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あの朝の日の呟きこそが、月に関するメッセージ

休日が明けた月曜の朝…


俺は園芸部の早朝当番をほぼ毎回買って出ていた。

ホント、休日明けに早朝から当番というのはキツい。


それでも、日芽子からの印象をよくするために頑張っている。


「みーほーしーくーーーん」


日芽子だ。



「早朝当番お疲れー」


日芽子の笑顔を見たとたんつい気が緩んで、


「あーーー」


ホースの水が思いっきり自分の方向に向いてしまい、あっという間にびしょぬれになってしまった。



場所は変わって保健室…


「大丈夫?これタオル。あと着替え持ってくるね。」


俺はタオルで頭を拭いて、シャツを脱いだ…。

って待て!これ?このまま脱ぐということは日芽子に見られる言うことか?


振り向いたら日芽子がすでに近くまで来ていた。


日芽子は俺の肩に手を伸ばす…



「ここ、どうしたの?」


すごくドキッとしたが、それか…


「跡が残るなんて相当よね…。」


俺の肩には傷跡がある。


「2歳の時、犬に引っかかれた…。」


詳しいことはよく判らないが、犬に引っかかれたということだけは聞かされていた。


「それは怖かったでしょうね。」


怖かったかどうかは、小さい時なのであまり覚えてはないが、そのせいもあってか、俺は犬が苦手だ。吠えられると逃げたくなるし、正直、あまり近寄りたくもない。


それよりも…


「!?」


日芽子は俺のその傷跡を撫でていた。

日芽子が俺に直に触れている…

触れられることなんて…今までに一度もなかった…


なんかうれしくて、少しだけポーッとしてしまった…


「え!?何?」


「んー、なんか撫でてあげたくなって…」


俺の傷跡を撫でるって…


「痛かったんだろうな…辛かったんだろうな…と思えてくるとつい…」


それは、おそらく母性的な感覚であろう…

それでも俺はその温かい感触が心地よかった。


俺は日芽子に、ずっとこうされていたかった…



「さぁて、朝ご飯だよー。」



やっぱりそうもいかなかった。

夢のような時間はあっという間に冷めるものでもある。


それでもまだ月曜の朝は夢のような時間は約束されている。


それは日芽子との朝食の時間だ。



園芸部の早朝当番には特典がある。

日芽子先生の朝食だ。

パンとかおにぎりとかサンドイッチなどだ。

運が良ければスープやヨーグルトまでつく。

この制度を知ってるのは、

早朝当番をやった奴だけだ。




俺はこの月曜日の朝こそが楽しみだったりする。

何せ、大好きな日芽子と2人きりでゆっくり食事ができる時間なのだから。



「塾には行ってきたの?」


そうだそういえば、先週塾に行ってきたのでした。


「あ、うん。おかげで何とかなった。」


「そうか。じゃあ一応、雷からは回避できたのね。」


そうです。

あの夢のおかげで、オヤジはまだおとなしく家には帰ってきてはいません。

つまり家庭内は至って平和です。

その昔、亭主元気で留守がいいというフレーズが流行ったらしいが、まさにそれ。

俺自身もそれに同意。

オヤジ元気で留守がいいというのには納得だ。


俺は見ての通り、半放任主義家庭育ち。


都築の家もまぁ兄弟が多いせいで、一人一人にうるさくかまっていても、きりがないという家庭環境で俺と同じく半放任家庭で。


そして俺らと違う家庭方針なのが、遠藤の家庭。

俺と同じ一人っ子だが親の門限が厳しく、滅多に夜に出歩くことは許されないらしい。ただ、俺らが一緒で行き先がはっきりしているなら、なんとか許してくれるらしいけど。


まぁここから考えると、やっぱり遠藤の家が一番普通なんじゃないかとさえ思える。



「で、雷って何だったの?」



「言いにくいのだけど、オヤジのことだった…」


「え?」


ホントマジで怒られるところだった。

あんな点数見られていたら、さすがに怒るだろうよ。

