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 ユーステスが記章の返還を行ってから、数日が過ぎた。かねてより通告のあった緊急集会が、本日開かれる。黒衣の袖に手を通しながら、思わず眉間には皺が寄る。


(ここが……正念場かも知れないな)


 準備を終え酒場に足を運ぶと、香ばしい匂いが鼻腔を満たした。机を拭くメノウと挨拶を交わし、バスケットを指差す。


「良いよ、持ってきな! 焼きたてだからね!」


 カウンターに銀貨を一枚乗せ、パンを片手に城へと向かう。小麦の香りが鼻を抜けると、憂鬱だった気持ちも幾分和らぐ。


 痛恨のミスに気が付いたのは、丁度街の市場に差し掛かる頃合であった。


「しまった…… ジャムを忘れたな」


 ♢


 円卓の会議室、今日はここが主戦場だ。円形の机の周りにはぐるりと椅子が並べられ、続々と人が集まって来る。


「あら? もう来ていましたか、ユーステス。もしかして私、時間を間違えて……?」

「いえ、まだ大分余裕があるかと。この男が早過ぎるだけですよ」


 第一皇女セイレーンとその騎士レギウスが、定刻三十分前に。


「セイレーン様! 先に来ておられましたか! お待たせして申し訳ない」


 将軍シグルドが、十分前に。


「おや、もしや我々が最後ですか? これは悪い事をしましたね」

「フン。何を謝る必要がある! 別に遅れて来た訳でもあるまいに……!」


 そして、先日城門にていざこざを起こした小男と騎士ヨランが、定刻ぴったりに現れる。


 そこにユーステスを合わせた、計六人が着席した。


 一同を見渡し、セイレーンは口を開く。


「本日はお集まり頂き感謝します。此度の議題は我が妹、皇女リーンベル襲撃に関してのあらましと、ヘイムダルの今後の行方につきまして――」


 そこで一息つき、ゆっくりと瞬きを。


「突然の事に、皆が混乱しているかと思います。このままでは、民の不安も募る一方。一刻も早い事態の収拾へ向けて……この集まりが互いにとって有益な時間となる事を願います」


 言い終えるや否や、ヨランが手を上げた。セイレーンは手のひらを差し出し、発言を促す。


「私の名を知らぬ者もいると思いますので、先ずは軽く自己紹介を。アーノルド殿下の騎士、ヨランと申します。多忙で顔を出せぬ殿下に代わり、本日この場に遣わされました。以後、お見知りおきを」


 一礼を終えたヨランの胸元を、レギウスの視線が捉えた。口元に笑みを浮かべながら、飄々と話しかける。


「へぇ、あんたも騎士なのか! アーノルド様は騎士を連れていなかったと記憶してるんだが……新顔かい?」

「いえいえ、そこそこに古株ですよ。殿下は独断行動を好むお方ですから、大っぴらにはされておりませんが。軍内部でも、私の存在を知る者は……」


 周囲を見渡すと、巨人がうんうん頷いていた。ヨランは苦笑いを浮かべ、そのまま言葉を続ける。


「まあ、かの将軍は例外として。あまり多くは居ないかと。ですので、私がアーノルド殿下の騎士であると言う事は――」


 ピンと立てた人差し指を、唇に。片目を瞑りながら、ヨランは笑いかけた。どうにも胡散臭い仕草だが、その美貌と相まって。随分と様になっていた。


「は~、色々事情があるもんだねえ。そういう事なら任せとけ! 今日の事は内密にってな!」


 レギウスは顎をさすりながら、改めて場を見渡した。


「しっかし、皇族会議以外の場でこうも騎士が集まるってのも、中々珍しいこった!」


 そう言ってから間もなくして、「ユーステスはもうあれか……」とばつが悪そうに呟いた。


 苦々しく下を向くレギウスの相貌に、ヨランは目を細める。


「事情があるのはお互い様、という訳ですかね? 詮索はしないでおきましょう。私はこの通り日陰の身ではありますが…… それに引き換え、貴方の武勇は聞き及んでおりますよ。『不屈』のレギウス殿」


 瞬間ぎくりと反応し、レギウスは面映ゆそうに顔を背けた。


「その……だな…… 『不屈』ってのは、出来れば止めてくれ。どうにもこっぱずかしくってな……」

「がっはっは! 今更何を言っとるんだ、レギウス! どんな過酷な戦場に置かれても、必ず生きて舞い戻る。故の通り名であろう? 何を恥じ入る事があろうか!」

「将軍っ……! 私が目指しているのはヴァテイン殿の様な――天下無双の騎士なのです! 泥臭いじゃないですか、『不屈』だなんて……」

「実際、サバイバル技術には長けておりますよね? 数年前になりますか? 死の大地への遠征に当たり、碌な食料装備も持たずに単身で突入。そのまま丸ひと月生き延びたと言う逸話は、もはや語り草かと」


 したり顔で話すヨラン。

 その噂なら、小耳に挟んだ事がある。


「有名ですよね、その話。皆が止めても、聞く耳持たず。水が切れてもお構いなし。いよいよとなったら、自分の出した――」

「ユーステスっ!! お前は黙っていろっ! 昔の話を蒸し返すな!」


 軽い笑いが場を包む。実の無い茶々入れだったが、取り敢えず存在感は示せただろうか? なるべくだんまりを決め込みたい場面だが、あまり発言しないのも不審である。


「私は好きですよ? レギウスの野性味溢れる一面! 騎士になってからは、あまりそのような姿を見せて頂いてはおりませんが……」

「セイレーン様っ……! 貴方までそんなっ……!」


 がっくりと項垂れるレギウス。『不屈』――シンプルで良き二つ名だろう。シグルドの言葉を借りる訳ではないが、いったい何が不満なのか。不満を抱くと言うならば、まさにこちらの方だ。


 『強奪』のユーステス――


 捻りも何もあったもんじゃない。

 野盗か何かか? この称号は?


(いつの間にか定着してたんだよな……)


 個人的には、〖ディバインイーター〗の方を推している。

 名付けるのであれば、是非ともそちらを使って欲しい所だった。

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