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第3章:ユリ / 廃棄ヤードに落ちていたもの

人工の夕陽が、薄灰の空を燃やしていた。仮想都市オルディナの照明管理AIが作り出す、それは計算され尽くした“美しさ”だったが、本物の陽光を知らないユリには、その偽物の色すら、どこか懐かしく思えた。


廃棄ヤードは、そんな夕陽の陰に沈むように存在していた。


高層教育ブロックの裏側。教官すら滅多に立ち入らないこの場所は、学園から外れた存在たちの“終着点”だった。壊れた教材、旧型の補助AIユニット、成績不良で破棄された訓練用装備、使用履歴のないまま型落ちした義肢や義眼。


積み上げられたガラクタの山が、無造作に沈黙していた。


「ここって……」


コハルが、足を止めた。その声にはわずかな戸惑いが混じっていた。


「誰も来ない。監視カメラの死角。データ接続も圏外になる。」


ユリは手慣れた様子で、バリケードのように積まれた廃コンソールの裏へ潜り込んだ。小さな空間は、ふたりがようやく体を寄せ合えるほど。コハルも静かに続いた。


「ユリちゃん、どうしてこんな場所知ってたの?」


ユリは少しだけ間を置いた。そして、答えた。


「……昔、ある子が連れてきてくれた。名前は、思い出せないけど」


確かに一緒にいた。ユリの記憶には、古いスクラップの影のなかで肩を並べて座るもう一人の影がある。でもその輪郭は、どうしても霞んでしまう。


記憶は改竄されたのか。それとも、心のどこかで消すことを選んだのか。


わからない。ただ、その子の名前を呼ぼうとすると、胸の奥がひどく痛んだ。


「この学園ってね……できたのは、戦争のあと。“秩序戦後”って呼ばれてるらしい。テロとか内乱が続いて、都市が滅茶苦茶になった時期があったんだって。」


「……うん、ちょっとだけ、聞いたことある。」


コハルが頷く。ユリは、淡々と続けた。


「都市政府が、同じことを繰り返さないために作ったんだって。“選別と再教育”を徹底すれば、人は過ちを犯さないって。だから、記憶の一部が初期化されたり、感情の処理方法まで最適化されたカリキュラムを受けさせられるの。失敗しないように。間違わないように。」


「……でも、間違えなきゃ、何も学べないじゃん」


コハルがぽつりとつぶやいた。


「そう。でも、それが許されないのがこの場所。」


しばらくの沈黙。


コハルが、足元に転がっていた義手の破片を手に取った。柔らかい光が、彼女の瞳に反射していた。


「じゃあさ……私たちって、壊れた部品を直すためにここに入れられたのかな?」


「……それとも、壊れたまま棄てるためかもね」


その言葉が、思いのほか重く空気を沈ませた。


風が吹いた。金属の破片がカランと音を立てて転がった。


まるで、誰かの代わりに涙をこぼしたみたいだった。


そのときだった。


コンソールの影、鉄屑の山の奥から、わずかに足音が聞こえた。


ザッ、ザッ。


擦れるような靴音。誰かが、こちらに近づいてくる。


ユリは咄嗟に立ち上がり、コハルの前に出た。警戒心と、かすかな恐怖が胸を駆け抜ける。


「おい、誰かいるのか?」


少年の声だった。低く、どこかくぐもっていて、しかし妙に澄んでいた。


影から現れたのは、背が高く、痩せた少年。白銀の髪と、灰色の瞳。制服は着崩れていて、名札の欄には何も記されていなかった。


無表情のまま、彼はユリを見据える。


「……ここは、誰の場所でもない。だけど、誰かが来るとは思わなかった。」


「あなたは……?」


「リキ。識別IDは──もうどうでもいい。ここに来るのは、目的があるやつだけだ。」


ユリは、リキの目を見て、言葉を失った。


それはどこまでも透明で、それでいて深く、淀んでいた。何かを強く抑え込んでいる瞳。光と闇が綯い交ぜになったようなその奥に、ユリは見覚えのない既視感を抱いた。


「君たちも、“壊れたもの”か?」


リキが、静かに訊いた。


ユリは目を逸らさず、ただ小さく頷いた。


「だったら、同じだ。」


それだけ言うと、リキはコンソールの前に腰を下ろした。肩から覗く古い義体の接合部が、うっすらと光を漏らしていた。


その場に、誰も言葉を発さない時間が流れた。


けれど、それは不思議と苦しくなかった。


ガラクタの山のなかで、壊れた者たちが出会った瞬間だった。


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