俺、もう後はないかもしれない。

それでもさっぱりやる気がないから、ホントに詰んでる。



「…まぁ……地震雷火事親父とはいうわよね…。」


ホントにお約束な言葉だ。

さすがに日芽子もそういうコメントしかできないのだろう…。


「お父様はなんて?」


「とくには…」


と答えるしかなかった。


「そう…」



そりゃそうだ。オヤジは塾から呼び出されてないんだ。オヤジは俺の塾事情なんてなんも知らない。



「そうだ。来週からテスト期間だから、来週は当番とかしなくていいよ。中間テストの時もそうだったでしょ?」


まぁそりゃそうなんだが…


「あの、疑問でしたが、俺らが試験中の時はいったいどなたが手入れとかしているのですか?」


それだ。

俺ら園芸部でも休む時は休む。


その間誰が世話をしているのかが謎だった。



「ああそれね。実はその期間だけシルバーの人を雇っていたり、近所のおばあちゃんたちがボランティアで来てくれていたりするのよ。ボランティアの方たちにはその代わりに少しだけお花を分けてあげたりしてね。」



なるほど…そういう仕組みだったわけか…



「まぁ部員であるあなたたちだって、さすがに毎日お世話をしないといけないとかという、使命背負ってばかりでも疲れるでしょ?」



まぁそりゃそうだ。俺みたいに、別に園芸に興味があって入ったわけでもない奴からすれば、そういうのは圧でしかない。

それでもやっぱり、この部活には花や植物が好きでは入った部員は多いとは思うけど、それにしては早朝当番嫌がる部員は多い。それを考えると本当に心から花を育てることが、好きな部員なんて、この部活にどれだけいるのだろうか?


「花もね。人が疲れてるか楽しんでいるかということが、すごく敏感に判るのよ。」


「ホントですか?」


「うん。毎日、お花の様子を見てると判るけど、誰が当番になったかによって、輝きや育ち具合に差があるから、ホントに差が出るから…」


「じゃあ俺の時は?」


ってそこすごく気になっていた。

まさか、本命は花ではなく、日芽子先生ですというのがバレバレとか…


「あ、あははははは…ちょっと言えないかな…」


ってこの反応は俺の印象はあまりよさそうじゃないようだ。


「それよりも問題は、今の二年生ね。そろそろ新部長を決めないといけないのだけど、二年生の中で、お花をきれいに咲かせることができる子が誰もいなくてね。」


すでにそこまで見抜いているのか…


「かといって、一つ飛んで一年生に任せてしまうのも、それをすると二年生の子も立つ瀬なしだし。難しいんだよね。」


そうだな。さっきあげた一つ飛んで一年に部長を任せるといった件は、やっぱり俺に部長は任せられないこと言われたようなものだしで。

でもこうして、俺に相談みたいなことをしてくれるのは、頼られてる感じで嬉しい。


「美星君は誰がいいと思う?」


と聞かれて…俺は二年の先輩の名前は誰も覚えていないということに気が付いた。

というか、覚えている部員の名前といえば、部長の桜野先輩ぐらいだ。



えー?二年生でだろ?んー…


「じゃあ…日芽子ちゃん。」


「…え?」


日芽子はすごくきょとんとしていた。



「二年生で日芽子ちゃんって誰ですか!?それに日芽子ちゃんではありません!春風先生です。」


「一応、就任二年目の二年生だから、間違ってはない。」


そうだ。日芽子は就任して二年目だ。だから問題なし。



「もう…、これアンケートのつもりで皆に聞いて回ってるのに…。全然まともな意見言ってくれる子いないー。」



はぁ?みんなに聞きまくってるのかよー?

俺だけに相談してたわけじゃないのかよー!?



そこはがっかりだった。



「特に美星くんは、私の呼び方が時々に変だし、これはもうお父様を呼び出して厳重注意してもらおうかしら?」


「はぁーーーーーっ!?」



おいおいそれはまずいぞ。

それ雷どころの騒ぎじゃない。


それ以前の問題だ!


