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生且部シリーズ①  作者: Ms. Blue Spring
傲慢と憤怒それから色欲 ─生且部シリーズ①─
2/2

02 忍び寄る誘い


 人を分類する言葉は何かとキャッチーで使われやすい。例えば、『勝つか、負けるか』『天才か、普通か』『敵か、味方か』まあこんな風に。

 今の俺の現状を表すなら、『人を使うか、使われるか』の使われる側ということになる。

 一カ月前に高坂絵里が俺の元を訪ねて来てから、平穏だった日常が途端に狂いだした。

 「部室が欲しいから部活を設立して」「ポスターを作ったから学校中に掲示して」といった具合に面倒な出来事を俺に押し付け始め、昼夜問わず遠慮のない連絡が次々にやってきた。断って無視すればいい。   

 俺が第三者ならそう助言するだろう。だが、なぜか高坂は出会う前から俺の弱みを掴んでいた。黙って命令に従う方がましだと諦められるくらいの、それなりの弱みを。

 「柊木透を連れてきて」これが本日の指令だ。

 俺は放課後しばらく図書室で時間を潰したあと、一ノ瀬にメッセージを送信した。

 『今どこにいますか?

  さっき部室だれもいなかったので』

 制服の胸ポケットに携帯を収めようとしたところですぐに通知音がなった。

 『部室にいるよ! 入れ違いだね』

 図書室から部室まで歩いて数分。既読さえつけていれば返信も不要だろう。

 指定の時間になったら体育館に向かう。そういう予定なのだ。


 体育館の2階には卓球部が使用している準備室があるが、その他にも体育館コートを見下ろせる渡り廊下がある。そこからバレー部の練習を確認することができた。

 話に聞いていた通り、柊木はバレー部で間違いないらしい。それ以外の理由でバレー部の試合形式の練習に参加できる方法もそうないだろう。


 「そのノート、俺にも見せてください」

 一ノ瀬は部活中の生徒を凝視していたのか、急に話しかけられて驚いたようだった。

 「私の字、あまり綺麗じゃないから。代わりに読み上げるね。」

 一ノ瀬は自分のノートを隠しながらそう言ったが、多分それなりに字は綺麗だと思う。少なくとも俺よりは間違いなく。

 「柊木君は一学年の間ではかなり認知されていて、中学からの友人も多いみたい」

 「へえ」

 「この学校に入学してからすぐにバスケ部に体験入部したけど、すぐ辞めちゃってその後は弓道部、サッカー、陸上。でも最終的にはバレー部に落ち着いたみたい」

 俺が知り合いから聞いていた話と一致する。

 柊木という男は、部活に入部するだけでも面倒だというのに複数の体験入部を自ら進んでこなすようなやつらしい。そんな得体の知れないやつとは正直、関わりたくない。

 俺の柊木に対する苦手意識をよそに、一ノ瀬先輩は納得いかない顔をした。

 「聞く人によって順番がバラバラだったのが気になるんだよね」

 「順番がバラバラ?」

 「うん。弓道部の子に聞いた話だと、弓道部をやめてバスケ部に行くかもって言われた人もいれば、陸上からサッカーに行くはずって言われた人もいたみたい。またその逆を言われた人もそれぞれいるの」

 「逆っていうと、例えばバスケ部をやめて弓道部に入部するって言われた人もいたってこと?」

 「うん。そうなの」

 そんな話を訊くとさらに苦手意識が強くなる。

 「でも、すごいアグレッシブだよね」

 心の底から感心しているような一ノ瀬の顔を見た俺はまた柊木に目を移した。

 「俺はなんか気持ち悪いと思います」

 「こら、だめだよ。そんなこと言ったら」

 一ノ瀬は俺の肩を叩いた。


 まとめるとこうだ。

 柊木という男はなぜか入学して直ぐにかなりの生徒との交友関係を築いたようだ。人気のある部活動に体験入部し、ある程度の人間関係を構築すると、また別の部活に体験入部する。といったことを繰り返し、最終的にバレー部に入部した。

 まず、そこまでして友人を増やす意図が不明だ。

 さらに言えば、体験入部をそれだけ繰り返していながら他の生徒から反感を買われていない点も気になる。例えば「あいつは入部する気もないのに遊びで顔を出している」とか。容易に想像がつく。だが、一切そういった話は聞かない。

 俺は柊木という男に幾つかの不可解な点があるような気がする。動機と手段。

 そんなことは本来気にしなくていい領域だが

 これから柊木を説得するための切り口。そして何を隠して何を説明するか。

 柊木透という人物を整理していると俺の緊張感がより一層強くなった。バレー部の練習時間が終わる6時頃、つまりあと数分もすれば柊木を説得しに行かなければいけない。高坂の指示では近日中と言っていたが、まあ明日には連れて行かないと何かと文句を言われそうだ。

