始発 1
「マジで!?」
上ずった大声を張り上げてしまったオレは、思わず握っている受話器を落としそうになってしまった。
「ちょっと草太、電話口でなに大声出してるの!?」
台所から母ちゃんがフライ返しをかかえ、子機で話しているオレの部屋に飛び込んできた。
「なんにもないって、んなことより母ちゃん何べん言えば分かるんだよ!ノックぐらいしろよな」
「まぁ、草太が大声上げるからびっくりして来たんじゃない、あたしが悪いっていうの!?」
やばい、母ちゃんを怒らせしまった。まさに鬼の形相だ。右手のフライ返しが鬼の金棒にまで見えてきた。
ここは素直に謝ろう、今夜のこともあるし…。
「ボ、ボクが悪かったです、口答えしてすみません」
「やけに素直じゃない。気持ち悪いわね」
「失礼な、ボクはいつでも素直で純粋なお子さんですよ」
「怪しいわね、なにか隠してるでしょ。なにか変なことでも企んでないでしょうね?」
しまった逆効果かよ! 見事なピッチャー返しをくらってしまった。
よけいに訝しげな顔つきになる母ちゃんに、ピンチ、ピンチだオレ!?
その時だった。神さまの慈愛の手がオレの元に差し伸べられた。
「あれっ、なにかこげる匂いがしませんか?」
ふと我に返った母ちゃんは火にかけられたまま置き去りに去れた、ハンバーグの存在を思いだし嵐のように
すごい勢いでオレの部屋から飛び出していった。
「あぶねぇ、もうすぐで自供させられるとこだった」
汗ばんだ額をひと拭いして、再び子機で話し始めた。
「わりぃ、悟る。もうすぐで柏木団地の鬼に殺されるところだった」
「なんだよそれ、鬼っておばさんだろ。だいいち柏木団地ってお前んとこの団地じゃん。地元だしさ、迫力ねぇよ」
電話口の悟はオレのクラスメイトで、幼稚園からの付き合いで俗にいう幼なじみってわけ。
なもんで、今夜に開催される『度胸試し』の大会に憧れ夢を語り合ってきた同志ってわけ。
「そんなことよりもさっきの話しに戻ってもよい?」
いかん、いかん。いつも話しがだらだらと脱線していくオレに悟が軌道修正をかけてきた。
「織田も来るらしいんだ、今夜」
「やっぱ本当なんだ。でも信じられねぇ…」
その言葉をなんど聞こうが現実とは思えない。
だってあの“ オダ ”だぜ。
頭が良すぎて、決してオレたちとつるむこともなく、マンガじゃなくて小難しい本ばかり読んでる天才なオダ。
ちょっと顔がいいからって、芸能人のだれかに似てるからって女子から壮大な人気なオダ。
なんであのオダが来ちゃうわけ?
一番つまんねぇっていいそうなオダが、オレたちと一緒に度胸試ししちゃうわけ?
オレは未だ信じられず、今夜の「度胸試し」がスタートする0時を向かえるまで気もそぞろで
夕飯のハンバーグがどんな味だったかしっかり覚えていなかった。
次話をなるべく早めに更新できるように、体にムチ打って頑張ります。