もし、オヤジと日芽子が会うとなると…大変なことになるではないかっー!?

オヤジ、とんでもないほど女癖が悪い…

塾長や塾の担当講師の木所なら、まだ男だから俺に雷が落ちるだけで済む。

日芽子みたいな美人教員を目の前にしたら、オヤジはおそらく日芽子に目をつけるのは違いない。


いや…オヤジの職業上、仕方ないのかもしれないけどさ…それでもオヤジは危険だ。

アイツが新しい女に目をつけるとなるとホントにめんどくさい。


「それはやめた方がいいかと思います。」


「なんで?お父様が私にも雷を落とすから?」


「いや、さすがにそれはないけど………、なんでもいいので、オヤジを呼び出すだけは勘弁してください。」


「じゃあこれからは、春風先生と呼んでいただけるかしら?」


「…え?……えっと…了解…しました。でもせめて間を取って日芽子先生でもよろしいでしょうか?」


「…」


と最後に勇気を出して我儘を言ってしまった。

少し沈黙が続いて。


「いいでしょう。約束は守るのよ。」


ああ俺も、もう少し大人で年が近かったら、恋人みたいに呼び合えるのかと思うともどかしくてしょうがない。

ほんとここ最近、ずっとガキ扱いでつらい。そりゃまだ15でガキだけどさ…



「ああーーー!早く大人になりたい!」



思わず口にまで出してしまったぐらい悔しかった。



「大丈夫よ…大人になるなんて、あっという間よ…」


とはいうものの…俺がここまで生きてくるまでに、さんざん回り道ばかりして無駄な時間を使って、ずいぶんと時間がかかったことを考えると、まだ遠い気がしてならない。


「私も今を楽しむから、あなたも今を楽しんで。」


「え?」


「今しか楽しめないことだって、いっぱいあるのだから、その時間を大事にしようよ。」


そういわれて、今自分が楽しめることを考えることにした。



昼休み…



「なあ、都築と遠藤ってさ、今楽しんでいることって何?」


とこの二人に聞いてみることにした。


「んーそうだな。俺はやっぱり部活動している時間が一番夢中になれてて楽しいかな。家に帰れば、食事の準備やチビたちのお世話に追われるだけだしさ。」


まぁ都築らしい。


「僕は…その…こうして学校に来れることだけでも、幸せかなぁって。」


ああ、これも遠藤らしい。

ちなみに遠藤は中学の頃、一時期不登校だったんだよな。

原因は何なのか?未だによく判らないけど…


ああダメだ。こいつらに相談したのがまずかったかな。


そうなると…



「ちょっとやめなさいよ!」



ああお約束のごとくまた騒がしいのが来た。


真理だ…


そしてこの地響きはまた…あのナプキン女藍沢千恵美だ。


「待ちなさい!」


「ひぇーご勘弁を…」


今回、千恵美が追い回していたのって、真理じゃなくて…

日直当番で、俺とペアを組まされている兼松さんだった。



なんでそこ?



「あんた、私の美星君と一緒に気安く歩いてるんじゃないわよっ!!?」



あ、そういえば先週、日直当番の日があったな…

まさか、その時一緒にいたところを見られていたのだろうか?


あーたったそれだけのことで…

もう何なんだ!?この女は?