 体育館に目を移すとバレー部とバスケ部が入れ替わりの準備をしていた。両部活とも男女で部活が分かれているので、入れ替えの間はよりいっそう騒がしくなる。

 「一ノ瀬、そろそろ」


 「ちょっと話がある」

 初対面に投げかける第一声として正解かどうか分からないが、そう投げかけた。

 「ああいいよ。何か用かな?」

 柊木は急に話しかけられても当たり前のように、すらりと返事を返してきた。

 「九組の柊木だよな」

 「うん」

 「俺は一年の倉田。こっちは二年の一ノ瀬だ」

 話の切り出し方も考えてきたつもりだったが、いざ喋るとなると躊躇してしまう。

 「俺たちは生徒相談且つ職業訓練部って部活に所属してる。美術室で活動してるんだが、ちなみに知ってるか?」

 「初めて聞いた。変わった部活だね」

 「まあ、そうだな。名前が長いから略称としてセイカ部って呼んでる。名前の通り生徒の手助けとかをする部活だ。三週間前に設立して、顧問は赤浦先生。情報科目の。」

 柊木は落ち着いた様子で、俺の話に頷いているだけだった。てっきり自分から会話を主導するタイプかと思っていたから、少し面食らった。しかし冷たい態度ではなく、話はちゃんと聞いているからどんどん喋って――みたいな雰囲気が伝わってくる。

 「用件ってのは、赤浦先生が柊木に話があるそうだ。明日の放課後、俺らの部室に来てほしい」

 「どんな用件かは聞いてる?」

 「いや、俺たちもそこまでは聞かされてない」

  用件をまず先に確認するのは当然だ。叱責なのか相談なのかも分からないんじゃ返答にも困るのは仕方がない。柊木は困ったような顔を浮かべ、待っていても返答を返さない。

 「無理そうか?」

 「無理ってわけではないんだけど……」

 続けざまにこう言った。

 「さっきの……、赤浦先生が僕に用事があるっていうのは嘘だよね」

 え、という声がもれてしまった。

 確かに嘘だ、嘘ではあるが確証をもって見抜けるようなものでもないはずだった。教師が生徒づてに別の生徒をよびだすことなんて良くあることだし、そこに矛盾がうまれるとも思えない。実は直前に赤浦先生に会ったとか。だが、一学年にはまだ情報学科の授業はないし、別棟だから会うこともほとんどない。そもそも会ったところで赤浦先生は柊木の顔をしらないのだから仕方がない。

 この状況をどうするか。うかつに高坂絵里の名前を出して断られると面倒だと考えたのがかえって裏目にでてしまった。


 「すまない、確かに赤浦先生がっていうのは嘘だ。柊木を呼んでくるように言ったのは、教師じゃなくて一般生徒だ。ちなみに、なんで嘘だってわかったんだ?」

 悩んだすえに、素直に嘘がばれた理由を聞くことにした。

 「話になにか矛盾があったのか?」

 「矛盾とかは無かったよ。僕が嘘かなって思ったのは倉田くんが『赤浦先生が僕に話がある』って言ったときに、一ノ瀬先輩が倉田くんの顔をおもわず見てしまったからだよ。もしかしたら一ノ瀬先輩にとって想定外のことをしゃべったのかなって」

 柊木は申し訳なさそうに笑みを浮かべながらわけを説明した。一ノ瀬の方を見ると、やってしまったと言わんばかりに、開いた口を手で押さえていた。

 「一ノ瀬のせいじゃない。俺が事前に伝えておくべきだった。」

 「ううん、私は大丈夫。倉田くんがいろいろ考えてくれてるのは知ってるから」

 一ノ瀬も、〇〇〇

とても単純なことだったのだ。

 俺は、どうしたら断られず柊木を部室に連れていけるのか、嘘をつかっても話に整合性を持たせられるかばかりを気にしていたが、同伴者の反応も気にするべきだったのだ。

 

 「柊木に用があるのは俺たちセイカ部の部長、高坂絵里だ。ただ俺らも何の用なのかは本当にしらない。とりあえず近日中に部室に連れてくるように言われた。嘘をついたのは、ここまで話すと部室にすら来てもらえない可能性があったから」

 「たしかに。誰でも警戒しちゃうね」

 柊木はなおも笑みをうかべながら返事をした。

 「ただ、そんなに深刻な要件じゃないはずだ。明日の部活はあるか?」

 「明日は……休みだね」

 「ならちょうどいい。明日の放課後、俺が教室に迎えに行く」


 「これから一緒に帰るのはどう?」

 「すまん、このあと用事があるから」

 ほんとうは用事なんてないのだが、会ってすぐに長話というのは気が進まなかった。

 「そうか、じゃあ明日。教室で待ってるね」

 そう言って軽く手を振りながら柊木ははなれていった。


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