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風を悼む  作者: 暇庭宅男
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昼下がりの再会

「やあ、来たかい」

コンビニのコーヒーを2つ手にして、その人は笑う。

「あなたが四駆さんの?」

「うん」

私の問いかけに、コーヒーの片方をこちらに渡しながら彼は頷いた。



私はたぶん、知っている人を亡くしたのだ。

でもおかしい。亡くしたはずの彼のことを、私はちっとも覚えていない。ひとつだけ、彼のことを私が「四駆さん」と呼んでいたことだけが、忘却に取り残されてぽつんと、思い出の中に残っている。

目の前のくたびれたシャツを着た彼は、四駆さんのことを覚えている数少ない1人なのだという。日記代わりに書いていたブログに、四駆さんの名に反応してコメントを残した彼は、私と何度かの連絡を経て、今日直接話すことになったのだった。


「オレらの集まりってなんだか覚えてる?」

「いえ……覚えてないんです」

「おわー、そこまで記憶やられてんだ。」

「あなたは?覚えてますか?」

「うん、まだ思い出せるよ。あとさ、オレのことはビットって呼んでくんない?結構ショックなんだよね忘れられてんの。ゴッスンのことまあまあ友達だと思ってたから。」

「ごめんなさい……ビットさん。」


もー、とおどけて言ってみせる彼……ビットさん。彼の呼んだゴッスンとは、私の15年来のハンドルネームだ。この名前でリアルで関わったことのある人間はそう多くない。


ゴッスンとしての私は、病んだ気持ちをネットに吐瀉物のように撒き散らす困ったちゃんだ。


リアルでそれをすると周囲から疎まれることに感づいた中学時代から、ゴッスンの名でSNSやブログをふらふらと渡り歩きながら愚痴を吐き出し、代わりにリアルの私はなるべくどんな事柄にも、文句を言うことがないよう振る舞ってきた。


家族や友達、仕事場の人間は、ゴッスンの私を知らない。彼らがゴッスンのことを知らないおかげで私の身の回りには、まあまあ平穏でまずまず協力的な環境がゆっくりと形成され、それは今のところ揺らいでいない。


「うんとねー、先にゴッスンが四駆さんと知り合ってたの。オレがそこにあとで入ったんだよね。メンバーは一番多いときで7人いたの。マヤマヤとか、ペラっちとか。それも忘れてるかー」

「……うん。だめ。思い出せない。」

「みんな死んじゃったからなー」

そう。四駆さんの名前以外に思い出せるのは、そのこと。みんな死んだのだ。残ったのが私と、ビットさん。穴だらけの思い出の、余白の部分に、消しきれなかったメモ書きのようにそんな情報だけが記憶されている。

「ちょっとちゃんと話そうか」

ビットさんはコンビニのイートインコーナーを指さした。

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