇うことにきめました。


王様は、この道化師に何かをしてやりたくて仕方がありませんでした。


横で笑わせてくれる道化師に感謝の念もありました。


ある日、道化師が悲しい顔をして佇んでいるのを王様は見つけました。


「おや?どうしたんだ?道化師よ。」


声に驚いた道化師は、すぐにその顔へ笑顔を張り付けました。


「これはこれは。優しい王様。ご機嫌麗しゅう。いえいえ、どうも致しません。ただ、ふと昔住んでいた家を思い出していただけにございます。」


道化師は根無し草でしたが、なにも昔からそうであったわけではありません。


王様は考え、そしてこう告げました。


「道化師よ。そなたの住んでいた家を、この町に再現するがよい。そしてそこに住み、長く私を笑わせておくれ。」


道化師はたいそう喜びました。


すぐに設計士や大工など、職人を集め、道化師の記憶の再現がなされました。


しばらくして、王室にきた道化師はこう言いました。


「王様、ついに私の家が完成しました。思いでの通りのおうちです。ありがとうございました。」


大喜びで逆さになりながら笑った道化師を見て、王様は大変満足しました。


明くる朝、王様は考えました。

道化師は今までずっと、同じ服をきてきたに違いない。

なぜなら、彼は道化師なのだから。

豪華な服も、豪華な王冠も、装飾も。

ならば貸し与えよう。この王様の服を。


王様は、道化師に服を貸し与えました。

「おぉ…、心優しき王様。ありがとうございます。このような美しく豪華な服は今まで着たことがございません。」


王様の服を着た道化師は、逆さになることができず、代わりに手を叩いて大笑いしました。


その様子を見ていた大臣はしばらくして、王様に苦言を伝えました。


「王様、あのように王様として大事なものを与えてはなりません。奴はそれが目的かもしれないのですぞ?」


王様は大変立腹しました。

自分の行為、自分自身の善意を否定された気分になったのです。


「いいのだ。大臣よ。あれは私が好きでやっておることだ。道化も喜んでいる。それでよいのだ。」


王様は大臣の話を聞こうとはしませんでした。



次に王様は、町の一部を与えました。

その次に、城の一室を。


こうして王様は様々なものを道化に与えました。

しかし王様は、いつしかこう考え出しました。


「わしが如何に道化へ何かをしてやっても、奴から出るのは感謝の言葉のみ。代わりに何かを与えられたことなどないではないか。」


王様は、善意の見返りを求めていたのです。

そこで、道化師と話をすることにしました。



「道化師よ、そなたにわしは様々なものを今まで与えてきた。だが、おぬしから出るのはいつも感謝のみ。かわりにわしに与えたことはなかろう。」


「王よ。心優しき王よ。それは違います。私はあなたへ笑顔を与えました。あなたに感謝の言葉を与えました。そして何より、私はあなたへ忠誠を与えました。これでは足りぬと申しますか?」


王は考えました。

期待していた返事とは程遠かったからです。

気持ちを言葉に表すにも、何か足りない気がしたのです。


それでも王様は、道化師に与え続けました。

持っている服や、王室を。


それでも王様の思い通りの言葉が返ってくることはありませんでした。



こうして、王様が気づいた時には王様は道化師になっていました。

自らのお妃様も与え、自らの王座すら与えてしまっていたのです。


元道化師は、王になり、大層嘆きました。


「あぁ、王よ。私はここまで望んでいなかった。何度も止めたはずなのに。あぁ。王よ。私は道化師のまま、あなたに仕えるのをただ望んでいただけなのに。」


元王様は、それを聞いて悲しくなりました。

「おぉ、道化師よ。私は私が望んでいたものが返ってくることはなかった。私は大変な悲運を味わった。なぜだ。道化師よ。」

元王様は大変嘆き、しかし道化師として王様に仕えました。

自らの顔に笑顔を絶やすことなく。


しかし、ある日元王様は賭けに出ることを決意します。


「王よ。私は、あなたの前から消えたほうがいいかもしれない。あなたは元道化師として、様々な王に仕えてきた。その王から学んだ為政の知識は私以上だ。これからあなたが幸せに暮らすためには、私はきっと邪魔になる。」


