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メーデー・・メーデー

緊急事態、勃発。栄巣は自分をコントロールしきれるか

そして、無事帰還できるのか

     若者達には楽しい思い出の詰まった(オッサンには無い)夏休みが終わった。

    夏以降も綾瀬との会話は弾んだ。苦手な食べ物の話、最近、見た映画、好きな

    アーティスト。会話が弾む度、栄巣は綾瀬に親近感を感じるようになった。

     その事は彼の喜びでもあり不安でもあった。こんな状態が何時までも続く

    訳がない。親しくなればなるほど二人は何時かはたどり着くであろう、答え

    に向かって進んでいく。それは決して栄巣にとって望ましいものではない

    だろう。答えなど出て欲しくない。

     綾瀬が出勤し会話が弾み視線が合いそして彼女が微笑む。ただそれだけで

    いい。しかし一度動き出したものは、もう止まる事はなかった。

     

     2学期が始まって一週間、世間はの熱気は残暑というよりも、むしろ夏その

    ものだった。クローズド作業を終えた今もエアコンは全開だ。

     「マスター・・コロナビールってどんなビールですか」

    綾瀬がなにげなく聞いてきた。

     「メキシコのビールライムを入れて飲む。飲んでみる?」

    冗談っぽく聞いてみる。もちろん無理に飲ませる気など無い。

     「え・いいんですか?」

    綾瀬は嬉しそうだ。{え・ひょっとして飲む気まんまん?}

     「お酒飲んで帰ったらお母さんに怒られへんか?」

    こちらから言い出したものの経営者として未成年に酒を勧める訳にはいかない。

     「大丈夫ですよ!うち何時もお母さんと飲み歩いてるもん」

    {どーゆー母娘や?しかしそれやったらええか}

     「ほな・・飲もか!!」

     「うん・・!!・やったー!!」

     綾瀬は飛び跳ねて喜んだ{こらだいぶ酒好きかも}

    店を閉めレストランホールの片隅のテーブルにおつまみの自家製シーフード

    マリネとライムを入れたコロナビール・自分の分の生ビールを置いた。

    向かい合って座り乾杯した

    「お疲れさーん!!」

    言葉どおり綾瀬は素晴らしい飲みっぷりだった。コロナビールをあっさりと

    空けると。

    「うちも生中飲んでいいですか?

    (頂いていいですか)とは言えない子供っぽさとアルコールの強さがなんとも

    ミスマッチだ。

    「どうぞ!!」

    即答した栄巣だったが内心、不安もあった。{明日の朝、綾瀬の両親から抗議

    を受けたらどうしよう}(うちの子酔わせてどうするつもりですか)とか・・

     戸惑いを感じながらも綾瀬との楽しい時間を過ごしたい気持ちを抑える事

    が出来なくなっていった。

    「料理もどうぞ!」

    自家製シーフードマリネを勧めると

    「やったー・・いただきまーす」

    と嬉しそうに料理にがっつく

    「美味しいー・・しあわせ!」

    囁く様に言って微笑む綾瀬にドキドキしている自分に気付く

    生中も素晴らしい飲みっぷりだった。

    「美味しいー幸せ!!もう一杯いいですか?」

    遠慮しない彼女をむしろ嬉しく感じる。自分の心が綾瀬によって、どんどん

    侵食されていく様に感じた。このまま自分の心は綾瀬に完全に侵略されてしま

    う。そして、それをむしろ望んでいる栄巣は、悪天候の中コントロールを失い

    掛けた小型飛行機のパイロットの様だった。

     果たしてこの局面を切り抜け無事、帰還する事が出来るのだろうか。

    「綾瀬さん、お酒強いなーいい飲みっぷりやわ・・うちの奥さんなんか小ジョ

    ッキも空けられへんのに」

    「そうなんですか」

    綾瀬は普通に納得していた。いかにもそんな感じがするのだろう。

    「綾瀬さん飲み友になってくれへん?一緒に飲んでたら楽しいし」

    {わー言うてもたー俺どーなんねやろー}

    「いいですよ、タダで飲めるんなら」

    {だいぶ酒好きやな}

    「ありがとう・・なんか嬉しいな。あ・・この事誰にも言わんといてな」

    「わかってますよ!!」

    (二人だけの ひ・み・つ)と人差し指を左右に振りながら言いたいところだが

    さすがに、それは止めておいた。あまり羽目を外さないほうがいい。

    これから、こんな事が何度でもあるのかと思えばワクワクする。

    「ごちそうさまでした!!」

    楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。痕跡が残らない様に完全に片付ける

     スタッフ専用の通用口は全面ガラスの自動ドアになっている正面入り口の反対

    側のパン工房を通った裏側にある。

     売上金の入った手提げ金庫を持った栄巣は店舗の照明を消しながら通用口に

    向かう。その後ろに綾瀬が続く。・と・・表通りから死角に」なるパン工房で

    綾瀬が立ち止まる。薄暗くなった工房で片手を頭に当てて目を閉じて俯く。

    「ど・どーしたん・・・大丈夫?」{や・・やばい・・}

    栄巣の脳裏に綾瀬の両親の抗議の声が浮かぶ。

    「ちょっと調子悪いみたい」

    綾瀬は動こうとしない。彼女」が25歳以上なら誘っているといってもいいのか

    も知れない。その場合抱き寄せない方がむしろ失礼にあたるが、さすがにそれは

    ないだろう。

    {大丈夫って言うたやん!、それにあの飲みっぷりで、こんなになるなんて、

    ひょっとしてほんまに誘ってるん}

    ふらつく綾瀬の体を支えるべきか?、いや、そんな事をしたら自分自身、制御

    不能になってしまう。いや、既に・・

     栄巣は積乱雲に突っ込んでしまった小型飛行機のパイロットの気分だった。

    いうことを利かなくなった操舵を握り締め叫び続ける。

    {メーデー・メーデー・メーデー}このまま墜落するしかないのか?

    どれ位の時間が経っただろうか、たぶん数分なのだろうが、ものすごく長く感じ

    られた。綾瀬が顔を上げた。

    「すみません・・・もう大丈夫です・・・いつもやったら余裕やのに、ちょっと

    調子悪かったみたいです」{そんなふうに見えませんでした}

    「そ・・・そう・・よかった。ほんまに大丈夫?」声が震えた

    「大丈夫です・・・」{以外に早い立直り・・・??ひょっとして}

    数分後、何事も無かった様に着替えをした綾瀬は帰っていった。

    「ごちそうさまでした・・失礼します」

    「お疲れさん、・・気ーつけてなー」

    手を上げて別れた。もう元気そうだ・・???なんだったんだ。積乱雲を脱した

    小型飛行機は晴天の空を飛んでいた眼下に空港が見えるどうやら、無事帰還でき

    そうだ。

    綾瀬の両親から抗議の電話がかかるかと気をもんだが、それもなかった。







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