俺とはすでに終わった関係だろうが!と何度でも言っているが、全く聞く耳もたない。



「やめなさい!言ってるでしょっ!?」



真理がやっと千恵美を捕まえて、ようやく少しは収まった。



「あのねぇ、兼松さんはあくまで日直当番の仕事で、美星と一緒にいただけなの。たったそれだけのことで、ギャーギャー騒ぐなんてみっともない!」


やっと真理の一喝で収まったかと思った…



「何よーっ!だいたいその日直当番も、美星くんと私を組ませればいいじゃない!」


「だーかーらー!そもそもあんた違うクラスでしょ?その時点で無理だって言うこと判らないの!?」


ホント毎度毎度こいつらは昼休みになるとうるさい。


特にこの藍沢はホントに迷惑している。

あれだけ、無理難題吹っ掛けてきっちりふっても、まだ次があると信じているらしい。

どう考えたら、そこまでポジティブになれるのか?ホントに判らない。

その後も学校にいる間はずっと、俺のことをストーカーみたく監視しているとのこと。


それでも俺はこの状態を完全に無視して、昼は飯を食べ続けるしかなかった。


そして最後に真理にインタビューしてみた。


「は?楽しいこと?そうね。みんなでおいしいものを食べに行ったり、買い物に行くときが一番楽しいわね。」


これも真理らしい意見だ。

真理は真理で普通のJKらしく、友達と一緒にいる時が一番楽しいらしい。


聞いた中で一番ピンとくるのが、真理の意見だが…


「は?今度一緒に連れてってほしいだ?」


とまぁそれの何が楽しいのか、知りたくて一度頼んでみた。


「無理に決まってるでしょ。あんた一人だけ連れてくとなると絶対なんか違うもの。盛り上がらないというか…」


「なら、都築と遠藤も一緒ならどうだ?」


あくまで男女ミックスした大勢なグループ行動を提案してみた。


「ま、それならいいけど、みんなにも話しとくわ。」


ま、この話はどうなるのかは保留になった。






とりあえず今日は月曜日――――――――――――――――――――――――――――




学校を終えた今、

放課後より塾がある日だ。


放課後、すぐに目指す場所はまぁ塾ではない。

同じ塾に通う、橙山夕里の家。


彼女は有名進学校、辿最高等学校に通う才媛。高校2年で一つ年上。

まぁ勉強教えてもらいに行く目的で行く。

つもりで最初は、俺は月曜の夕方は彼女の家に通うつもりだったが…。

彼女は思いのほか性欲が強く、彼女の家に通いだしてすぐに懇ろになる。というより、男女共どもそういうことに興味を持つお年頃。


当の夕里の外見はといえば、典型的なガリ勉ガリ子って感じ。髪は一つ縛りにまとめた黒ぶちメガネの真面目系女子。校則を何一つ違反してない模範生。


そんな彼女の言い分が、週初めに気持ちも身体もすっきりさせて、気持ちよく残りの平日をがんばるという方針らしい。塾に行く前はいつもこれだ。

根っから真面目系女子の本音が、これだから世も末だ。


「で?今日も各自で塾に向かうと?」


「当たり前でしょ。バレたら、それこそたいへんよ。」


とあくまで自分のキャラを表向きは取繕わないといけないから、あくまで表向きは交際しているのを隠したいらしい。塾でもなるべく接点を持たないようにしている。


夕里曰く


「塾なんて場所。本来なら、勉強目的で来る場所でしょ。私みたいな勉強にしか興味ない女までが興味持つほど、あんたの顔面レベルは高いわけ。

暇さえあれば、トイレでは女の子たち、あんたのこと結構話題にでてるのよ。」


だそうだ。

正直、あんたも結局ムッツリさんで男のことにも、興味があったではないかと正直突っ込みたい。


「まぁそんなあんたと付き合っているのは、私だから笑っちゃうわよね。」


夕里は毎度こうして、悦に浸っている。


まぁ悦子がそう言っているのも判らんでもない。

実は俺、この塾でもう一人付き合っているのがいるのだから…。






そう、日にちは飛んで、木曜日――――――――――――――――――――――――――




夕里が塾には来ない木曜日のお嬢様。緑島悦子。俺のもう一人の彼女。

男女交際禁止な校則がある噂の、私立聖ジョーサム学園中等部3年。15歳。


一応、彼女とは去年のクリスマス前ぐらいから付き合っている。受験シーズンで忙しかったけど…



まぁとりあえず、俺も俺でなんだかんだ言って金持ちには興味がある。

悦子は金持ちのお嬢様。とりあえず、飛びついた感じだ。

うまくいけば、金持ちの人脈もとれるかもしれないから、そこは今のうちから学んでおきたいとい気持ちはあった。


だが実態は…



「よっしゃーっ!!」



「んもう、ホントそれ好きよねー。」



そう、今あれから時は過ぎ、早くも木曜日。


俺は彼女のマンションにいる…。いや正確に言えば、彼女の親が別荘なノリで借りているマンションの一室にいるといった方がいいのか?


