第18章:トウマ / 遺された設計図
母が捨てたすべてを、受け継ぐと決めた。
仮想境界を超えるため、少年は“廃棄された都市の地下”へと向かう。
その場所に、答えがあると信じて――。
仮想境界の奥――それは、都市を包む電脳の膜。
現実と情報、命令と感情、その境を曖昧にする高度な干渉層。
この“壁”を破るには、母がかつて設計し、後に葬り去ったプロトタイプOSの鍵が必要だった。
「“最終バックドア”……起動コードは母さんが残したはずだ」
トウマは、誰も近づかない地下区画へ降りる。そこは旧・中央制御核跡地。すでに機能を終え、管理ログすら抹消された廃データセンター。
《Access: RESTRICTED // Clearance Required: L-0》
その警告を見て、トウマは少しだけ口元を歪めた。
「“親の権限”で入れるって皮肉だな……」
データジャックを接続。義手に埋め込まれたインターフェースが反応し、古いプロトコルに侵入する。
モニターが歪み、ノイズ混じりの映像が浮かび上がる。
《Project: SILENCER - Designer: Shirakawa Nanase》
それは、都市境界を制御する中枢コードの原案だった。
「秩序戦後」、反逆因子の動きを無力化するために設計された、仮想網の“殺人静寂”装置。
「……君はこれを作って、ずっと苦しんでいたんだな」
コードの隅に、母の手書きのログが残っていた。
“もしこの鍵を使う者がいるなら、お願い。閉じた檻を壊して。自由を選べるようにして。”
“……私は、自分の子どもにさえ、それを与えてあげられなかったから。”
トウマは拳を握った。怒りではなく、ただ哀しみと決意に。
「君の望みは、もう僕のものになった」
コードを読み解く。干渉領域を操作するプロトタイプモジュールを改変し、逃走ルート上の検知網を“盲目”にするアルゴリズムを書き換える。
目の奥で、思考が燃える。冷たい計算の先に、微かに温かいものがある気がした。
「これで、準備は整う……あとは」
ユリ、リキ、コハル。そして、母。
彼ら全員を、必ず“外”へ連れていく。