マドレーヌ
私は今、マドレーヌを作っている。
ボールにバターと卵、砂糖と牛乳を入れて混ぜる。
ばらばらだった材料はたちまち鮮やかな黄色のクリームになった。
それをスプーンですくってアルミカップに一つずつ入れる。
「こぼれそうだよ。たくさん入れすぎ。」
祖母に注意された。
確かにアルミカップに入れたクリームは溢れそうなほどだった。
「わかってるよ」
思わず大きな声を出す。
この頃、いつもそうだ。祖母に注意されるとたとえそれが正しい指摘であっても苛立ち、怒鳴って何か言い返してしまうのだ。
数年前、例えば小学生のときは素直に聞けたのに。
私はアルミカップから溢れそうになっていたクリームをスプーンですくい、別のアルミカップに入れた。
マドレーヌをオーブンの中に入れる。
「その場を離れちゃだめよ。焦げるから。」
「わかったから、少し黙っててよ」
祖母が悲しそうな顔をする。
オーブンの中でマドレーヌが膨らむ。
こうやってお菓子ができあがっていくのを見るのは楽しい。
なのに、今日は少し落ちこんでいた。
「できあがったら一緒にマドレーヌ食べようね」
新聞を読んでいる祖母に声をかけた。
祖母は新聞から顔を上げて、笑って頷いた。
これからもきっと祖母に対して、いろいろと酷いことを言ってしまうかもしれない。
でもそれ以上に優しくしたい。
二人で食べたマドレーヌは少々甘みが強かった。
今度は中に入れる砂糖を少なめにしよう。
おいしく作れたら、きっともっと祖母は喜んでくれるはずだから。