特にここは彼女の親のコレクションである、昭和からの歴代古いゲーム機が、きちんと保管してある場所ともいえる。

で、今はあまり使わないから、勝手に使ってもいいらしい。


正直、昔のゲームの方がシンプルにおもしろいものある。



「悦子はやらないの?」



「えーそんなのいいわよー。どうでもー。」


「ん?悦子はゲーム嫌いだっけ?」


「そんなことないけどー。エツコはぁー、ミホがー欲しいのー。」


「ん?」


「んもう、わっかんないかなぁー?」



といって体をくっつけてくる。

あーはいはい、イチャコラしたいわけね…。


そりゃ申し訳なかった。

こちらもさかりのついたお嬢様か…



悦子と付き合ったきっかけは、悦子の父が主催するクリスマスパーティに招待されたことがきっかけだった。そこには有名実業家など国の上層部の方々を招待するとのこと。

それを聞いて俺は、上流社会を一度でも見ておきたいという好奇心にかられた。


あの時、俺はホントに特別枠で悦子の友人代表としての参加だったそうな。悦子の友人と聞いていたから、若い女の子と思ったらしい。

俺みたいな男友達がいきなり来たから、悦子の親父さんはかなり驚いていた。その場にいた悦子の婚約者候補らしき男も大目玉くらっていた。

今回のパーティもそのお披露目を兼ねてだったらしく、悦子はその対抗馬として俺をそこへ連れて行ったらしい。エツコはその婚約者候補が嫌いとのこと。


一応、あのパーティに参加したはいいものの、結局は悦子や他の御婦人相手に、ダンスに付き合うだけ付き合って終わった感じだった。


悦子との交際はあのパーティがきっかけだったのな。ホントに最初のうちは人脈作りにすごく張り切っていたんだよな。


「いいチャンスだ。いいコネあったら、俺にも紹介しろよ。」


とオヤジすら俺に期待していたぐらいだった。急遽マナーとかもさんざんオヤジから叩き込まれたっけ。


結果、名刺もらえたのはたった3件だけ。


それもよく判らない怪しげなものばかりで、そのうち一件は一緒に踊ったマダムからのものだったしで…。

俺ってやっぱり才能ないのかなーとさえ思えたぐらい、社交力なかった。



そんな感じで結局、その上流階級のお嬢様と関わるのも、毎回このマンションに引きこもってダラている時のみ。つまりはあれから、全く進展がないということだ。

それだと、悦子とも関係は無意味なのかな?とさえ思えてきている。


ま木曜日の夜はその部屋に泊まっていくことが多い。で、金曜日は俺も悦子もそこから学校に登校することなんて、当たり前となっていた。


俺も悦子も親からはほぼ不干渉だしな。

そう、このマンションの一室の主は、ほとんど「悦子の部屋」であり、すっかり悦子に乗っ取られていたといえよう。



それゆえに誰からもバレない関係は、こういうことで成り立っていた。


それでもどう考えても、このままではいけないと言う気持ちは何となくあった。






そして昨日が木曜日なら、今日は金曜日――――――――――――――――――――――


って、今日は帰ったらバイトだ…

昨日は遅くまで起きていたからなー。正直辛い…。

そんなわけで、本日は授業中を睡眠時間にすることにした。




なんと、本日待ちに待った給料日。


なので、今日は出勤しないわけにもいかないのです。


今のご時世、口座振り込みが当たり前の中、俺のバイト先は個人経営者だ。それもかなりの高齢のせいか、給料は手渡しで行われている。ホント、そればかりは、かなりレアなバイト先である。



そして今宵、その手渡し給料が原因で、ピンチになるのであった。

高校生活に入って、3度目の給料日。

久しぶりに何か食べて帰ろうとした時だった。


ホントにそろそろ、鈴々がいる店に行こうとは思っていた時期だった。が、夢であんなこと言われてしまったので、一応は別の店を探すことには決めている。


ただ自然とやっぱり、足は黄来軒の方向へと向かっていた。

やっぱりあの味は恋しい…。

あの夢に出てきた占い師からは止められたけど、まぁ飯食いに行くなら問題は無かろうと思った。


そんな時…



ドンっ!



