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廃業・新たなる旅立ち

 アローム廃業によって栄巣の取り巻く環境は変わっていく。

しかし、綾瀬といずれ再会するという彼の予感は消えなかった。

これは栄巣の妄想なのか、そえとも願望なのか。

     綾瀬がアロームを去った翌年、栄巣はアロームを廃業する事に決めた

    業績が悪化し支払いに困る度に実家の両親に資金の提供を受けてやり繰

    りしていた。勿論、栄巣自身、不本意な事ではあったが、闇金や消費者

    金融に手を付けても支払いを溜め込んでも、なんにもならない。

     こんな事を繰り返していても仕方ないと、奈緒美と話し合って廃業を

    決めた。廃業の相談のため訪れた栄巣の実家で両親から老人ホームの

    開業の計画がある事を聞いた。

     アロームを廃業するなら、栄巣を調理師、奈緒美を栄養士としてホー

    ムで雇いたいと言うのだ。栄巣と奈緒美にとっては願っても無い事だっ 

    たが建設業から離れられない両親にとっても老人ホームの人事に身内を

    置きたいという思いもあったのだ。

     アロームの廃業は心が痛んだが栄巣としても正当な報酬で家族を養っ

    ていきたかった。ホームの開業予定は1年半先の話だった。

    とりあえずはレストランだけのコストを掛けない営業で1年間をやり過

    ごそうという事になった。奈緒美は栄養士の資格を取るため専門学校に

    通う事になった勿論、資金のない彼等に代わって両親が学費を受け持っ

    た。この歳で情けない話だが、仕方なかった。

     アロームには上田真琴だけが残った。上田は綾瀬があがる前にアロー

    ムでバイトを始めたが高校卒業後の針路が決まっていなかったので廃業

    までの1年間アロームを手伝ってもらう事にした。

     こうして2007年度アロームはレストランだけ、老人ホーム開業ま

    での期間限定で営業を始め、奈緒美は春から専門学校に通い始めた。

   

     しかし7月を過ぎた頃、事態は急変した。老人ホーム開業にあたって

    相談していたコンサルタントと両親の会社の間でトラブルがあり計画が 

    頓挫したのだ。

     今更、奈緒美に学校を辞めてもらっても仕方ない。アローム廃業迄に

    栄巣も職を探さなくてはならない。

     廃業まで半年、栄巣は最後の賭けに出た、どうせ廃業するならこの際

    やれる事はなんでもやってみようと思ったのだ。やり方次第でアローム

    再建もあり得るのではないか。最近近所に出来たショッピングモールの

    中にあるイタリアンのバイキングが盛況だった。

     アロームもバイキングをやってみよう自分一人で作ってセルフサービ

    スで料理を提供するならコストは掛からない。これなら利益を上げて店

    を再建できるかもしれない。だめもとでもやってみる価値はある。

     最初は3日間の期間限定でバイキングをやってみる事にした。ホーム

    ページにも載せ、手造りのチラシをポスティングした。奈緒美は勿論

    美香や直人までポスティングを手伝ってくれた。

     こうして食べ放題と銘打って期間限定でバイキング営業をした。学校

    が休みだった奈緒美にも手伝ってもらって初日は大盛況だった。しかし

    2日目は閑古鳥が鳴いた。ホームページまで使ってもやはり個人店では

    告知力に限界がある。バイキングは集客できる事が大前提だった。集客

    出来なければ、コスト過剰になってしまう。3日目も集客できず。今後

    に大きな課題を残した。

     翌月も期間限定でバイキングをやった。早くから告知しチラシも増や

    したが結果は同じだった。何度もやって認知されなければと思い。毎月

    やる事にした。

     9月のバイキングには奈緒美は授業が合って手伝えないといったので

    上田に頼んで綾瀬に連絡を取ってもらった。綾瀬はコンビニでバイトし

    ながらパソコン教室に通っていると言っていた。都合のついた彼女は快

    く手伝ってくれた。

     栄巣の予感どうり二人は再会したのだが、彼の感じていた予感という

    のは、こんな当たり前な再会ではなかく、おそらくもっと違う場所で

    劇的なものであった。

     結局9月も10月のバイキング営業も不振に終わり。この頃には年内

    での閉店を店頭でもホームページでも告知は始めていった。栄巣も職を

    探さなくてはならなくなった。あちこち探したが43歳ということもあ

    ってなかなか採用が決まらなかった。

     12月、最後のバイキングには小学校六年生の美香を手伝わせた。

    これまでほとんど手伝わせた事がなかったので、彼女にも少しは、経験

    させてあげたかった。料理を運んだり下げ物をしたり、少しでもアロー

    ムの事を彼女に覚えておいてもらいたかった。

     結局クリスマスにやっと居酒屋チェーンの会社に就職が決まった。

     2008年12月31日アロームは14年間の営業に終止符を打った

    閉店kを惜しんでくれるお客さんは少なくなかった。栄巣は自分の

    無力さを痛感した。

    

