呑み友はあわてんぼうのサンタクロース
呑み友となった栄巣と綾瀬。盛り上がる二人だけの呑み会。、
そして、また少し彼等の関係は変わっていく。
約束どおり綾瀬は呑み友になった。週に一、二度彼等は酒を酌み交わした。
二人の呑み会は大いに盛り上がった。とはいっても店から泥酔して帰る訳には
行かないので、加減はしていたが。
綾瀬はかなりの酒豪だった。生中の4,5杯ではびくともしなかった。
{やはり、あの時は抱き寄せるべきだったのか?}
酒盛りの度、栄巣は綾瀬の為に料理を作ったり、彼女の好物の刺身をスーパー
で買ってきたりもした。
「美味しいー幸せ!」
微笑む綾瀬と過ごす時間こそが栄巣にとっての至福の時間であった。
季節は彼等を追い立てる様にかわっていった。前に進めば進む程に必ず終わ
りに近づく。この頃、栄巣はなんとなくではあるが、その事を感じていた。
しかし、彼自身もう、それを止める事が出来なくなっていた。
ハロウィンが過ぎれば町はクリスマス一色だ過熱するクリスマス商戦は嫌
がおうにでも恋人達を急き立てる。
「えーイブは入られへんの~・・ここイタリアンレストランなんですけど」
さすがにクリスマスはベストメンバーで臨みたかった
「すみませーん・・イブはお母さんと過ごさないといけないんです」
「二人で呑みまくるのん」
「まあそんなとこです」
「どんな母娘や」
{本当かな?・・男だったりして}しかし、栄巣はそれを詮索する立場ではな
い。彼氏ではないのだから。仕方ない、他のスタッフで間に合わそう。
「しゃないなー」
19日綾瀬は出勤した。次のシフトはクリスマス明けになる。何時ものよ様
に閉店後、二人の呑み会が始まる。料理と飲み物をセットした栄巣は、小さな
包みを綾瀬に差し出した
「あわてんぼうのサンタクロースからのプレゼントです」
綾瀬は華やいだ笑顔になった。
「えーほんまにー・・嬉しい・・ありがとうございます・・開けていいですか?」
{よかったー喜んでくれた!}(こんなん困りますよー)って拒否られるかもと
栄巣は内心、心配していた。そうなれば、今までの良好な関係は完全に崩壊し
一転して気まずい関係になるとこだった。
「どうぞ」 ほっとしながら答えた。
包みからカシミアの手袋を取り出した綾瀬は満面の笑みを浮かべた。
「嬉しい・ありがとうございます・・大事にしますね!」
クリスマスプレゼントを受け取ってもらったからといって、それが、交際して
いるという訳ではないが限りなく綾瀬に近づいた気がした。
綾瀬の居ないクリスマスは過ぎ学校は冬休みに入った、ランチタイムを終え休憩
に入る綾瀬に栄巣は回転寿司に誘った。プレゼントを受け取ってもらったのだから
それもアリだろう。綾瀬は快く誘いを受け、店から少し離れた所で彼女を車に乗せ
た。綾瀬は刺身や寿司が大好物だった。ちなみにきのこ全般が苦手だった。
綾瀬は旺盛な食欲を発揮し
「美味しいー・・幸せー」を連発した。
食後アロームのディナータイム迄まだ時間があった。車に乗ると。
「サティー寄ってもらっていいですか?。見たいものあるんです」
「いいよ!」
サティーまでそう遠くない、快く引き受けた。ただ、ここに来る時もそうだったが
自宅からそう遠くないこの付近を彼女を乗せて走るのは何とも言えないスリルが
あった。
{まだ不倫まではいってないし}内心言い訳しているうちにサティーに着いた。
綾瀬と一緒に婦人服売り場といっても若者向けのカジュアルでリーズナブルな価格
帯の売り場に上がる。
嬉しそうに洋服を物色する綾瀬、何かお目当てがあるのだろうか。と、栄巣は
女学生がよく学生服の上に着ている様なセーターを見つけた。1800円{安!!}
「綾瀬こんなん買うたらええやん何時も寒そうな格好してるやん」{この紺なんか}
「そうですね、いいかも」
と言ってライトブラウンのセーターを取り上げる。{そっちもいいかも}
栄巣はライトブラウンのセーターを手に取った。
「買うたるわ!」
「えーいいですよ」
「かめへん・かめへん、安いもんや!」
キャッシャーに向かった栄巣は固まった。キャッシャーに居たのは2年前まで3年間
アロームでバイトしていた石野みずき・だった。彼女が自分の事を忘れているはずが
ない。
「ごめん・・こういうとこ恥ずかしいから買うてきて!」と綾瀬に紙幣を渡した。
「有難うございます、嬉しい!」
綾瀬は嬉しそうに紙幣を受け取りキャッシャーに向かう。
栄巣はキャッシャーから見えない所に身を隠す。
「あっち行ってみよか」
嬉しそうにセーターを抱える綾瀬を隣の売り場に誘う{ここには長居したくない}
隣の売り場では、スカートを買ってあげた。これも1000円程の安価な物だ
高価な贈り物をすることは綾瀬の為に良くないように思えた。
回転寿司でもそうしたがレシートはすぐにゴミ箱に処理する。物証を残す事は愚か
な事だ。
買い物を終えた二人はアロームに向かった。そろそろディナータイムの用意をしな
ければならない。アロームからかなり離れた所で綾瀬を降ろし、時間差をおいて店に
入る。
その日の呑み会で、綾瀬は終始笑顔だった。
「今日はありがとうございました」
「サティーのレジの人、前にここで働いてた人なんですね」
「うっ・・・」
栄巣はビールを吐き出しそうになった。
「そ・そうなん・・・」
「レジの人言うてましたよ」
{最悪~ばれてたんやー}
綾瀬は悪戯っぽく笑っておどける
「知っているのに知らん振りーなーぜ・なーぜなのー」
「なんで、そんなん知ってんの・そんな世代とちゃうやろ」
「お父さんが言うてた」