元王様は、いいえ、道化師の王様は、自らの存在意義を最後に与えることにしたのです。

そうして、元道化師を・・・王様を試したのでした。


「道化師よ、それは間違っている。私はあなたの存在を望んでいるのではない。あなたがいてくれることを望んでいるのだ。私がほしいのはあなたの場所ではなく、あなた自身なのだ。」


道化師は、それを聞いて落ち込みました。

もう自分自身が諦めてしまっていることに。


そしてその王様の言葉が、きちんと自分で理解できていませんでした。

求められていることに。

必要とされていることに。


「いいえ、王様。私は消えます。あなたの前から。それをあなたは望んでいるはずだ。それがあなたの幸せなはずだ。」



そう言葉を残し、道化師の王様は町の外れにある森の奥へと消えていきました。


残された王様は、大層悲しみました。

大切だったと。

信頼していたと。

必要だったと。


でも、いつかまた道化師の王様が友人としてでも、戻ってきてくれることを望んでいました。

そして自分を評価してくれた道化師の王様に、愛想を付かされないように、自分自身を強く強く誇示することにしたのです。


道化師の王様が去ってすぐ、王の元に新たな道化師が現れました。

その道化師は、自らを雇ってくれないかと言ってきたのです。


王様は迷いました。

いつか戻ってきてくれる道化師の王様が、ここでこのものを雇ったのを知った時どう思うだろうかと。

それでも、もう自分の道化師にはなってくれないのであろうと思った王は、彼を雇うことにしました。

自分の寂しさを紛らわすために。

そして、道化師の王様に見放されないように。前を向くために。




一方、森へと去った道化師の王様は、一軒の空き家を見つけました。

そこでしばらく暮らしていた道化師の王様は、ある日森を眺めてぼおっとしていました。


ふと、近くの木の枝を見てみると、そこには二羽の鳥がとまっていました。


片方の鳥は、ピィピィともう一羽に向かって鳴いていました。どうやら羽に怪我をしているようです。

きっと何かを話しているんだろうな。道化師の王様はそう思いました。


ピィピィと鳴いている鳥を見ていたもう一羽は、ピィと一つ鳴くと羽ばたいて飛んでいきました。


「なんて奴だ!おそらく残された方は自らの子供ではないだろうか。それを見捨てていくなんて!」


道化師の王様は憤慨しました。

なんとか、助けてあげられないかと思案している所に、先ほど飛んでいった一羽が戻ってきました。


口には餌のミミズを咥えて。

それを、怪我をしているもう一羽に与えたのです。


「あぁ・・・あぁ・・・。そうか・・・。あぁ・・・。」


その様子を見ていた道化師の王様は、膝から崩れ落ちました。


自らは、誰の意見も聞かず、ただ自らが思ったとおりにしていた。

その自己陶酔と、独善的な意識の結果が、今自ら大切に思っていた人を手放し、深い森の奥底で、孤独に暮らしている自分を生み出した結果だと。



「すまない・・・王よ・・・いや、道化師よ・・・。私は自分の気持ちに嘘をついた・・・。自分の思いを伝えていなかったのは私のほうではないか・・・。」


深い深い森の奥で、道化師の王様は、その顔に張り付いてしまった笑顔のまま、長く長く、か細い声で、泣きつづけました。


求めていたのは、自らの気持ちだったことに気づき。

その気持ちに改めて気づいたのが、あまりにも遅すぎたことに。

そして、大切な大事なその人を、自らの手で失ってしまったことに。



いつしかその泣き声は、ピィピィと自らの望みを伝えようと、懸命に鳴いていたあの小鳥のように、長く誰かに届けるように、深い深い森の奥でこだまし続けたのでした。




おしまい。

文章の稚拙さが目に余りますね。申し訳ない。

完全思いつきと、書いてる最中に沸いてでた考え方です。


本編の、「伝えたい事」「人に対する優しさの本質」そういうことを感じて頂けていれば嬉しいです。

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