誰かとぶつかった。


「あ?なんだ?お前?」



うわっ、明らかにガラの悪そうなのとぶつかってしまった。


それも相手は4人…


もう明らかに不利だ。


ここは即謝って、丸く収めるべきだろうけど、こいつら多分謝ったところじゃ許してくれないだろうな。どうするよ…



まぁとりあえず…


「あ、すまない」



とまぁ手短に謝るだけ謝ってみた。



「あ?お前、なめとるんかっ!?それだけで済むとでも思っとるのかっ!!?」



やっぱりこうなる…


もう最悪だ。

多分こいつらの狙いは…



「お前、俺の服汚しやがって!クリーニング代払えやっ!」


やっぱり金だ。

ああこんな日に限って、こんな変な奴に絡まれるなんてついてない。


だが、本日手に入れた給料はなんとしてでも死守する!

いや、生きて守る!

俺だって、自分で働いて稼いだこの金は、やっぱり自分が生きてないと自分で使えない。それを考えると死ぬに死ねない。



「んだよっ!全然汚れてもないじゃないかよっ!たいした服でもないくせにっ!」


「なんだと!?」


「てか、その格好クッソダサいんだよっ!んな服、ハナから汚くて当然なんだよっ!」


気が付けば、自分でも訳わからんほど、言いたい放題言っていた。


「お前こそ、そんな薄汚いなりで俺に触るな!」


で相手の顔を見れば、もう顔が真っ赤な具合に、怒り心頭だということが、イヤというほど伝わってくる。


我ながら言いすぎたかもしれん…

しかし、ここで徹底的にいい返さないと確実になめられるのは目に見えている。


「んだと!?」


うわっ。これマジで殴られるんか?俺?


と思ったら…



ドカッ!



その瞬間なんか鈍い音がした。


リーダーらしき男の斜め後ろにいた男がそれに気が付き、


「お前―!何しやがるっ!」


といった瞬間に



ボカッ!ドゴッ!



一瞬で、気づいた男が倒れてしまった。

そして、もう一発



ドカッ!


「ぐっ…」


鈍い音がすると、さっきからセリフなど一言も言ってすらない3人目もいきなり倒れてしまった。



そして最後に残るは一人…


そいつは…



「ひぃーーーっ!勘弁してくださーい!」



といって、すごい勢いでその場を去っていった。


そして、奴らを倒したらしき者に、俺はいきなり手首をつかまれた。


てか、俺まで倒されるのか?

と思って警戒していたら…



「何してる!俺らも逃げるぞ!!」



とその人物に言われた。

すごい勢いでいきなり手を引かれて、走ることになった。

すでに、手首掴まれてる身としては、走るしかなかった。



つまりは助けてくれたということか…


どこの誰だか知らないが、ありがたい。

情けない話だが、正直俺は、この人よりかはケンカ慣れしていない。


この人のこの対応は、明らかにケンカ慣れしている人の対応だ。



そして…



あれだけ走っているというのに、この人全然息切れしてない。

俺はとっくに息を切らしそうだというのに…


「…おい……ちょ…俺もう………無理……」



俺の手を引いていた人物はようやく止まってくれた。



いったい、誰なんだ?


