神様と咲いた花
「神様〜!次の転生希望者がやってきましたよ〜!」
「却下だ、帰らせろ」
「自分で言ってくださいよ〜」
神様は大量の書類にまみれながら、シッシッと俺に向かって手を払った。
はいはい、テキトーに伝えて、天国労働に加えてきますよっと。
新規の天界住人たちの案内を終えて、俺は神様のところへ戻った。
「神様〜、これが早く天界から出ていきたい希望者の要望書のまとめで〜す」
俺が追加の書類を積み上げると、ものすごく睨まれた。
神様がそんな顔しちゃダメだと思う。
「ったく、簡単に転生できると思うなよ。手順を踏んでから来い」
「死んでもなお堅実に生きろなんて世知辛い」
「死んでるくせに生意気だ」
「天国労働っていっても、花を育てること以外、暇ですからねえ」
「だからお前みたいに私の手伝いをしたがる変人が現れる」
「おかげで神様も助かっているでしょ?」
「ふん、お前を筆頭に人間は生意気だなっ」
神様って悪態をつく生き物だということをここで知った。
そんなこと知りたくなかったけど。
てか、生き物扱いでいいのかな。
死んだあとに天国にやってきた魂は、天国労働を課せられる。
それはたった一つ、与えられた種から花を咲かせること。
花が咲いたら、輪廻転生の許可がもらえて、希望者はその流れに入ることができる。
稀に、俺みたいに転生拒否して居座っている者もいる。
それはここにきてかなりの時間が経つが、ほぼ見たことがない。
なんだかんだ、みんな次の人生こそうまくいくと意気込んで出ていく。
俺はそこまで楽観的には思えない。
ここにいれば、安全であり、何もしなくていい。
俺はずっと休んでいたいから、ちょうどいいくらいだ。
花が咲く条件は、人によってバラバラだから、誰かに手伝ってもらうわけにもいかない。
一瞬で咲かせて出ていく者もいれば、俺より長い間天界にいるのにまだ咲いてない者もいる。
前に生きていた時代の人間を許した途端、花が咲いたやつもいたし、反対にあいつのことは許さないことに決めましたと苦しげに笑ったやつの花が咲いた瞬間も見たことがある。
それとは全く関係なく、ここで楽しく過ごしていたやつの花も咲いたし、泣いて泣いて泣きまくって疲れて花が咲いたやつもいる。
理由がわからずに気まぐれに咲く花に痺れを切らして、最近では『花が咲かずとも転生したい!』という者が続出中なのだ。
それもあって、神様は仕事が増えているというわけだ。
おかげで、神様はずっとイライラしている。
神様なんだから温厚に…、とかは通じない。
生きていた頃に、神様に対して勝手な幻想を抱いていたんだなぁと思わされることばかりだ。
面倒臭くはあるけど、興味深い。
俺のこういうところが、神様に煙たがられているところなんだろう。
苦渋の顔の神様を見るたびに、面白いなあと思っているから、俺も俺で悪いとは思っている。
ちなみに、俺の花はとっくの昔に咲いているために、咲かせ方を教えろという魂が後をたたない。
そういうのもあって、俺は神様のところへ逃げてきている。
ついでに仕事を手伝っているので、俺も暇なのだ。
「神様、花が咲かないままに転生したらどうなるんですか?」
「ここでそんなこともできないやつに、まともな人生が待っているわけがなかろう」
「ふーん、本当にそれだけですか?」
「それはお前が次来た時にでも試したらよかろう」
「ええ〜、俺がやるんですか?しかも、これから輪廻転生しろと?」
俺が苦い顔になると、神様はケタケタ笑った。
「それこそ、神ではなく人間にしかできないことだからな」
神様は不敵に笑うだけだった。
「神様っ!大変です!」
「どうしたー」
「花が咲いてないやつが、輪廻の流れに飛び込んで行ったそうです…!」
俺が慌てて報告したけれど、神様は興味なさそうに書類に目を戻した。
「そうか」
「えっ、いいんですか!?後処理とか…」
「好きにさせておけ。そのうち何人目かが酷い目にあって、そんなことするのも終わるだろうよ」
「…その口ぶりだと、何度も起きていることなんですね」
「ああ、強欲なやつはどれだけ見てきてもいるものだ」
「そうですか」
「お前はもう少し欲を持った方がいいと思うけどな」
「いいんですよ、生きるのは疲れますから」
「枯れてるねえ〜」
やれやれと首を振りながら、神様は仕事を続けていく。
俺はなんとなくその隣に座って、少し黙って、それから訊いてしまっていた。
「あいつら、花も咲かさずに転生できるんですか?」
「運がよければ転生できているだろう」
「できていなければ…?」
「火の如く燃えて消滅するよ」
「…魂すら、消えるってことですか?」
「そういうことだ」
天界のルールは、俺たち元人間にはきっとずっとわからないのだろう。
理不尽だと思う者もいれば、それがルールならと従う者がいる。
それだけの話だ。
「そのうち誰かが燃えるところを目撃するってことですか」
「ああ、無惨に消える。稀に地獄に引っ張られて、地獄行きになるやつもいるぞ」
「最悪じゃないですか」
「真面目に花を咲かせたやつらが、多少は報われるだろ?」
「うーん、わかりません」
「はははっ、お前はそうだろうな」
神様が俺に見ずに笑ったけど、俺は立ち上がっていた。
「俺、輪廻転生してこようと思います」
「なんだ?」
「そして、次は花が咲く前に輪廻の流れに乗ってみようと思います」
「なんだそれ」
「なんか、どちらが浮かばれるのか気になるので」
「奇特なやつだ」
「あと、燃えるやつは見たくないので」
「それが本心だろうに」
「うるさいですよ。…神様、お世話になりました」
「はいよ、ご苦労さん」
俺は神様に頭を下げて、まだ咲かせてない奴らと一緒に流れに乗り込んだのだった。
神様は最後まで俺を見なかった。
「だから、お前さんの花はすぐに咲いたんだよ。その好奇心、次来る時までに覚えていられるといいな」
そんな神様の呟きは、俺に聞こえるわけがなかった。
これまでにたくさんの魂が咲かせた花が、今日もみんなで揺れていた。
了
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