     2008年1月3日から栄巣は居酒屋の会社に出勤した。1日、2日

    はアロームのあとかたずけにおわれた食材の処分だけでも一苦労だった

    消費者金融や闇金に手を付けてはいけないと、両親から支払いに困る度

    資金提供をうけていたアロームには廃業後に債務は全く残らなかった。

     アロームに残った備品の処分は後々ゆっくり考える事にした。テナン

    トではなく買取物件だったので時間はいくらでもあると思われた。店舗

    階の自宅には住み続けまずは働いて収入を得なければ。

     栄巣にとっては15年ぶりの会社勤めだった。栄巣が就職したのは

    市内に14店舗も出店している居酒屋チェーンの会社だった。綾瀬と必

    ず再会するだろうという予感が抜けきらない栄巣はここで再会するので

    はないかとも思ったが、そこには彼女の姿は無かった。給料はそれ程安

    くはなかったが栄巣にとって決していい会社とは言えなかった。

     国民健康保険を解約した栄巣は面接時家族の為にも早期に健康保険の

    の手配をお願いし面接にあたった営業部長も快く承諾してくれた。しか

    し保険証はなかなか貰えなかった。入社して2週間がたった頃

    「保険証は何時いただけますか?」    

    と店長に聞くと

    「入社3ヶ月はでませんよ。何処でもそんなもんですよ」

    と言われ。4月になって聞くと「事務所に聞いとくわ」とあしらわれ

    5月には店長が転勤した。

     この頃アロームは売却の話が進んでいた。両親の知り合いの不動産屋

    の仲介によりアロームは建物を解体する事を条件に5千万円程で売却が

    決まった。6月中には建物を引き渡すさなければならなくなった栄巣は

    は奈緒美と一緒に不動産屋をまわり賃貸の部屋を探した栄巣の両親は

    戸建の家の購入を勧めた。しかし、栄巣は店舗を売却した5千万がある

    とはいえ廃業した手前それは不謹慎だと思った。 

     アロームから300M程離れた所にわりと外観のよい2LDKのアパ

    ート(ムーンハイツ)を見つけ6月下旬家族を連れて引っ越した。  

     ムーンハイツは全4戸、鉄骨ALCの二階建で日当たり外観、内装共

    に月7万円の家賃にしては良い物件だった。栄巣の借りた202号室の

    階段を挟んで向かい側の201号室の住人は栄巣が越した翌日引越しし

    ていった

     5月に保険証はもうすぐ出来ると新しい店長に聞いたが結局貰えず

    6月給料の締日も過ぎた頃またも店長から

    「もうすぐ保険証できるから」と言われ

    「今月もらえるんですか・?」と聞くと

    「は~今日何日やとおもてんねん!」と笑われる

    13店舗も出店している株式会社なのに労災保険にも加入していないら

    しく結構大きな怪我をしているスタッフも自費で治療している事をに率

    直な疑問を店長にぶつけたのが、そもそものこの特別待遇の始まりだっ

    たかも知れない。他の後から入ったスタッフは早くに保険証を貰ってい

    る。店長の彼女とは知らずに、ぼろかすに批判したのも輪をかけたのだ

    ろう。

     その事を思い出すと栄巣は頭が痛い。もともと、他人の陰口など彼は

    しない。店長の方から聞いてきたのだ。

    「星野・おまえ小泉の事どう思う?」と

    栄巣は正直に答えた

    「自分の事を自分の名前で言う女はちょっと・・頭悪そうで」

    この店には他にも何人かそんな女がいた。栄巣は内心そんな女にイライ

    ラしていたのだ。優しかった店長が翌日から豹変した理由がしば

    らくは栄巣には理解できなかった

     この会社は長く居る所ではないと考えた栄巣は休日に転職先を探し始

    めた。アロームの解体業者への引渡し日が迫っていたがひに12時間を

    超える勤務時間と週1日の休みでは、店舗に残した備品や食材の処理は

    ままならなかった。結局処理し切れなかった大量の廃棄物と共に物件を

    引き渡した事で解体業者から苦情を受けた両親から後日きつく叱責を受

    ける事になった。

    

     8月、栄巣は会社が新規に出店した阿倍野区の店舗に移動となった。

    保険所から営業許可をとる為に調理師免許を持っていて移動できるのが

    彼だけだったからだ。居酒屋チェーンには調理師免許を持っている者は

    ほとんど居ない。ここでも綾瀬との再会はなかった。










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