と顔をあげてその人物を見てみると…


「あーーーーーっ!!お前っ!!」



目の前には、この間クリアファイルを拾ってくれたあの金髪の少女がいた。



俺は驚きすぎて言葉も出なかった。


あんなガラの悪そうな男三人をいとも簡単に倒せるぐらいだから「どんな男だ?」と思ったが、俺を助けてくれたのは、身長は平均よりやや低めの華奢な少女。



「まぁなんとか撒けたから、いっかぁー。って、久しぶりー。」



俺がぜぃぜぃしてる中、本人は息切れ一つしておらず、あっけらかんとしている。


「お前、なにもんだよ?」


俺は、彼女のいい意味での変人ぶりが疑問でしかならず、思わずそんな質問を投げかけてしまった。



「ナ・ニ・モ・ンって…?」



彼女はすごい考えこんでいた。

当の本人もその問いには困っていて、どういえばいいか判っていない様子だ。


「わかんない」


ガクッ



やっぱりそうだろうな…


グー――――………


そんなタイミングで、俺は腹の音が鳴ってしまった。




「おなか、すいてるの?」


「あぁ今ちょうど、何か食べに行こうと思って…」


「ふぅん」


少女は少し何か考えて…



「そうだ!じゃあ一緒に来て。」



とまた、手首掴まれて連れまわされた…


ついたところは、かなり昔からありそうな古びた食堂だった。


「ここ」


え?ここって俺に家の近所だよな?

この店、前から目にはついていたけど、あまり入る気はしなかった…。



少女は、さも馴染み客かのようにその食堂の戸を開けて入っていくので、俺も続いて入っていった。



「ああいらっしゃい。もうそろそろラストオーダーの時間だったけどどうする?」




「じゃあ、和心定食一つお願いします。」


「はい毎度」


すごいなれた感じに勝手に注文までされてしまった。

俺は不安になって。


「おい勝手に決めるなよ

もし、金足りなかったらどうするんだよ」


と後ろから小声で、耳打ちした。


「大丈夫、大丈夫。少なくともいつもよりかはお値打ちで済むよ。それに一人分だよ。」


と余裕顔で言ってきた。


「一人分でいいのかい?」


「はい、あたしはすでに家でいただいてきたので、この子の分だけお願いします。」


…この子って?

