第19章:ユリ / 夜明け前、最後の準備
寮の一室。灯りを落としたその空間で、ユリはノートに地図を広げる。地上ルート、地下アクセス、廃線となった列車の通路、通信用ジャマーの配置……。
「あと数時間。境界に仕掛けたトウマのパルスが発動すれば、一時的に警戒網は無効化される」
「その間に、私たちは都市外周の『回廊区画』まで移動するのね」
リキの声は低く落ち着いているが、その目は揺るがなかった。
「問題は警備ドローンとの遭遇率。EMP弾の数が限られてる」
「そこは私に任せて」
コハルが、廃棄ヤードで拾って修理した機械端末の背中を叩いた。
「“無害化モード”っていう昔の設定、まだ使えるの。コードちょっと弄ったから、1体ずつならハックできるはず!」
ユリは、静かにうなずいた。
そしてポケットから、小さなペンダントを取り出す。以前、ナナセがこっそり渡してくれたものだった。
「教官……ありがとう。今だけじゃなく、ずっと……」
窓の外。人工の星がゆっくりと軌道を移動し、システム上の「夜明け」が近づく。
彼女は深く息を吸った。
「いこう、みんな。出口は、自分たちで創るんだ」
■ 世界の構造
ここは、高度に管理された仮想空間「仮想都市」**です。
現実の肉体は別に存在し、人々の意識だけがこの都市に接続されています。
⸻
■ 仮想都市
国家規模のデジタル環境。
“最適な人間”を作るため、記憶・感情・人格などが制御・調整されている。
「個人」という概念は曖昧にされ、均質な社会を構築。
⸻
■ 学園(中央管理区域)
仮想都市の中核部に位置。
生徒たちは“再教育”と“最適化”を目的に通っている。
徹底的に監視・管理されており、脱走や自由行動は原則不可能。
名前や過去の記憶も含めて、システムによって一部抑制・書き換えられている。
⸻
■ 無名域(境界外の未管理区域)
仮想都市内の“端”にある管理の行き届かない空間。
通称:「廃棄ヤード」や「外周領域」。
学園の規則や教育から外れた失敗作、旧型端末、抹消された記憶の残骸などが集められている。
電波や監視が届かず、物理的にも視覚的にも境界が曖昧。
「無名域」は果てしなく広がっており、どこまで行っても“世界の端”が見えないように感じられる。
⸻
■ 境界の仕組み
高度な視覚制御・物理情報フィルタリングにより、学園と無名域の境目は明確に“見えない”。
通常の生徒は、無意識に「そこには行ってはいけない」と思い込むように設計されている。