なんでこいつは、いつも俺をガキ扱い…年下扱いするのか…

ホントそれ前提での口調がやけに癪に障る


「じゃあ嬢ちゃんには、茶だけでも出すかね。」


「ありがとうございます。」


こいつ、ここには何度も来ていて、かなり場慣れしてそうな感じはあるが、なぜか店主さんに対しても異常に礼儀正しくて、よそよそしい態度に違和感あった。



「まぁ座りなよ」


俺は彼女の正面の席に座る。


「…」


「…」


「…」


せっかく、今から食事をするというのに何も話せない。


というか、一番の疑問がこいつはいったい何者か?ということだ。

まずそこから何も進めていない…


そしたら…


「ねぇねぇ、また今日も塾の帰り?」


と少女の方から口を開いた。


「…いや、今日はバイトの帰り…」


「そうなんだね。どちらにしても夜遅くに帰るなんて、たいへんね。」


とか言っているけど、お前だって意味不明に夜に現れるではないか。

と思わず突っ込みたくなるぐらいだ。



「はい、和心定食お待ち―。」



そこへ食事が届く。

何の変哲がない普通の和食だ。


「食べてみ。めっちゃうまいよ。」


と促されるままに食べる…。


「!!?」


もう、驚くぐらいにうまかった。

最近、和食なんてほとんど食べてなかった。いやむしろ、和食はあまり好んで食べる方ではなかったが、思っている以上に食が進むほどうまかった。


「まぁ多分、ラーメンとかが好きなのだろうけど、ちゃんと栄養分が整ったものを食べた方がいいよ。」


と俺の食生活のこともズバリ言い当てられてしまったことは、見事に刺さってしまった。


今日は、あいつらに絡まれなかったら、あのままホントに黄来軒まで、行っていたところだった。

そうか、黄来軒には近寄るなって…ああいう面倒な奴らを避けるという意味でもあったのか…

そんでもって、新たなお気に入りの店とは、おそらくここのことであろう。


「どうしたの?」


「いや実は前見た夢占いの通りになってな…あっ…」


俺はまた「しまった」と思った。

また日芽子と同じように詳しく聞かれたら…


「へぇそうなんだー。それはよかったねー。」


どうも、そこまで深くは追及しては来ないようだ。

まぁ俺のしょうもない夢物語を大真面目に聞いてくるなんて、日芽子ぐらいなものだ。


そんな時、


「そういえば、嬢ちゃん見たことある顔なするんだけど…」


と店主から言われて…

少女は一瞬、困った顔をしていた気がした。


「ええ?そうかな?まぁ久しぶりに来たから、多分、客のうちの一人だったかもー」


すかさず笑顔で返して


「そっかぁ、ああ、多分その時は立て込んでいて忙しかった時間だったかもなぁ。

じゃあ、その時はあまり気が配れなくてごめんなぁ。」


「あーいえいえ、あたしのことはお気遣いなく…」



なんか、会話がたどたどしかったが、まぁ彼女本人がそういうからには、そうなのだろうとこの時は思えた。


で一人称は基本「あたし」ねぇ…。

てか、逃げるとき「俺」とか言ってなかったか?


ホントこいつ…いろいろ不思議すぎだ。


もう何もかもが謎だらけなまま、食事を終え俺たちは店を出た。


そこで出た話は…


「ねぇねぇいつから、髪伸ばしているの?」


今まで一度も紹介はなかったが、俺の髪は肩よりも襟足がやや長め、サイドも後ろにハーフアップに縛るぐらいに長かったりする。まぁアンダーの方は思いっきり髪を空いてもらっているので、そこまでダサくはないはずだ。


「どうでもいいだろ?そんなこと。」


「んー…」


「俺が気に入ってるんだし、それでいいじゃん。」


そう、元々男にしては髪長かったが、受験が終わって自由になり始めた時から、そこからまた伸ばし始めただけのこと。理由はよく判らないが、今なぜか長髪が気に入っていてこれだ。


「まぁいっかぁ、それもすごい似合ってるし。」


なんだよ?全く…


「家はこの辺?」


「ああ、あれ…」


俺はいつの間にか見えてきた、自分が住むアパートを指さす。


「そう、じゃあもう大丈夫だね。」


「ああ」


「って、おまえは?」


「え?あたし?」


「一人で帰って大丈夫なのかよ?」


俺のことよりも、こいつの問題だ。

俺は男だけど、こいつは女だ。

むしろ、俺が女の子に送られていてどうするんだ?


「あたしは大丈夫。」


すごい自信たっぷりなニコやかな顔をしていた。


「夜に女の一人歩きなど、大丈夫なわけないだろ?俺はもう自分の家近いけど、やっぱり俺がお前を送ってく。」


「えええー!?いいよー別にー。」


俺が送っていくといった時、彼女はすごく困っている様子だった。

いったい何を困ってるんだ?


「よくない!」


「あたしは大丈夫だから、気にしないでー!」


あれ?ものすごく頑なに拒んでいる。

なんでだ?普通女の子なら、ここは甘えてくるはずだ。


「それに。」


「ん?」


「あんた、その女の子から助けてもらっておいて、そんな相手に送ってもらうなんて、おかしくないですかー?」



といわれて…呆気に取られてしまった。


「…そうでした……。」


としか言えなかった…


「だから、あたしはここでいいや。今日はありがとう!じゃあね。」



少女は走り去ろうとした。



ヤバいまたこれだ…



「待て!!」



数メートル走ったところで少女は止まって振り向いた。


「なに?」


「まだ、名前聞いてなかった。」


「あーそういえば、そうだね…」



そう、俺はまだ彼女の名前すら知らなかった。



「あたし、ツキジ。まぁこれからはお前じゃなくて、そう呼んで。」



「え?」


「おやすみー美星―。じゃあねー。」


ツキジはそう言って、すごい勢いで闇の中へと去っていった。


ツキジ…


って…


すっごく変わった名前してないか!?


あんなにぴょんぴょん跳ねるような運動神経いいけど、一応は女だよな…?


「あーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」



そして、俺は今更かなり重大なことに気付いた。



それは…


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